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高校を中退したので〈冒険者〉になって、迷宮遺跡《ダンジョン》に挑む  作者: 鬼宮 鬼羅丸
第一章 されど止まりし刻は、再び動く(上)
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迷宮遺跡《ダンジョン》でありふれた営み、大自然は生きている

ゲームをやりつつの執筆。だが片手間と思うことなかれ。


なるべく情景が鮮やかに浮かぶようにと、推敲に推敲を重ねましたから。

 突烈風ガストスコールに吹き飛ばされて、落下する俺。

 

 なす術がなくただ落ちるがままだったが。


「ぐふう」

 再び腹部を強い力で拘束され、潰れたカエルの様な声が出た。


「にししっ。油断したでしょ?」

 冴子さんの投げた縄に、腹部が食い込んだのだ。

 ニヤニヤしながら見つめられ、顔から火が出そうになる。ものすごく顔が火照ってるし、きっと顔は今真っ赤だ。


「駄目だよ。考えことなんてしちゃ。歩きながら思考にふけれるほど、迷宮遺跡ダンジョンは甘くないんだから」


 冴子さんの凄まじい怪力で引き上げられ九死に一生を得た俺は、気丈に前を向き、より一層気を引き締めて第五層に臨んだ。今度は、迷宮生物モンスターだけでなく、強風にも気を配る。

 前を向き続けるのは、決して冴子さんに真っ赤に茹で上がった顔を見せないためではない。予想外の危険にも瞬時に対応できるようにするためである。そこのところをはき違えないように。



 木の根に杭を打ち込み、〈天蜘蛛の巣糸(スタースレッド)〉の糸を使って、木の根(・・・)を降りるという斬新な移動手段で、何とか降り続けて。



「〈鳥蛇神(ケツァルコアトル)〉の大移動…、凄い」


 翼の生えた、白銀の鱗を持つ幻想的な迷宮生物モンスター、〈鳥蛇神(ケツァルコアトル)〉が推定40匹という規模の群れで移動する瞬間に、遭遇した。

 〈神〉の名を冠するに相応しい迷宮生物モンスターで、その尾羽は七色に光り輝き、絶えず銀色の粒子を纏っている。


 複雑な音響の声で鳴き、人間に聴こえる音域は極(わず)かだが、鈴の音を転がしたかの如く澄み渡った心地よい音色が、鼓膜だけではなく心をも優しく震わせるのだ。


 第四層より流れ落ちる海水が生み出す濃霧に、疑似太陽の光が乱反射して、きらきらと光り輝き、〈鳥神蛇(ケツァルコアトル)〉の白銀の鱗も日光を反射して、ダイヤモンドの様なキラめきを放つ。

 そして、そんな神々しくもある〈鳥神蛇(ケツァルコアトル)〉が、幻想的な大空に浮かぶ島々を背に飛んでいるのだ。


 それはあまりに神秘的で、あまりにも神々しい。



 まるで神話で起きた出来事を目の前で体感しているような。神々の戯れと言われても納得のいく、間違いなく神話として後世に語り継がれる、そんな光景だった。




「……それだけじゃない。まだまだ来るよ」

 いつの間にか背後に来ていた冴子さんが、人差し指を唇に当てて”しー”というポーズをする。

 岩陰に隠れて冴子さんと共にじっと息を潜めて待ち続ける。すると―。



 数えるのが馬鹿馬鹿しい程の数で、空を浮遊する海月クラゲ、〈星海月ホシクラゲ〉の群れが、下から上昇気流に流されてぬっと現れた。空を泳ぐかの様なぬるぬるとした動きで、空を漂うかの如く飛び回る。


 自由に飛び回っている様に見える〈星海月ホシクラゲ〉だが、群れ全体としては円柱を描いていて、その中心に当たる空間では別の迷宮生物モンスターが我が物顔で飛んでいた。


 頭部から生える、長い長い半透明な触手を風に逆らうことなく揺らしながら、海草の様な長い尾を揺らし、〈星海月ホシクラゲ〉をまるで従者が如く付き従わせる迷宮生物モンスター。タツノオトシゴの様な頭部にウーパールーパーのエラ見たいな捕食器を幾分も生やし、その口から雲を吐き出す”天女”と名高き迷宮生物モンスター、〈雲竜魚ソラミズチ〉が〈星海月ホシクラゲ〉の群れの中心で空を泳いでいるのだ。


 ぬるぬるとし、全体的に白いが端の方にいくにつれ白みがかっていく。そんな美しい外見をしているが、更には雲を口から吐き出しているのでより美しく見える。その姿はまるで空中で戯れる女神そのもので”天女”とはよく言ったモノだ。

 〈星海月ホシクラゲ〉の間からしか、ちらちらとその姿を拝むことが出来ないのだが、それがかえって神秘性を醸し出していた。



 〈雲竜魚ソラミズチ〉が〈星海月ホシクラゲ〉を付き従わせていると言ったが、正確には違う。

 体内で精製された老廃物を芯として、結露した雲を〈星海月ホシクラゲ〉たちが群がりながら食べている、が正しい。

 〈雲竜魚ソラミズチ〉と〈星海月ホシクラゲ〉は共生関係にあるからだ。

 〈雲竜魚ソラミズチ〉は、餌として老廃物、つまりは栄養価のある雲を〈星海月ホシクラゲ〉に提供する。だから、〈雲竜魚ソラミズチ〉を中心に、〈星海月ホシクラゲ〉の巨大な群れができあがる。


 ならば、〈雲竜魚ソラミズチ〉に対して〈星海月ホシクラゲ〉が一体、何を提供しているのかというと。


八咫烏ヤタガラスだ。……〈星海月ホシクラゲ〉を狙ってるのかな」

 足が三本あるカラスの姿をした迷宮生物モンスター、〈八咫烏ヤタガラス〉がカーカーとカラスそのものの鳴き声で鳴きながら何処からともなく飛来してきた。


「いや、あれは違う。〈星海月ホシクラゲ〉は喰わない。あれは賢い鳥だからね。あれが狙うのは……」


 上昇気流に従いただ漂う〈星海月ホシクラゲ〉の群れに突如として雷が割り込んで来た。


 〈雷獣サンダービースト〉の乱入である。


 自身の放つ稲妻に感電し動かなくなった〈星海月ホシクラゲ〉を、〈雷獣サンダービースト〉は片っ端から喰い荒らした。


 〈星海月ホシクラゲ〉は囮となり、自身の命と引き換えに〈雲竜魚ソラミズチ〉に安全を提供しているのだ。無論、脳のない〈星海月ホシクラゲ〉にその様な高尚な意思はない。栄養価の高い雲をいつでも食せて、さらには卵をその触手などに付けても怒らない温厚さを併せ持つゆえに〈星海月ホシクラゲ〉は、〈雲竜魚ソラミズチ〉と行動を共にしているのだ。

 肝心な〈雲竜魚ソラミズチ〉側は、きっちりと〈星海月ホシクラゲ〉を囮として利用しているが立派な共生関係にある。

  例え今、目の前の光景で語るとして。〈雷獣サンダービースト〉の居る方向に雲を吐き出すことで〈星海月ホシクラゲ〉を捕食者の居る方向に誘導して、〈雲竜魚ソラミズチ〉自身はなるべく遠くに飛んだとしても互いに共存しあっているのである。



 〈星海月ホシクラゲ〉を喰い荒らすことに夢中になっていた〈雷獣サンダービース〉であったが、何かに気付いて稲妻を巻き散らし一気に300メートルほど跳びはね距離を取る。

 

 丁度その瞬間に、先程まで〈雷獣サンダービースト〉がいた場所を、〈八咫烏ヤタガラス〉がまるで流星のような速さで通り過ぎて行った。


 〈雷獣サンダービースト〉は牙を剥いて、食事の邪魔をした無法者に放電の洗礼を浴びせるも、〈八咫烏ヤタガラス〉は放電による弾幕の間を縫いくぐる様に抜け出して被害なしで〈雷獣サンダービースト〉に肉薄する。

 しかし、眩い光が目を包焼き、突発的に雷轟が鳴り響くと〈雷獣サンダービースト〉は、〈八咫烏ヤタガラス〉の背後に逃げおおせた。


 バチバチと雷を放電させながら〈雷獣サンダービースト〉が、〈八咫烏ヤタガラス〉の首にかじり付こうとするが、〈八咫烏ヤタガラス〉は高速スピンすることで雷の射程外に出た。


 一向に有効打を与えられない苛立ちに両者は睨み合って咆哮をぶつけ合う  


 両者ともに一歩も譲らない白熱した命の奪い合いである。



「滅多に見れない現象、【獣海嘯マイグルメンド】だよ。たけるくんは運がいい。しかも、警戒心の強い〈鳥神蛇(ケツァルコアトル)〉の群れを見れるなんて、とんでもない豪運だね」


 本来いる筈のない捕食者に荒らされた生態系が、回復する現象。従来の生息域に〈迷宮生物モンスター〉が大群を成して帰還する現象を、俺たち〈冒険者〉は【獣海嘯マイグルメンド】と呼んでいる。


 その特性上、大規模かつ複数種類の迷宮生物モンスターたちの大移動になるのが常だが、まさか〈雲竜魚ソラミズチ〉の姿を一目、拝むことが出来るとは夢にも思わなかった。

 ものすごく珍しい現象で、その目撃症例は世界中で数件しかない。滅多に人間が拝めない、ある意味の奇跡で、写真一枚だけでも数百億の高値が付くことがあるという。


「……凄い光景だ。目が潰れてしまいそう。神々しすぎる」


 ならば、写真家コレクターたちは一体どれほどの価値を、眼前の光景に付けるだろうか。


 疑似太陽に照らされて白銀に輝く〈鳥神蛇(ケツァルコアトル)〉の群れが、浮遊する島々の間を飛行する幻想的な絶景。


 〈星海月ホシクラゲ〉の大軍を引き連れて、悠々自適に天空を泳ぐ〈雲竜魚ソラミズチ〉の醸し出す神秘性のある景色。〈雲竜魚ソラミズチ〉の吐く雲と、疑似太陽の光が丁度いい感じにマッチしている。



 そして最後は。片や雷を身に纏い、稲妻と共に天を駆け巡る〈雷獣サンダービースト〉と、大空を自由自在に目にも止まらぬ速さで飛び回る〈八咫烏ヤタガラス〉が繰り広げる、神話の一節かの様な天災ともいうべき戦闘風景。

 

 時折、雷鳴が響き稲妻がほとばしらせて、大地が抉ろうとも、漆黒が縦横無尽に飛び回る両者ともに一歩も引けを取らない緊迫した高速戦闘が、上記の幻想的な風景を背に繰り広げられているのだ。



 これは最早、宗教画と言っても過言ではないと思う。





「確かに滅多に見れるものではないけど、これくらいの獣災は深層ではありふれてるよ。それこそ、…私たちの目標である深部(・・)ではね」


 冴子さんの言う通りだ。


 この先の深部では、浅層とは比べものにならない程の危険な迷宮生物モンスターが多くなるし、迷宮遺跡ダンジョンの様子もがらりと変わる。


 迷宮遺跡ダンジョンが抱く神秘、その果てしない深淵に恋焦がれて、命をゆだねる確固たる覚悟のある者たちに、迷宮遺跡ダンジョンが牙を剥くからだ。


 想像を絶するという言葉では、言い表せないような危険や恐怖が〈冒険者〉を襲うらしい。


「さぁ、不必要に長居をして気付かれては面倒だ。出発するよ」




 迷宮遺跡ダンジョンは、人類に残された最後の神秘である。


 大衆を寄せ付けず、そが内包する神秘と、幻想は数百年経とうとも覚めることのない【憧れ】を齎し、人類に終わらない【夢】を魅せた。


 

 誰が造ったのか。何時いつ、出来たのか。


 全てが謎に包まれた迷宮遺跡ダンジョンを、俺たち〈冒険者〉はすべてを懸けて挑み続ける。

 旅路の果てに何を得るのか。何を得られるのかは決して分からない。だが、それども人類は挑み続ける。迷宮遺跡ダンジョンの果てしない深淵に魅入られた、迷宮遺跡ダンジョンの申し子が〈冒険者(俺たち)〉だからだ。



 未だ深淵を知らぬ若輩者だが、心の底から切に思う。



 嗚呼ああ迷宮遺跡ダンジョンとはくも素晴らしい場所なのか、と。





 ――そして。




迷宮遺跡ダンジョンは、…生きている。大自然は、確かに生命が根付いている。






俺たちの、……俺の、俺だけの冒険が。今、確かに始まった…ッ!!」



 


―――リュウグウジョウ第六層、間もなく到達。





第五層はこれにて完結。次回から第六層。駆け足です。




補足…〈雲竜魚ソラミズチ〉の吐き出す雲について


雲竜魚ソラミズチ〉の体内は超高温で、蒸し風呂の様に蒸し暑く、その吐息は水蒸気に満ちています。その水蒸気が、口から吐き出される粒子状の老廃物に結露して雲が誕生するのです。だから栄養はありますし、第五層の豊かな土壌形成にめちゃくちゃ役立ってます。


 以上。そのうち、一章が完結してからかな?迷宮生物モンスター図鑑を別枠で投稿します。お楽しみに♪


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