冒険は誰にも止められない(改稿あり)
ハッピーエイプリルフール
気の利いた短編か番外編を上げよかなって思ったけど止めだ止め。第二章が本格的にスタートする回です
「君はまだD級だからね。堂々と七層に降りるわけにはいかない。分かるね?」
「はい。前線基地が第六層と第七層の行き来を監視していますからね。D級である俺は、堂々と深層には降りれない」
「それが規則。一年の内に二回以上昇進は出来ないから、今年の内に深層に潜るのは不可能、通常ならね。まぁ、それをくそ真面目に守ってる奴なんて〈冒険者〉にいるわけないし、私も…それに当然君も規則守る気ないよね?」
「はい。冒険から逃げたくありませんから。何が何でも潜ります」
それが例え、冴子さんと袂を分かつことになろうとも俺は逃げない。
冒険で妥協したくないからだ。
―最も、そんなことなど微塵も心配してないが。
「てな訳で…、ここは私に任せてもらおうか。黙って潜って、A級を救った功績で、規則違反をチャラにする。私にアテがあるんだ。黙って潜る方法がね」
「食糧は必要最低限、第七層を抜けれる分だけで充分足りる。…行こうか。上から増援が来る前に、ぱぱっとね」
「本当に正面突破でいいんですか?正気ですか?」
「入口は他にもあるけど、人が通れる道は限られてるからね。大丈夫、喋らないで音を立てなかったら絶対に見つからないから。お姉さんを信じなさい、尊くん」
第七層に通じる入り口には、武装した警備員が立っていて、俺と冴子さんは壁の影からその様子を覗いていた。
「しー。手、握って」
人差し指を立て唇に当てながら、冴子さんは左手を差し出した。俺がその手を掴む。細くしなやかだけど、鍛えられている手。少しだけドキっとしたのは俺だけの秘密である。
すると不思議な感覚に包まれた。〈海神の駕籠〉に近い感覚だ。
「絶対に喋っちゃ駄目だからね」
そう念をを押すと、冴子さんは壁の影から身を出した。堂々と踏み出し、俺もそれに続きざる得ない。恐る恐る一歩を踏み出し、武装した警備員の前に躍り出る。
ええい、ままよ!
だが、摩訶不思議な事に警備員に一切気付かれることなく、警備員の前をいっそ不気味なくらいスムーズに通過できてしまった。まるで夢を見ているみたいだ。
警備員が警備する横を、普通に歩いて取り過ぎると人一人分通れるか通れないか程度の横穴を潜る。
〈冒険者〉の手によって後から作られた前線基地の建築様式でなく、第七層と第六層を跨ぐ巨大な城本来の空間が広がっている。
配線が通っていて、空間を文明の光が照らしているが、古い石造りの構造であり、年季の入った苔の類がいい味を出していた。
もともと、巨大な城"忘悠の城"の内と外に食い込む様に作られたのが前線基地なのだが、本来なら文明と遺跡が合わず珍妙な雰囲気になる筈を苔があることで不可思議で神秘を感じさせる空間となってる。
円柱状の空間に、真っ黒な虚空が大口を開けて構えてる。それが横穴を潜った先に広がっている光景だ。
上を見上げれば、何やら機械がごちゃこちゃしていて、リュウグウジョウお馴染みのゴンドラが虚空の上に吊り下がっていた。
冴子さんが先に乗り込み、後から俺が飛び込む。〈海神ノ蒼鎧〉の重量に加えて食糧等の重量も加算された俺が飛び乗るのだ。
ゴンドラが衝撃で揺れ、落ちそうになるが冴子さんが寸でのところで首根っこを押さえてくれたので落ちずに済む。
そして、そのままハンドシグナルで―――
要警戒、衝撃に注意
真意を問い質すよりも先に冴子さんがレバーを引き下ろし、歯車が駆動する音が聞こえたかと思うと俺たちを乗せたゴンドラが落下し始めた。
火花と金切り音が凄まじい轟音のハーモーニーと化して俺の耳を襲う。
こんなんじゃ、隠密も糞もない。間違いなく下にもダダ聴こえである。
全力で耳を塞ぐことに専念してると、ゴンドラが減速し始めた。
慣性の法則により、ふわっとした感覚と内臓がきゅっと締まる感覚が同時に襲いかかってくる。
「降りたら全身全霊の全力疾走するよ。わかった」
ゴンドラが完全に地についた瞬間。うるさい轟音に、警備員らしき人影が集まっているが、それを無視して俺と冴子さんは飛び出した。
ほとんど冴子さんに牽引される形であるが、今の俺は恐らく風になってる。
〈海神ノ蒼鎧〉のおかげか身体能力が底上げされた今、脇目を振らず全力で走っている。
風が顔にぶち合ってるし、風を切るレベルじゃない風量で耳が痛い。
あっという間に警備員を追い抜き、景色が目まぐるしく前から後ろへと変化する。
【ギルド】の規則を破っての遠征は、実に慌ただしいスタートを切出したのである。
嗚呼、リュウグウジョウの未到達階層が待ち遠しいなぁ。
異能について
迷宮遺跡が、迷宮遺跡に総てを委ねて深淵に挑む勇気ある者に気紛れで与える恩寵の一つ。超能力を与える異能から、武器の補正を与える異能もあったりして、その効果は千差万別。
勇気ある者の【願い】がある程度反映されるというが詳細は不明。原則一人につき一人だが、一部の天才は2つ3つも身に宿すことがある。天才の中でも選ばれた天才にしか与えられない希少な恩寵。祝福とは異なる。常時発動型と条件発動型の2タイプに分類できるらしい。
今回登場したのは、冴子さんの異能の一つ、〈隠密〉で気配を完全に断つ効果がある。音を立てない限り、認知は中々難しく五感に秀でた迷宮生物からすら気配を断てるらしい。一章で、尊きゅんが冴子に気づかなかったのも冴子が異能を使っていたからであり、尊きゅんの索敵がガバガバという訳ではない。




