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あの女(マリルレーゼ「主人公の家庭教師」視点)

(主人公が五歳頃)



あの女の娘が私に頭を下げている。

気持ちいい!

あの女とは学園で出会った。

いや、私は学園であの女に目をつけられた。

きっかけがなんだったのかはわからない。

人を貶しておきながら、反論されると誤解されて悲しいと嘆き、影から他者を扇動して攻撃させておきながら、自分は相手を庇って優しい女性だと評価を得る。

外面が良いあの女を男たちは美しく聖女のように清らかな女性だと褒め称える。

あの女からの仕打ちに我慢できず、婚約者へ愚痴をこぼしたらそんなことを言う女だとは思わなかった、と言われて婚約を解消された。

数日後、元婚約者はあの女への求婚者の列に並んだ。

男はみんな馬鹿だ!

私の家は財政的に裕福ではなく、爵位や議会での発言権も低かったので元婚約者からの賠償金を貰って口をつぐんだ。

それからは学園で息を潜めて過ごすようにしていたのに、あの女は度々私の前に現れては人を悪者扱いした。

馬鹿な男共がそれに同調する。

それから時が経ち卒業が近づいたある日、父から手紙であの女の侍女になるように命じられた。

おそらくどこかから圧力があったのだろう。

それは理解しているが納得できる話ではない。

卒業後、私はカルテ伯爵と結婚したあの女の侍女になった。

周囲からはあの女の温情をむげにするのかと脅され、両親からはお願いだから屋敷には帰ってこないでくれと懇願された。

帰ってくるつもりなら勘当するとも・・・

選択肢なんて無かった。




あの女は馬鹿だ。

外面や人心を操ることには長けていたが、それ以外はまるで出来ない。

伯爵令嬢のくせに魔法理論の成績は最悪で、魔力量が多いからかろうじて実技はこなせていたがそれだけだ。

お金に関しては商人に騙してくださいと言わんばかりの無能さだった。

だから学園で私が目をつけられた、と侍女になってしばらくして気付いた。

あの女は仕事や義務をすべて私に丸投げする。

きっと学園で仕事を押しつける相手を探していたのだろう。

これは信頼して仕事を任せているとか色々言っているが、そんな言葉を信じる者たちも馬鹿だ。

世の中馬鹿ばかりだ。

そう思っても私には帰れる場所がない。

給金は出てもすぐにあの女に取り上げられるから蓄えもないし、私の話に耳を傾けてくれる者もいない。



転機は突然やってきた。

伯爵家にやってきた商人から布を買うことになった。

あの女が生まれたばかりの娘のために肌触りの良い布を伯爵にねだったからだ。

これは娘のことを気にかけていると周囲に思わせるための演技に違いない。

実際は娘のことなど全く考えてはいない。

私以外の目がないときは、臭いとか不細工だとか言っているのを知っている。

あの女が本性を見せるのは私の前だけだ。

これは信頼されているとかではなく、私の事は便利な道具であり言葉を話す人間だと思っていないのだろう。



別室で私が商人と細部の交渉をすることになった。

商人が私に布以外の商品を薦めてくるが買う物は決まっている。

余計なことをすれば叱責される。

必要な量を適正価格で購入するだけだ。

しかし何でも売っている、と言って商人はしつこく食い下がってくる。

うっとうしいので毒も売っているのか、と言ってやった。

まっとうな商人ならそんなものを持っているはずがない。

無いことがわかっていて聞いたのだ。

だが私は商人からの返答に息を呑んだ。

「良き薬も適量を超えれば害となり、毒も薄めれば薬になることがございます。扱いが難しいですが美容に良い物がございますよ」

旅商人の男が邪悪な笑みを浮かべた。

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