「深部の玄関」それが第五層
4日ぶりにご機嫌よう!
「―これが第五層」
第一層や第二層の時みたく降りるのに、結構時間が掛かると予想していたのだが、あっさりと第五層に降りていた。いや、未だに下降中だが、下降し始めてから数秒で五層の光景が広がったのだ。
辺り一面、見渡す限りが水に覆われた第三層や第四層と異なり、第五層では澄み渡る綺麗な大空が広がっていた。だが、それだけではない。
窓の外から見える景色。そこには―。
「…島が浮いてる」
大小様々な島が、堂々と重力に逆らって浮かんでいた。
とてもつい最近まで【生態系厄災】で荒れていたとは思えない。
「―ッ!!」
島が浮かんでいる、思わず目を疑ずにはいられない光景に固まっていたのだが。突発的な突風が、巨大ゴンドラを襲い、ゴンドラを激しく揺らした。
「掴まってて。直に収まるから」
『第五層行きゴンドラをご利用いただく〈冒険者〉の皆様 にお知らせがあります。現在、突烈風が発生中です。大変揺れますのでご注意ください。また、安全確保の為に急遽停止することもございますのでご了承ください』
窓の外から、台風の如き轟音か聞こえてくる。たかだか突風でここまでの音が出るとは流石は迷宮遺跡、風すら規模が違う。
「ここにいると分からないけど、突烈風ってかなり強い上昇気流なんだよね。大の大人が一人吹き飛んじゃうくらいにはさ。そうでなくても、この層は常に下から猛烈な上昇気流が吹き荒れてて気を取られたら直ぐに吹き飛ばされちゃう。それに足場も不安定で、空飛ぶ島を伝っていくしか進む方法はない。それで、足を踏み外しでもしたら」
窓の外を眺めていた冴子さんが不意に下を向いたので、俺もつられて下を見る。
窓の下、ゴンドラの外の遥か下には青々とした海が広がっている。
六層の海だ。六層までの推定高度は4000メートル。落ちた時の衝撃は相当のものだろう。
―すなわち足を踏み外して落ちてしまうと…余裕で死ねる。
「にししっ否応なしに気が引き締まるでしょ?」
確かに気が引き締まる。
第五層は今までの階層と異なり、縦に長いのだという。だから第五層での移動は浮遊する島々や、島と島を這う木の根等を利用して、登るか降りるかの二つしかない。
「それに、ここは上昇気流を利用して暮らす迷宮生物の宝庫。そろいもそろって空を飛ぶから、地べたにそってしか動けない私たちは格好の餌だ。気を引き締めないと良い様に狩られてしまうよ」
まるで図ったかの様に、冴子さんが言い終わった途端に大きくゴンドラが揺れたかと思うとその場に停止した。
『緊急停止、緊急停止。迷宮生物が接近中。安全確保のため、緊急停止をいたします』
「キュエィエェエエエェエェ!!!」
カラスとサギを混ぜた様な甲高い耳障りな鳴き声と共に、カラスの様な外見をした迷宮生物が飛んで来た。
嘴が鋸のようにギザギザしていて、蝙蝠の様な骨が見える大きな金色の翼をはためかせ、ゴンドラを囲む縞々の隙間を縫う様な動きで接近してくる。
「〈金翅鳥〉か。【生態系厄災】明けでよっぽど気が立ってたのかな。よほど〈暴竜〉に縄張りを荒らされたと見える」
〈金翅鳥〉は真っすぐこちらに向かって飛んでいたのだが、ゴンドラに備え付けられた砲台から榴弾が放たれて、当たる寸前で榴弾を回避してからそのままゴンドラの頭上を通り過ぎて行った。
脚が退化し、代わりに尾が大きく長い〈金翅鳥〉の姿が真下からよく見える。
長い尾を風に靡かせながら堂々と飛んでいく様は非常に美しい。金色の羽から巻き散らされる金粉の光が尾を引き、〈金翅鳥〉が飛んだ軌跡に金色の線ができていた。
安全が確認されて再び動き出したゴンドラ。
何回かゴンドラの付近を旋回すると〈金翅鳥〉は、一際高く嘶き急下降して視界から消え去った。
「あれが〈金翅鳥〉…。綺麗ですね」
「あれの羽、一本一本から金粉がとれるからね。生体の価値は物凄く高いよ。海外の迷宮遺跡だと生体の取引が盛んなんだって。アジアの迷宮遺跡にしかいない希少種、ここのはサイズが大きいけど、環境が環境だから持ち運ぶのに適さないからそんなに需要はないけど…」
冴子さんがそこで一旦言葉を切ると、窓の外の一点を指差す。
「彼らは風を読むから、第五層を降りる時の道標になる。突烈風が切れるみたいだよ…ほら」
微かに残る〈金翅鳥〉が通った軌跡。たまたまゴンドラの降りる鉄線と重なっただけだが、軌跡に沿い始めるとゴンドラを襲う強風が不思議なことに止まり、ぴたりと揺れが収まった。
いや、まだ風は吹き荒れてゴンドラを揺らしてはいるが、少なくとも先程の突烈風ほどではない。
「本当だ。風が弱まった」
上下に激しく揺らされることもなければ、ブランコの如く横に大きく揺れることもない。〈金翅鳥〉は、風を読み風がない場所を飛んだのだ。
冴子さんは窓の外をただ眺めながら口を開いた。
「風を読んで風を利用するから彼らは道標足り得る。けども、そう油断してられないのが第五層なんだ」
風に煽られつつもゆっくりと降りるゴンドラ。
窓の外の摩訶不思議な光景に、俺は窓に張り付き目を皿の様に広げて見ていたのだが。
「ここは足を捨て空を選んだモノの楽園。私たち地を這う者には過酷な風もここに棲むモノには恵みになる。…鳥の王の次は〈多翼鳥〉の団体客だね」
窓の外をちらほらとそれなりに大きな影が勢いよく何度も何度も横切り続ける。
2対以上の翼を持つ鳥型迷宮生物、〈多翼鳥〉だ。たくさんの羽を持つ鳥たちが、集団で飛行している中をゴンドラが突っ切る形なのでたくさんの〈多翼鳥〉たちとすれ違う。
「大方巣を追われてたけど、〈暴竜〉たちが消えたから巣に戻る感じかな?どう思う尊くん?」
「ふぇ?あ、えと。そう思います。はい」
急に声を掛けられて素っ頓狂な声を上げてしまうがなんとか返事をする俺。
そんな俺の様子を、冴子さんは面白そうに笑っていた。解せぬ。
「まだ着かないんですかね?」
話題転換も兼ねて冴子さんに質問を投げかける。
すると冴子さんは懐から〈変わらず時を刻む時計〉を取り出し時間を確認すると、腕時計を見て。
「もうそろそろだね」
『ご利用の〈冒険者〉の皆様にお知らせいたします。間もなく第五層、中継基地に到着いたします。先の【生態系厄災】の影響により一部復旧ではございますが、何卒ご理解とご協力のほどを宜しくお願いいたします。〈中継基地〉に到着します』
アナウスと共にゴンドラが大きく揺れて、ゴンドラは完全に動き止めた。窓の外の景色も完全に止まった。
「ドアを開けるぞー!!とっとと降りやがれ!!」
アナウンスとは打って変わった怒号が響き渡る。そして、スライド式のドアを開ける様な音が聞こえた。
「降りよっか」
「はい!」
荷物を手に取ると、俺たちはゴンドラを後にした。
ゴンドラの入口から階段が伸びていた。階段を一歩一歩踏みしめながら降りる。
そして、
「ついに着いた。―ここが第五層、今回の遠征の目的地」
すぐ頭上の所を浮かぶ岩を見つつ俺は万感の思いを込めて言葉を溢した。本当ならもっと早く着いていた筈だったのが、この中継基地と呼ばれる島だ。
第五層は、リュウグジョウの深部へと繋がる、深部への玄関とも呼ばれている。
この、外の世界とは完全に異なる第五層を無事に降りきり、さらにその先に広がる危険地帯を物ともせずに突き進む者にのみ深部に挑む資格が与えられる。
「〈無双の乙女卿〉とその御一行〈超新星〉ですね。〈夜の明け星〉のご到着心よりお待ちしておりました。ささ、どうぞこちらへ」
そんな俺の感慨を、この女の子は一瞬でぶち壊しやがった。
ま、可愛いから許すけど。
29日中に、つまり今日中にリュウグジョウの概略図を公開します。ネタバレになっちゃうけど、しゃあないしゃあない。




