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高校を中退したので〈冒険者〉になって、迷宮遺跡《ダンジョン》に挑む  作者: 鬼宮 鬼羅丸
第一章 されど止まりし刻は、再び動く(上)
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死を焚べる災禍津風、災臨

次回似て第一章完結。

 

今回の話も長いよ

 少し歴史の話をしよう。


 小笠原諸島は1968年にアメリカ政府から、日本政府に正式に返還された。当時世界を震撼させた『ダンジョン攻略用混合調査隊壊滅事件』を契機に米国政府がリュウグウジョウ攻略の一切を放棄したのが最大の原因であると言われている。


 リュウグウジョウは第二次世界大戦以前から日本が、世界に対して保有する切り札の一つだった。潜水艦の概念をくつがえす超希少な迷宮遺物レリクスや、安定した〈暴竜ドラゴン〉の国際市場供給、所在は分からずとも日本が秘匿する金の成る木であることが列強諸国からしては明らかで喉から手が出るほど欲する物だった。

 

 第二次世界大戦で米軍が小笠原諸島を占領した理由の一つが、リュウグウジョウなのである。小笠原諸島で気の遠くなる様な地道な聞き込みをしやっと辿り着いた米軍を出迎えていたのは……。


 もぬけの殻となった【ギルド】会館と、火が放たれた〈冒険者〉街だった。


 元々日本は、明治政府以降【ギルド】を厳格な政府の管理下に置き、軍の如く規律の採れた組織として編成し運用してきた。それ故に少数精鋭にして世界を上回る質の〈冒険者〉を確保できた。

 めぼしい資源がない日本の、現代へと通じる国家戦略である。


 一世紀に渡る成果を渡したくない【ギルド】側と、リュウグウジョウを他国に攻略されたくない時の日本政府の思惑は完全に一致していてリュウグウジョウにまつわる情報はすべて事前に本国に〈冒険者〉もろとも護送され、アメリカは1からリュウグウジョウを攻略するハメになったのである。


 

 アメリカ政府としては日本より優位に立つためにはリュウグウジョウの攻略は必須であり、アメリカ【ギルド】としても日本の【ギルド】に負けてはいられないと精鋭の〈冒険者〉と、最新鋭技術をふんだんに投入した特殊部隊による大規模な混合調査隊を結成しリュウグウジョウに派遣した。


 その快進撃は目を見張るものがあり、決して少なくない犠牲を出しながらも僅か20年という期間で強引にルートを開拓し第五層に到達してみせた。

 赫赫たる快進撃を魅せて米国政府に、リュウグウジョウ完全攻略も夢じゃないと希望を与えていたある日、

 ――彼らかの連絡が突如として途絶えた。


 今まで毎日電報を飛ばしていた調査隊の連絡が、突如完全に途絶えたのだ。待てども待てども連絡は一向になく、米国【ギルド】と米国政府は協議の結果、連絡断絶から5日目の時点で調査隊は壊滅したと認定。

 日米首脳は秘密裏に会談を行い小笠原諸島を返還することを決定、即日に米国政府は日本政府に調査隊の捜索を依頼した。


 日本政府は即刻【ギルド】に依頼を出して、その3日後(・・・)には生存者と最後の記録が持ち帰られた。

 その記録の解析結果が、世界に激震を与えたのだ。


 1000名以上からなる精鋭の部隊を歯牙にもかけず、圧倒的強さを以て蹂躙する天災が、荒ぶる神威が映像として記録されていたのだ。


 遥か以前からリュウグウジョウに関する民俗として伝えられ、まことしやかに囁かれていた天災・・。その実在が白日の元に、人々が畏怖する絶望として齎されたのである。


 【ギルド】は、彼の厄災・・をこう呼んだ。


  ――迷宮遺跡ダンジョンの禁忌


   ――忌む生ける厄災、


「【忌龍キリュウ】!!」



 

 【忌龍キリュウ】"死をべる災禍津風マガツカゼ"という二つ名を【ギルド】から贈られたリュウグウジョウ最凶の迷宮生物モンスターである。

 危険度は最高ランクである★★★★★★(生きた厄災クラス)。リュウグウジョウに数多く存在する二つ名持ち(ネームド)の中でも群を抜いて強く、その強さは深部の階層フロア守護者ボスと同等かそれ以上とされる。



 おどろおどろしい紅蓮の瞳で、俺を見下ろす目の前の存在こそが、その【忌龍】なのである。

 ギザギザした不揃いの牙の間からや、前足の付け根など様々な箇所から濃密な漆黒の瘴気を吐き出し、それを身に纏い、背筋があわ立つ様な地の底から響く重低な唸り声を轟かせている。


 正直言って相手をしたくない。今まで幾人もの〈冒険者〉に死をもたらし、A(ランク)にすら死を与えた厄災・・の相手など御免ごめん(つかまつ)る。


 だが、しかし本能が警鐘を鳴らすのだ。

 

 【忌龍キリュウ】から目を逸らせば、即座に死ぬと本能がしきりに警告する。



「グぎゃああああああ……」

 逃げ遅れた〈暴竜ドラゴン〉の一体が、急速に力を喪い地に堕ちる。それを皮切りに、逃げ遅れた”天空の廃墟”に生息する迷宮生物モンスターたちが次々に地に臥し死んでいった。

  

 目の前で繰り広げられる異常事態に、俺はただ呆然とするしかなかった。



 徐々に息苦しくなり、視界が霞んでくる。心臓が痛い。



 くそっ意識が…。




たけるくん、これ飲んで!!!!」

 遠のくだけに思えた意識が、冴子さんの声で一気に覚醒する。


 冴子さんが放ってくる小瓶を慌ててキャッチすると、脇目もふらずに飲み干した。

 途端に息苦しさがなくなり、元気に満ち溢れてきた。まるで生命力がみなぎっているように感じる。


「”母なる古樹(セフィロト)”の樹液から精製された〈生命の秘薬(エリクサー)〉さ!あいつの瘴気は命を削る、〈生命の秘薬(エリクサー)〉を飲んでも直接浴びたら死ぬから気を付けて!!」

 油断なく、決して【忌龍キリュウ】から目を離すことなく冴子さんは武器を構えた。


 俺も震える己を何とか律して〈衝撃斧ブラストアックス〉を構える。今までの迷宮生物モンスターとは格が一回りも二回りも異なる、次元が違う存在だ。


 全神経を研ぎ澄ませ、感覚を集中する。

 【忌龍キリュウ】の挙動一つ一つを見逃してなるものか!



 だが、取るに足らぬ弱者の準備など、脅威にすら感じないのか。【忌龍キリュウ】は俺と冴子さんが武器を構えているのにも関わらず堂々と目を閉じた。


「……これは、?」

 今まで吹いていた風が唐突に変わり、生暖かい風へと変化する。

 穏やかだった風足が急速に強まり暴風と化すのにそんなに時間はかからなかった。


 見事なまでの快晴だった空模様が、風が吹き荒れると共に曇っていき”天空の廃墟”に影が差す。

 おもむろに【忌龍キリュウ】が、いや”災禍津風マガツカゼ”が目を開けた次の瞬間、



―――雷が落ちた。 


大時化オオシケ、【忌龍キリュウ】の仕業だ!」

 冴子さんが言う様に、上空に集まった雲が仄かに光りゴロゴロと音を立て始め、しきりに耳をつんざく轟音が鳴り響き、ひっきりなしに稲妻が天と地の狭間を駆け巡っている。


 明らかに、”災禍津風マガツカゼ”の仕業だ。幻獣種に相応しく、嵐を自在に生み出す故に”禁忌”呼ばれるらしい。


 

 ”災禍津風マガツカゼ”は、紅蓮の瞳を俺たちに向けると咆哮をあげた。

 その刹那に、空が光り二条の雷が俺と冴子さん目掛けて落ちてくるが、すんでのところで転がり何とか躱すことができた。

 

 ”災禍津風アマツカゼ”は地を這う俺らを一瞥すると、興味なさげに四肢の力を緩め、その見上げる様な巨体をゆっくりと地に降ろした。

 どこまでも余裕ぶったその態度に、カチンと来た俺と冴子さんは武器を片手に飛び掛かる!なんてことはさらさらなく、踵を返して全力で”災禍津風マガツカゼ”から距離を取る。


 咄嗟の判断による行動だがそれは果たして正しい判断だった。

 

 ”災禍津風マガツカゼ”を中心に何条もの雷がカーテンの如く降り注いだのだから。雷のあまりの威力に”天空の廃墟”の遺構が吹き飛ばされしまうのも無理はない。


 酸っぱくも生臭くて、何処となく焦げ臭い香りが周囲に充満する。肌もピリピリするし…、これが俗に言うオゾンの匂いか。


 ―って、そんなことはどうでもいい。


 ”災禍津風マガツカゼ”は俺たち如き人間を鏖殺おうさつするに身体を動かすまでもないと、雷を次から次へと落としてただただそこに座していた。


 厄災・・からしたらとるに足らない攻撃だろうが、電気対策が致命的に足りていない俺と冴子さんには致命傷足りえる。仮に電気対策が万全だとしても、この規模の落雷は流石に耐えられないだろうけど。てか神経のある有機生命体にとっては致命的過ぎるわ。

 


 絶え間なく降り注ぐ、雷による絨毯爆撃。

 俺と冴子さんは、ただ歯を食いしばって耐え死んでいたわけではなかった。


「くらええええ!!!」

 〈切り拓く咆哮(クラウ・ソラス)〉を”災禍津風マガツカゼ”に向けて構えた冴子さんは、光の剣を放った。膨大な光の奔流が、雷をも打ち消し”災禍津風マガツカゼ”のに肉薄するが、空を切るに終わる。身体を逸らすことで、光線を躱したのだ。

 


 今まで俺らに対して何の反応も見せなかった”災禍津風マガツカゼ”であったが、俺と冴子さんをその紅蓮の瞳で見つめると、ワラった…様な気がする。

 ギザギザで鋭利な不揃いな牙が生え並ぶ口を開き、”災禍津風マガツカゼ”は先程とは比較にならない咆哮を放った。咆哮と共に風がより凶悪さを増し、雷だけでなく雨まで降りだし、天気は完全に嵐となる。



 絶え間なく降り注ぐ落雷と暴風が奏でる狂騒をBGMに、地に座した厄災・・はその巨体をゆっくりと動かした。少しばかり鳴りを潜めていた瘴気が再び荒れ狂い、”災禍津風マガツカゼ”の身体を覆い始める。

 重厚な瘴気を肌が見えなくなるまでに纏った”災禍津風マガツカゼ”は勿体ぶる様に、あるいは弱者に彼我の格の違いを見せつけるかの如く悠然と立ち上がる。

 ただ立ち上がる、それだけの何の変哲もないのないありふれた行動をしただけで厄災・・が放つ死のオーラも、重圧な気配に魂が震えあがる様な威圧感も、思わず膝をつきたくなる絶望感も。

 何もかもが、比較にならないまでに増して、ある種の暴力となって俺たちに襲い掛かってきた。


 正直、膝をついて慈悲を乞いたい気持ちはなくもない。


 こんな怪物を相手するなど御免被る。だが、俺は死如きに屈しない。例え何が立ちはだかろうと、…目の前の障害悉ことごとく薙ぎ倒してでも俺は前に進んでいくつもりだ。

 それはA(ランク)、とっくに何もかもを迷宮遺跡ダンジョンに捧げた偉大なる先達にも言えることで、俺と冴子さんは目の前に君臨する器を持った絶望から目を逸らすことなく睨み付けていた。

 目を見るだけで穴という穴から体液を垂れ流す錯覚をするが、それでも絶対に目を逸らしてなる物か。

 


 その瞬間、”災禍津風マガツカゼ”の瞳が、目の輝きが変わった……と思う。いや、思いたい。まるで人間が蟻を踏み潰すような作業に対する冷えた瞳でなく、爛爛とした闘気に満ち溢れた瞳。例えるならば、そう!檀五郎さんみたいな瞳だ。


 迷惑極まりないが、鏖殺おうさつするのみの取るに足らぬ有象無象―認めたくはないが雑魚から、自身が殺すに相応しい獲物・・として認められたのかもしれない。



「ぐげええぇ」

 何かが神速で迫ってくる!そう思った瞬間、俺は勢いよく吹き飛ばされた。

 咄嗟に〈衝撃斧ブラストアックス〉を合わせて防御を試みたが、結果は秒で力負けしてこの様だ。空中で錐揉みにされる中、何とか姿勢を整えた俺は二度三度転がることで衝撃を逃がし、ふらつきながらも立ち上がった。


 〈海神ノ蒼鎧〉ならば衝撃を消してくれるのでは?と思ったのだが、この迷宮遺物レリクスは絶対的な防御を与えるものではないらしい。


 再び何か迫ってくるが、それを躱し、俺はその正体を見極めることに成功する。神速の攻撃の正体、それは”災禍津風マガツカゼ”の尾だ。

 ”災禍津風マガツカゼ”は自身の尾を剣の様に自在に操ることで、剣戟の如き攻撃を繰り出している。


 それにしても、不味いな。直接当たっていないのに、息が苦しいし心臓が痛い。手足の感覚も、少しだけ薄くなった。

 尾に纏わりついていた瘴気が、〈生命の秘薬(エリクサー)〉の効能を超えて俺の肉体を蝕んでいるのだ。ただ近付くだけでも命取りになりかねない。


 なるほど、道理でA(ランク)も死ぬわけだぜ。嵐を自在に生み出し、致死の瘴気を身に纏う理不尽を相手しろとか無理ゲー過ぎるだろ、解せぬ。



 瘴気だけでなく、吹き荒れる風と吹き付ける雨が体表の感覚をも蝕み、止むことなく鳴り続ける雷鳴で徐々にだが聴覚が馬鹿になってきているのを感じる。



「くそがッ」


 俺は思わず悪態をつく。この理不尽をどう相手しようか。―正直勝てるとは毛ほどに思っていない。物資も武装も何もかもが不足している今、俺たちに勝機はない。

 どうにか隙を作り、……逃げ出す。それが今できる最善だ。



 俺に攻撃することにご執心な”災禍津風マガツカゼ”。冴子さんは”災禍津風マガツカゼ”の背後に回って〈雷轟纏いし剣(タケミカヅチ)〉を振るうも”災禍津風マガツカゼ”は避ける事無くそれを受ける。嵐を、雷を自在に操る身だ。雷など微塵も利きはしないのだろう。

 何事もなく脚を振り払うことで冴子さんを吹き飛ばした。


 そして凄まじい雄叫びをあげると"災禍津風マガツカゼ"は、その巨体から想像が付かない機敏な走りで俺に向かって駆け出す。

 右腕を掲げながらも、俺との間にあった数百メートルの距離をあっという間に詰める"災禍津風マガツカゼ"。奴の掲げる腕が纏う瘴気の量が増え濃さも増し、濃密な瘴気による陽炎の様なものまで出来ている。―まさか、厄災・・は…。


 迫り来る厄災・・の意図を察した俺は、〈衝撃斧ブラストアックス〉を右寄りに構え、その瞬間を見極めることに全霊を賭す。



「こんの野郎ッ!!!」


 "災禍津風マガツカゼ"が肉薄したその瞬間、奴が振り降ろす右腕―特に手の部分に俺は〈衝撃斧ブラストアックス〉を全力フルスイングでぶち当てる。

 受ける(・・・)のではなく、受け流す(・・・・)ことを意識した一撃である故に、"災禍津風マガツカゼ"の振り降ろす一撃を逸らすことに成功した。面で広く受け衝撃を逃しつつ、上半身をひねることで人間など容易く挽肉に変えうる攻撃の起動を強引に変えたのである。

 刃で受けるのでなく、面で逃した、が正確な表現である。


 相殺しきれなかった衝撃が俺を襲い、足に力を入れていたつもりだったが2メートルは押されてしまう。


 攻撃を逸らされた"災禍津風マガツカゼ"は、直ちに右腕を地に着けると右腕を軸に身体の向きを反転、そのまま噛み付いて来た。


「――ッ!!」


 瞬時に2歩3歩と後ろに後退り後退したので、"災禍津風マガツカゼ"の牙は血肉を捉えることなく空を切ったが、無造作に大地を蹴り距離を詰めて来る。

 

 猫と犬ほどの質量差があるので、ただぶつかられる(・・・・・・)だけでも、人間にとっては十分脅威だ。


 俺は咄嗟に〈天蜘蛛の巣糸(ウェブスレッド)〉の放出した糸を巻き取ることで、俺の体ごと横へ逸れて緊急回避に成功する。急速な加速で、ブチブチという嫌な音がして不快感が全身を襲う。

 回避の代償として右腕が持って逝かれたが、この程度の負傷は必要経費と割り切っておこう。

 そんなことよりも……。


 

「吸いすぎた…くっ。けぼっげほっ」


 咳に吐血が混じっている。さっきの攻防で出来るだけ息を止めたつもりではあったが力む際に思ったよりも吸ったみたいだ。瘴気がもう身体全体に回って来てしまった。


 冴子さんから渡された〈生命の秘薬(エリクサー)〉の小瓶を開け中身を一気にを飲み干す。許容を超えた生命力に胸が苦しくなったが、瘴気による苦しさとは異なる心地のいい苦しさだ。

 俺の体内を蝕む瘴気が〈生命の秘薬(エリクサー)〉の効能で中和されて何とか生きながらえている状況だが……なるほど数千人の部隊が壊滅する訳だ。


 瘴気もヤバイが、とにかく強すぎる。〈暴竜ドラゴン〉の頂点に君臨するだけはある。



「うおおおおお!!!!!」

 冴子さんが再び〈雷轟纏いし剣(タケミカヅチ)〉で斬りつけるが、"災禍津風マガツカゼ"は一瞥すると尾で受け止めると、尾をそのまま薙ぎ払う。が、冴子さんはその場にしゃがみ込むことでそれをかわして"災禍津風マガツカゼ"の足元に滑り込んだ。


 俺はそれを見つつ、正面から殴り掛かる!


 冴子さんより俺を脅威と判断したのか、"災禍津風マガツカゼ"は俺に攻撃を仕掛けるが、


 ―その瞬間冴子さんの手元から光線が解き放たれた。



 〈大翼狼マルコシアス〉の肩をいとも容易く消し飛ばした〈切り拓く咆哮(クラウ・ソラス)〉の光が、"災禍津風マガツカゼ"の腹部目掛けて伸びる。

 "災禍津風マガツカゼ"は俺に攻撃を仕掛けている最中であり、回避することが困難であるかの如く俺には思えた。


 思えたのだが、光が吸い込まれる様に当たるその刹那の間に、…"災禍津風マガツカゼ"は猛烈な突風を放つことで強引に回避したのだ。




 俺や足元に滑り込んだ冴子さんは勿論。周辺に立ち並ぶ遺跡もろとも"災禍津風マガツカゼ"を起点にした一切合切を纒めて吹き飛ぶ程の凄まじい風を引き起こし、その突風をもって上空へ舞い上がったのだろう。


 落雷より被害が深刻とはこれ如何に???



 建物にぶち当たり建物もろとも背後へ吹き飛ばされた衝撃で、意識が朦朧とする。〈生命の秘薬(エリクサー)〉でドーピングしていなければまず間違いなく死んでいた。



「…こりゃあ強ぇえ。ははっ…これが迷宮遺跡ダンジョン、血肉沸き立つ冒険!面白い!」

 震える膝を叩いて活を入れて、俺は立ち上がる。


 大地に横たわる俺たちなんぞ、いつでも鏖殺おうさつ出来るだろうに"災禍津風マガツカゼ"は紅蓮の瞳でつぶさに見つめるだけだった。

 そして立ち上がったからこそ分かったことなのだが……何と、"災禍津風マガツカゼ"は光線を完全に躱し切れなかった様だ。脚から血が滴り落ちている。

 手負いの迷宮生物モンスターは、それこそ〈暴竜ドラゴン〉ですら痛みから咆哮を上げ暴れまわるというのに"災禍津風マガツカゼ"ときたら悠然と佇むだけである。むしろ瞳を煌めかせている気がする。最強として貫禄と威厳に満ちていらっしゃる。


たけるくん!合わせて!!」

 冴子さんが鋭く声を出す。俺は瞬時に駆け出すと、冴子さんの攻撃に合わせて"災禍津風マガツカゼ"に打撃を喰らわせた。



 俺も冴子さんも、"災禍津風マガツカゼ"の攻撃を紙一重で躱しては連携して攻撃し、冴子さんが後退する時には俺が攻勢に出たり俺が体制を立て直す時は冴子さんが怒涛の攻めを繰り広げたり。冴子さんと共同で攻め立てるが、"災禍津風マガツカゼ"は己が肉体一つで俺と冴子さん相手に渡り合っている。


 まず、全身を覆う鱗が硬すぎて、A(ランク)随一の怪力を誇る冴子さんの攻撃すらまともに通らない。


 次に、冴子さんと攻撃する時間をずらしたり、あるいは片方が攻撃している内に回り込んで別方向から攻撃するなど、必死に撹乱しているのだがことごとく"災禍津風マガツカゼ"は対応してくる。一見死角に潜り込んだと思っても、背後にも目がついてるかと疑わずにはいられない勘の良さ、あるいは感覚で察知し意に介さない。


 どこまで己の肉体を完璧に使えれば、"災禍津風マガツカゼ"の領域に到れるのだろう。瘴気を完全に無効化できたとしても肉弾戦で勝てるビジョンが浮かばない。



 俺たちがこうして戦えているのも"災禍津風マガツカゼ"の気紛れ、厄災・・の慈悲によるものだと否応なしに自覚させられる。天と地ほどある差を、切り結べば切り結ぶほど感じてくるぜ。





 だがこんな所で諦めてたまるものか!必ず活路を切り拓いて―


「――あれ?」



「―ッ、たけるくん!!!」 


 一気に視界が低くなる。そして、背中に硬いものが当たる感触が伝わり、俺の視界に荒れ狂った空が映った。


 雨が肌に当たる。痛い、冷たい、寒い。


 風が顔に当たる。痛い、痛い、冷たい。



 嗚呼ああ、そうか。連戦に連戦で、疲れも抜けていないし、予想よりも長引いた遠征に、身体はとっくに限界だったんだ。


 


 勝てる訳がない。

 臂力も、筋力も、持久力に耐久力も。何もかもが次元が違う。矮小な人間ニンゲン如きが敵う道理なんて、最初からなかったんだ。


 リュウグウジョウは見抜いていたのかも知れない。…俺の限界に。……俺如きが迷宮遺跡ダンジョンの深淵に踏み入るなど、大冒険を望むなど身の程を弁えない愚考だと、迷宮遺跡ダンジョンはそう判断したから、厄災・・を遣わしたのだ。

 ………きっとそうに違いない。



 嗚呼ああ、耳が聞こえない。



 短い間だったけど、迷宮遺跡ダンジョンに挑めて良かった。

 檀五郎さんに逢えて、話が出来て良かった。


 

 冴子さんと、一緒に冒険ができて……良かった。楽し、、、かった。束の間の夢だとしても、…人生で一番輝いていた瞬間だった…………。



 "災禍津風マガツカゼ"は、俺を見下ろすと口を開け、ゆっくりと顔を近付けた。


 冴子さんが何か叫んでいるけど、もう何も聞こえない。



 …………嗚呼ああ、本当に楽しい冒険だった。けれど、一つ心残りがあるならば――、もっと冴子さんと………。


 一緒に冒険がしたかったな。





 "災禍津風マガツカゼ"の口腔が見える。


 自分の最期くらいはしっかり見ようと目を見開き、その瞬間を待つ。



 だが待てども待てどもその瞬間は来ず、"災禍津風マガツカゼ"の頭部、あるいはその近隣の建物や地面で次々と爆発が起こる。次から次へと砲弾が飛来し爆発を引き起こすのである。


 

 一体、誰が。

 


 ガバッと首を上げると、"災禍津風マガツカゼ"は怒りの咆哮と共に龍の息(ブレス)を放つ。

 それは、おびただしい量の瘴気の奔流である。雷を伴いながら龍の息(ブレス)は、"天空の廃虚"遠方を飛んでいた飛行艇にぶち当たった。

 4隻あるうちの3隻が爆発しあっという間に炎に包まれながら轟沈するのを見届けながら俺は意識を手放した。



 不謹慎にも、ああ良かったと思いながら。











 世界に君臨する五柱の龍。


 その頂きは遥か高く未だ地につくことを知らない。

 

 迷宮遺跡ダンジョンが秘めし神秘を護り、迷宮遺跡ダンジョンの奥底でと赫赫かっかくと光り輝く深淵を照らす星。



 ――汝、【鍵】足り得るのか?



 ――汝が【筺】を開けりし資格ある者か。【筺】を開ける【鍵】に相応しき者か、我が深奥にて選定してくれよう。

 さあ、来るがいい。闇より深い迷宮遺跡ダンジョンの奥底に。



 ―――闇にくすむこと無き、迷宮遺跡ダンジョンの闇を払拭する光り足り得るならば、立ちはだかる闇を切り拓き我こそ資格者なりやと武を以て示せ!



 『■■■■』、■■■■の到来まで直ぐそこだ!






 

 時の止まった時計の針。歴史が再び動き出す時は、近いのかもしれない。


 歴史が変わる日は、――近い。



飛空艇について


金輪際登場しない可能性があるので後書きにて説明をば。


 

 リュウグウジョウ第六層の広大な土地を探索する為に開発された先人たちの叡智の結晶。空気よりも軽く非常に浮きやすい竜気と呼ばれるガスを浮力に浮かぶ船で、その船体は軽いながらも異様に頑丈な〈暴竜ドラゴン〉の骨格から作られている。竜気自体も〈暴竜ドラゴン〉の体内から採取される超希少な物。

 飛空艇1隻作るのに〈暴竜ドラゴン〉を2体潰す必要があり、〈暴竜ドラゴン〉が吐いて捨てるほど生息するリュウグウジョウ第六層だからこそ発明できた代物であり、仮にリュウグウジョウ外で作ろうとするなら日本円にして3000億は下らない超高級。


 ※作るのも大変で、そんなに量産できないのですが【忌龍】ちゃんは3隻も轟沈にしました……。





てか、頑張った。今までで一番頑張ったよ。色々な伏線も張ったしこれからも頑張りますり

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