44 図書館とイザーク王子3
「それにしてもイザーク王子はヴァイオレット嬢に惨敗だったなー。獲得票1割って。出ない方が良かったよな。」
「1年次はSクラスだったけど、今やBクラスだし。当たり前って言えば当たり前か。」
「考え方も古そうだよ。あの取り巻きもこの前の王室騎士団の公開見学の時、相当ヤバかったみたいだぜ。」
「やっぱり今からはもう家柄だけの時代じゃないよなあ。同じ王族でも理事長とは大違いだ。」
ヴァイオレットが生徒会長に圧倒的な票数で当選してからというもの、こんな会話をアリシアは良く耳にするようになった。
高慢で威圧的な態度のイザークは、入学当初からボールやゴッグなど旧来の特権意識の強い高位貴族派閥には支持されていたが、商家など平民からの成り上がりたちを中心に形成された新興派閥や、高位貴族の中でも、ジェームスやヴァイオレットのような新しい時代の波に乗ろうとする革新派閥には支持が薄かった。
残りの中間層は日和見で、沈黙を貫きながらもその時々でより利益がある方へと付いていた。
その沈黙を貫いていた中間層が、生徒会長選を皮切りにイザークの悪口を口々に言い出したのだ。
態度は悪い、婚約者以外の女に現を抜かす、成績はがた落ち、取り巻きはしょうもない揉め事、そして生徒会長選の惨敗と、王子の権威はすっかり地に堕ちていた。
「今まで皆あんなにぺこぺこしてたのに。凄い言いよう。」
「今までは思っていただけの不満が口から出るようになっただけよ。けど、私はああいう陰でコソコソ言う卑怯なのは嫌いだわ。」
ヴァイオレットは、イザークを嫌ってはいるけれど、人の悪口を好んで聞く性格ではないので苦い顔をした。
アリシアも今まで散々嫌なことを言われはしたけれど、あの掌の返し様は嫌だなと思った。それに、妹のケイトの所為という理由が含まれているのが少しだけ申し訳ない気がする。
「ふん。好き放題言う奴らだな。」
アリシアたちの座るテーブルのすぐ近くから聞こえた、ボソリと吐き捨てるような呟きに振り向くと、イザークが冷めた顔をして自分の噂をする学生たちを眺めていた。
ひゃっと思いアリシアは軽く身構えた。
ヴァイオレットは横目でイザークを一瞥すると何もなかったかのようにすぐ視線を戻した。
イザークは身構えたアリシアと目が合うと、無表情に、呟いたのか語りかけたのか判らないような声を漏らした。
「どうせお前たちも同じことを思っているんだろう。」
いつものように俺は王子だぞなんて言いながら激怒するかと思っていたアリシアは、普段見ないイザークの表情や態度に何も言えなくなってしまった。




