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高校を中退したので〈冒険者〉になって、迷宮遺跡《ダンジョン》に挑む  作者: 鬼宮 鬼羅丸
第一章 されど止まりし刻は、再び動く(上)
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再びの出立と、新天地への餞別

『緊急、緊急。【ギルド】より〈冒険者〉に通達。本時刻を以て【生態系厄災スタンピード】指定を解除、五層の封鎖状態が解除されます。上層標準時4時間後よりゴンドラの運転を再開いたします』


 その放送を聞いた時、俺は密かに安堵していた。

 辰巳さんたちが無事に【生態系厄災スタンピード】を鎮圧した何よりの証拠であり、同時に短い様で長かった封鎖期間がようやく終わりを見せるからだ。




 全ては上層標準時で7日前にさかのぼる。





生態系厄災スタンピード】という降って湧いた厄災により予定にない足止めを余儀なくされた俺と冴子さんは”龍寓宮”にある補給基地キャンプにしばらく滞在していた。


 第五層に挑む為の補給地点であり、〈冒険者〉が束の間の休息を満喫する場所でもある。

 海流を利用して発電し、得た電力を全体に供給することで迷宮遺跡ダンジョンの中であるのにも拘わらず現代的な生活を送ることができるのだ。

 正直、いきなり表れたそこそこ大きいビルに驚きしかないが。


「この基地を作るのにどえらい金額がつぎ込まれたんだぜ?日本が誇る最新鋭技術が惜しみなく使われてて、常に先端技術に更新されちょる。【ギルド】支部だけでなく、荷物や人の運搬も担っちょる」

 現代的を超えて近未来チックな内装を檀五郎さんが案内してくれる。


 第五層に設置してある観測機からのデータで、第五層の天気を予想する予報室。深部に潜る〈冒険者〉たちから得た情報を精査し、迷宮遺跡ダンジョンの全貌を追求する国家研究室。深層で発掘された迷宮遺物レリクスを一時的に保管する金庫室。はてはシャワールームやサウナまで、この施設のありたあらゆる箇所を檀五郎さんと共に見て回っていたのだ。

 ちなみに冴子さんは、色々事務手続きをする為に【ギルド】支部に居てここにはいない。


 そして――。


「この基地の一番凄い点は防御力にあるんだぜ。万が一、他国の軍勢に上層が占拠され孤立しても、籠城して抗戦出来っように作られてやがる。オイラも男だからロマンはわかる。更に凄いのはな。なn―」


「御歓談中のところ申し訳ございません。〈鮮血の銃皇(ゴア・ガン=カタ)卿〉、卿に至急お伝えしたいことが」


 檀五郎さんが気持ちよく説明をしたいたところにギルドの職員と思われる女性が割り込んできて来た。


「卿、”化石船の祭壇”を出立した後続部隊が直に到着する模様です。如何されますか?」


「ーあ"ぁ"?オイラも出迎えようじゃねえか。…坊主も一緒に来るかい?」

 檀吾郎さんは、俺に目配せをしてくる。

「日本が誇る精鋭を目にするチャンスだぜ?一同に会す機会なんてそうそうえ。一度くらいは面を拝んどいた方が、いいじゃねえか?滅多にないチャンスだぞ」

 

「折角のお誘いですし、少しだけご同伴に預からせてもらいますね」

 世界屈指の迷宮遺跡ダンジョン大国である日本が誇る精鋭の〈冒険者〉を一目見ることができる貴重な機会だ。みすみす不意にする選択肢はない。ここは乗るしかないね暇だし!





「おお!精鋭が選り取り見取りで、まるで人材の見世物市だね。他国が見たら羨むだろうな。【ギルド】もこの短時間でよく掻き集めれたなぁ」


 冴子さんがしみじみと呟いたがそれも無理はない。


 テレビでしか見たことの無い様な、有名な〈冒険者〉がちらほらいる。全員が神話級ゴッズの重装備で身を固めていて、凄く物々しい空間が広がっている。

 全身に装甲を身を纏う者、禍々しい双剣を装備する者、はたまた身の丈を超える巨大な斧を背負う者、〈冒険者〉たちは千差万別の格好をしていてまるで中世に逆戻りした様な光景だ。重火器で武装する者もいるにはいるが大口径の重火器が多く、やはり全体的に重装備でかなり仰々しい。 

 どうやって運んだのか迷宮遺跡ダンジョンの環境に合わせた特別仕様の装甲車まであり、さながら線上に赴く軍隊の様だ。


 補給基地キャンプ前の広場に〈冒険者〉たちが集まり【ギルド】職員による説明を待つ中、俺と冴子さんは会話に励んでいた。


「この人たち全員、B(ランク)なんですか?」

「そうだね。【生態系厄災スタンピード】鎮圧の為に編成された臨時のレイドだから全員B(ランク)だよ」


 中継基地キャンプ前の広場に50名以上の〈冒険者〉が直立不動のまま待機する光景に俺は感動を覚えていた。それと同時に興奮する。


「日本は全体数は少ないけれど質で他国を凌駕している…確かにこれは凄い。日本が迷宮遺跡ダンジョン界をリードする訳だ」



「よう、兄ちゃん。いいや〈超新星アルヴァノヴァ〉。久しぶりだな。兄ちゃんとはいずれ迷宮遺跡ダンジョンで再開すると思っていたが、まさかこんなに早くなるとは思わなかったぜ」


 集団の後ろ側にいた〈冒険者〉の一人が、こっそりと抜けて俺に話しかけてきた。

 禿頭の男性。もしかすると―。 


「貴方は?前に【ギルド】で会った」


「おう。ちょっと見ないうちにD(ランク)になるなんて…やはり俺の勘は正しかったわけだ。これは惜しいことをした。おっと自己紹介がまだだったな。俺は…辰巳、辰巳と呼んでくれ。―それと」

 急に黙り込んだ冴子さんに向き合うと、辰巳さんは深く頭を下げた。


「数々の非礼おゆるしください、〈無双の乙女(カーリー)卿〉。無免許シーフ無免許シーフ、どう取りつくろったところで許されざる行いには変わりありません。しかし、五百雀いおじゃくの言う通り卿の輝かしい功績は別です。 A(ランク)という赫々たる星を、若輩如きが貶してしまったことに深くお詫び申し上げます。卿は偉大であらせられる」

 無免許シーフという差別意識が拭えた今、辰巳さんの胸中にあるのは敬意なのだろう。”生ける伝説”そのものである、A(ランク)に対する尊敬の念と、今までの陰口に対する自責の念が伺い知れる謝罪である。しかし、そこにはB(ランク)冒険者の、英雄たるA(ランク)に向ける礼節が確かにあった。


「気にしてないから、いいよ。どんなにつくろったって、私が元遺跡荒し(ハイエナ)っていう事実は変わらないもん。…たけるくんは渡さないけどね。たけるくんは、私が必ずA(ランク)に育て上げるんだから」

 相変わらずの冴子さんからの高評価に、俺は思わず身震いをする。やはり、俺好みのお姉さんに褒められると背中がむず痒くなる。


 冴子さんの渡さない宣言に、辰巳さんまでもが本当に悔しそうな表情を浮かべて額に手を付いた。


「あちゃー。そこまでおっしゃるならば残念ですが諦めましょう。それに、未来の伝説殿を強引に勧誘したと皆に知られては色々と外聞がよろしくないことになりそうだ」


 辰巳さんは少しオーバーにそう言うと、わざとらしく肩を竦めて集団に戻っていく。



 そして、【ギルド】職員による最終ブリーフィングが始まった。


 檀五郎さんの登場に、今まで直立不動の姿勢を崩さなかった〈冒険者〉たちがざわめきはじめた。

 やはり、B(ランク)という高みに登り詰めた先輩方からしても、A(ランク)という”生ける伝説”は格上なんだ。そんな伝説と一緒に冒険を出来る俺は、間違いなく恵まれている。


 檀五郎さんは咳払いをすると、野太くもどこか人を落ち着かせる声でスピーチを始める。 

「時間がえから短く済ますぞ。今回の【生態系厄災スタンピード】はちょいとばかし規模がデけえ。気を引き締めて行きやがれ。〈暴竜ドラゴン〉の怖さなら身に染みてわかってるはずだ。そんな〈暴竜ドラゴン〉が七匹、六層から五層に”渡って”来やがった。しかもただの〈暴竜ドラゴン〉じゃねえよい。〈紅龍コウリュウ〉が2匹に、〈火竜フレイムドラゴン〉が4匹、そんでもって最後が〈雷狗竜リンドウルム強化種レックス】〉の傍迷惑な団体客だ」


 【強化種レックス】、原種よりも強い迷宮生物モンスターのことを示す業界用語だ。捕食者の生息域、もしくは生存に適していない環境で適応し進化した強力な個体を指し示す。

 強さも生命力も原種とは桁違いで、凶悪性も増して総合的に見ると【獣災星ディザスター】たちに匹敵するらしい。孤高の存在、【(REX)】が由来でとにかく厄介だと冴子さんは言っていた。


 冴子さんの言葉を微塵も疑っていないが、やはり冴子さんの言葉は正しい。【強化種レックス】という単語が、檀五郎さんの口から放たれた瞬間、精鋭である筈の〈冒険者〉たちが目に見えて動揺したからだ。

 僅かに喧騒が場を包み込むが、動揺は一瞬で直ぐに先程と同じ緊張感のある空気になった。

 いや、緊張感という点では先程を上回るかもしれない。流石は先輩たち、切り替えが早い。


「確かに【強化種レックス】は厄介だ。それだけでもお釣りが出てくるってのに、リュウも居やがるかんなあ。ひょっとするとオイラでも手こずるだろうよ。…だが、手が出せえ相手じゃねえよな?これだけいやあ何ら心配はいらねえ。お前たちならできる、オイラは信じてる。期待してんぞ。若者ども」


 〈鮮血の銃皇(ゴア・ガン=カタ)卿〉の純粋な期待に奮い立つ〈冒険者〉たち。士気は英雄の激励で、これ以上ないほど高まった。

 続いて【ギルド】職員が説明に入った。

 

「時間が無いので手短に。〈暴竜ドラゴン〉が第五層3分の2に進出、負傷者が出ていて余裕がありません。ご足労いただいたみなさんには、大至急五層に赴き事態の鎮静に励んでもらいます。詳しい説明はゴンドラ内にて、担当官が行います。到着そうそう申し訳ないですが、さっそく移動してください」


 本当に必要最低限の事情のみを説明すると、【ギルド】職員は第五層に降りるゴンドラへ誘導を始める。職員の誘導に従い〈冒険者〉たちが迅速な行動を始めるが、その中には当然禿頭の〈冒険者〉、辰巳さんの後ろ姿もある。

 

 この中で一体何人が無事に帰って来れるのだろう。俺の視線に気付いたのか、辰巳さんは振り返ることなく片手を上げた。


「へえ。以外に見どころあるね。あの、禿はげ男」

 冴子さんの呟きを全力で無視しつつ俺は第五層に赴く〈冒険者〉たちの後ろ姿を見送ったのであった。



 

 以上、回想終わり。




 それから上層標準時で七日経過して、場面は冒頭に巻き戻る。



 第五層に降りるゴンドラが運転を再開すると知ってから俺たちは大急ぎで準備をしていた。

 装備品の点検はもちろん、水や食糧を持ち運べるんだけ補給して、修理に出していた〈衝撃斧ブラストアックス〉も調子を確認してから回収した。

 冴子さんはというとゴンドラの席を予約したり、【ギルド】に色々と申請したりしていた。

 

 で、なんやかんやと準備を終わらせたわけだが。


「短い時間だったが、坊主。お前さんに会えてオイラは楽しかったぜ。久方ぶりにワクワクする模擬戦ができたし、弟子ってのも悪くはなかった」

 巨大ゴンドラに乗り込む前に、檀五郎さんが見送りに来てくれた。


「ちいとばかし照れ臭えが、お前さんの師匠になれてオイラは嬉しかったよ。まあ、だからと言う訳じゃねえが…ほれ!」

 檀五郎さんはそう言うと、懐から何か取り出して投げて寄越した。

 

 とっさにそれをキャッチするが、よく見るとそれは…。

「―時計?」

「―ちょッ!あんた、それって」


「〈変わらず時を刻む時計(ネバークロック)〉。深部に潜る〈冒険者〉御用達の、とある秘宝級レガシー迷宮遺物レリクスを加工した時計だい。だが、ただの時計じゃあえ。時間の流れが異なる深部でも、地上の時間が逐一わかる優れモノだぜ? オイラは二度と深部には行けねえ負け犬(・・・)だ。オイラが持っててもただのゴミになっちまうかんな、お前さんにくれてやる」


 今時珍しい機械式時計。されどそこには異なる時間を刻む文字盤が複数付いていた。裏には【ギルド】謹製の【ギルド】印が押してある。つまり、これは―。


「門外不出の秘匿遺物(アンティーク)ですか!?流石にこれは受け取れません!」


 【ギルド】が外部、政府にすら秘匿する〈冒険者〉の地位に深くかかわる迷宮遺物レリクス。それをたかだかD(ランク)の俺に渡すなんて正気の沙汰とは思えない。

 俺は慌てて〈変わらず時を刻む時計(ネバークロック)〉を返そうとするが止められてしまう。


「オイラの代わりに深部に連れって欲しいんだ。オイラはもう深部には潜れねえからせめてそれだけでもな。それは深部で使うために造られたんだからよ。こんな浅層でくすぶらせちゃならねえ。…それに深部に潜る若者に先達が餞別を贈るのが〈冒険者〉の習わしだ。だからつべこべ言わずに受け取れや、〈超新星アルヴァノヴァ〉。そんで… オイラの想い、深部に届けてくれや」

 悲しみがかげ指す真っ直ぐな瞳に、俺は根負けし受け取ることにした。


「…確かに受け取りました。いつか、深部に潜る際にも必ず持って行きます」


「…はぁ。私は、ただ先輩が餞別を贈るのしか見てない。だから【ギルド】には報告しない。さあ行くよ、たけるくん。もう時間だ」

 冴子さんが時計を見ながら促す。

 俺は色んな意味でお世話になった檀吾郎さんにぺこりと頭を下げると、後ろ髪引かれる思いでゴンドラに乗り込んだ。

 

 俺が乗り込み椅子に座ると、まるで見計らったかの如く扉が閉まる。そして、ガタンと大きく揺れ、ゴンドラが動き始めた。


 ゴンドラが第五層に繋がる穴を降り初めて、地面が徐々にせり上がってくる。

 窓の外の光景も、徐々に穴一色になり"龍寓宮"もこれでしばらくの間見納めだ。完全に見えなくなるまで、俺は窓の外の光景を目に焼き付けるために凝視する。


 完全に沈むまでの間、窓の外に見えた景色は徐々に上がっていく"龍寓宮"と、最後の最後まで俺たちを見送っていた檀吾郎さんだけだった。




――――――――――




「行っちまったか」

「そうですね。中々、小気味よい〈冒険者〉でした」

 完全に見えなくなる最後の最後まで見送っていた檀吾郎の独り言に、女性の【ギルド】職員が賛同した。しかし、その声に檀吾郎さんが驚いてしまう。


「げえ!お前いつからそこに居やがった!?」

「最初からですよ。私も〈超新星アルヴァノヴァ〉には好印象を抱いていたので姿だけでも一目見ようと」

「―確かに面白いヤツだったな。オイラも思わず気に入っちまったが……、―ん?お前、まさか」

 何かに気付いた檀吾郎。【ギルド】職員は、当然とばかり頷いた。


「ええ、もちろん見ていましたとも。まあ、しかし私も鬼ではありませんので特別に黙っていてあげましょう。…その代わり後で奢ってくださいね、卿」

 片目を瞑り【ギルド】職員は小悪魔めいた笑みを浮かべる。

 それに対し檀吾郎は、深い溜息を吐いて、力なさげに頷いた。それに対して勝ち誇った笑みを浮かべた【ギルド】職員であったが、不意にゴンドラが消えていった穴を振り返る。そして―。


「何処まで潜るんでしょうね、彼ら(・・)は」

「さあな。だが一つだけ分かることがある。あいつは、五層で満足するヤツじゃねえ。直ぐにでも深部に潜る様になるさ。そんで、必ずオイラたちに追いつくだろうよ」

「ふふふ、確かに。貴方に似ていますもんね、彼。彼なら、リュウグウジョウの底に辿り着ける気がします」

「確かに言えてらあ。オイラが憧れて挑み、ついぞ叶わなかった夢だったが、確かにあいつならやり遂げかねん」

 

 檀吾郎と職員は踵を返した。たが、檀吾郎は去り際にこう言った。


「オイラが挑み破れた夢の果て。それを掴むか掴まねえか、お手並み拝見といこうじゃねえか、〈超新星アルヴァノヴァ〉。この迷宮遺跡ダンジョン相手にどこまで行きやがるのか、楽しみにしてるぜ」




 未だ見ぬ第五層。深部への入り口と呼ばれるそこはどんな魔境が広がり、どのような危険が待ち受けているのか。

 

―それを知っているのは、挑む者だけだった

迷宮遺跡ダンジョン内の時間について


迷宮遺跡ダンジョン内では深層になればなるほど、時間の流れが遅くなる。そこで階層毎に標準時間を設定して、各層での活動がしやすいようにしている。標準時間は、迷宮遺跡ダンジョン内の各階層内の時間に従っている。リュウグジョウの場合、第一層での4日は、深部での1日に相当する。

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