迷宮遺跡《ダンジョン》に挑む者、それが〈冒険者〉だ
1791年ジョージ・ヴァンクーヴァーによるオーストラリアの南沿岸の探索で、未知の建築様式を持つ正体不明の巨大遺跡群が発見された。当時の技術から逸脱した技術で建てられた、明らかに既存の文明に与するものではなく、英国は大規模な調査団を結成し遺跡の調査に向かわせた。後世で人類史の偉業と語られる、人類史上初の大規模調査である。
調査や探索で得られ本国に持ち帰られた出土品はどれもが出鱈目で規格外の品であり、神に作られた遺物だと祭り上げられ、例えどれだけの犠牲を払おうとも喉から手が出るほど人々を熱狂させた。
遺跡調査と発掘の為に、何期にも渡り調査団を結成しては送り出すこと約20年。
1812年にようやくアドルフ・カイルスウィンダー率いる第24期調査団が遺跡の攻略に成功した。アドルフ・カイルスウィンダ―による詳細な手記により、今まで神秘のベールに包まれていた遺跡の内部が明らかにされヨーロッパ諸国だけではなくアメリカや中国、そして一部の日本人たちもが熱狂することになる。
遺跡内部に隠された未知の文明の軌跡や、遺跡に息づく神話の獣たち、神話の神々が扱うような道具の出土品。どれもがロマンに満ちていて、まだ見ぬ神秘と大きな夢に人類を誘うのには十分だった。
アドルフ・カイルスウィンダーが遺跡を攻略した同時期に、世界各地で謎の遺跡群が次々に発見される様になり、国家は遺跡群の確保と調査に力を入れるようになる。それが、〈冒険者〉の誕生だ。
神々が扱うような奇跡の道具を迷宮遺物、遺跡自体を迷宮遺跡と人々は呼び、世界は迷宮遺跡時代を迎えたのだ。
〈冒険者〉が人々に齎す憧れは留まることを知らない。
人類が迷宮遺跡に抱く憧れは変わらず、熱狂は熱意へと変わり、熱意は意思として次世代へと受け継がれた。
人類に解けることのない魔法をかけた迷宮遺跡は、人類に覚めることない夢を与えたのだ。
その夢は科学文明の発展した今も尚覚めることなく人々に神秘とロマンを与え続けている。現在の科学文明は未だ迷宮遺物の神秘を解き明かすことは叶わず、迷宮遺跡の全貌は謎に覆われ、詳しいことは未だ不明のままだ。
迷宮遺物の製法も原理も正体不明で、迷宮生物の生態も種類も何かも推測の域を出ない。
未知を相手に〈冒険者〉は不屈の志と夢を武器に、神秘に暴かんとする。神秘に怯まず、未知を既知とする為に、死をも厭わずに迷宮遺跡に挑むのが〈冒険者〉であり、英雄なのだ。
だからこそ俺は〈冒険者〉に強い憧れを抱いた。別に親が〈冒険者〉であるとか特別な家庭に生まれた訳ではない。テレビで〈未踏破迷宮遺跡〉の未到達階層に挑んだ英雄を視て迷宮遺跡に強く惹かれただけだ。
〈冒険者〉になれば迷宮遺跡に潜れる。だから俺は〈冒険者〉になりたいんだ。人類に残された最後の神秘だとかご託はどうでもいい。迷宮遺跡に潜って冒険をして、少しでも神秘に触れることができればそれだけで満足だ。
てなわけで。高校を中退して、死に物狂いで勉強して〈冒険者〉の免許を取得した俺は、今迷宮遺跡に挑んでいた。
小笠原諸島南西の沖合で発見された〈未踏破迷宮遺跡〉リュウグウジョウ。発見されてから200年以上経つが未だに攻略されていない最高難度の迷宮遺跡の第二層に今いるのだが…。
結論、いくら〈冒険者〉とはいえソロで迷宮遺跡に潜っても冒険はできない。
そりゃそうだ。新米冒険者が安心して探索できる層の一つ下しか潜ってないのだ。簡単すぎて冒険のぼの字も見えない。雷降り注ぐ海原になったり、過酷な環境になるのは第四層より下からだけ。景色もまだ外と何ら変わらない、単なる草原が広がっているだけで何の冒険も出来ない。下に潜るには最低でも2人以上のパーティーを組む必要がある。
そんな慢心がいけなかったのか…『冒険を夢見る奴は即地獄に叩き落される』の意味を身をもって知る羽目になったのは。
「グゥオオおおおおおおおおおおオオオ!!!!」
鼓膜に響く凄まじい咆哮と共に巨大な生物が上空から降って来た。
未発達の短い脚に魚の足を持つリュウグウジョウ固有の迷宮生物、〈陸神鰐〉だろう。リュウグウジョウに生息する迷宮生物の中でも比較的弱いが陸に上がるとパニックを起こし暴れて手に負えなくなる厄介な生き物。川に居る時は一人でも十分に対処できるが、陸に上がってる状態だと重火器による支援を要する。
それが上から降って来るとは…なるほど、これが迷宮遺跡か。どれだけ警戒していても、危険が向こうから歩いて来るとは恐れ入った。
だが俺は諦めないぞ。仲間を作って、迷宮遺跡で冒険するまでは絶対に諦めない!
俺の冒険はまだ始まったばかりだァ!!
〈陸神鰐〉 危険度★★(初心者殺し)
リュウグウジョウ固有の水棲〈迷宮生物〉。水中に居る時は穏やかだが、陸に上がると荒神の如く狂暴化する。頭部が一番硬く、単純な突進が最も危険。足が極端に短く、ひっくり返ると起き上がることが出来ない。ひっくり返して柔らかい腹部に攻撃をするのが一番の対処法。ただし…。