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8 図書館とマックスさん

アリシアがマックスさん、と呼んだ猫背でヨレヨレの服を着たボサ髪の男は、ビン底眼鏡をクイと上げてアリシアを見ると口元をぼそぼそと動かした。


「・・り論の・・」


「あ、それ最近発表された精霊研究の本じゃないですか。私もその本読んでみたいんですよ。」



マックスさんの声は本当に小さく、しかも低いので何を言っているのか端から聞いているとわからない。けれどアリシアはその小声にきちんと返事をしている。



「・・・・・・」


「え?あと1週間借るんですか?あと3日にならないですか?」


「・・・・・・」


「そうですか、ありがとうございます!」



たまに隣を通りすぎる人が奇妙な顔をする。アリシアがマックスさん相手に一方的に話しているように見えるからだ。


アリシアは、このうだつの上がらない風貌のマックスさんと話すのが好きだった。


端から見るとコミュ障の変人にも見えるマックスさんだけれど、同じ本好きで、その知識量が半端ない。アリシアの知らない事をたくさん知っているので、話をしていてとても楽しいのだ。


何よりマックスさんは、自分が「女神の加護持ちのアリシア」だとは知らない。アリシアのことを唯一、普通の女の子として話してくれる相手だ。


マックスさんと喋ることが、今は図書館へ来る時の楽しみの一つとなっている。


マックスさんには負けるが、アリシアもかなりの量の本を読みこんでいる。この国の歴史や文化、科学や医療など多岐にわたる分野も大人と対等に会話できるほどには知識がある。


今日も興味のあることをひとしきり喋ると、アリシアはすくっと立ってマックスさんに頭を下げた。


「ありがとうございます。マックスさん。今日もとてもためになりました!」


アリシアはにかっと笑う。マックスさんの表情は髪と分厚い眼鏡に隠れてよくわからないが、同じように笑っていると思いたい。



アリシアは全く気づいていないのだが、アリシアが笑った時に、大樹の傍のまだ蕾だったはずの花がぽんぽんっと2輪美しく咲いた。


マックスは、アリシアが立ち去ると、先ほどまで猫背だった姿勢をピンと正し、優美な手つきで美しく咲いた花を手に取り呟いた。


「本当に面白い子だ。」


マックスがおもむろに立ち上がると、どこからか、一般人というには所作に隙のない2人の青年が現れた。


マックスは2人の青年を従えて、優雅な足取りで庭を後にした。


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