38 ヴァイオレットの恋10
ボールとゴッグはその迫力にうっと怯む。
「なっ私の邪魔をする気かっ。私は宰相の息子だぞ。この女は卑しい平民でありながら、この私が欲しいと望んだものを順番だとか抜かして他の平民に先に売ったのだ!貴族より優先される平民などいる訳がなかろう!」
「そ、その通りだ。お前は騎士かっ?俺は騎士団長の息子だぞ?!無礼を働いたら父に言いつけるぞっ!」
何て、何てくだらないことで騒ぎを起こしているの?!アリシアはその傲慢さに腹を立てた。ヴァイオレットの目も怒りに燃えている。
「お前たちは・・!親の権力を傘にきて守らねばならぬ弱き者を虐げ、己が悪辣な行為を正当化するとは・・貴族とは、騎士とは何だと勘違いをしている!恥ずかしいとは思わないのか!」
セオドアが怒りを露わにした。周りで見守っていた平民たちも小声でそうだ、謝れと口にし、貴族たちは何事が起こったのかと心配気にその場を見守る者もいれば、宰相家に騎士団長家と聞いて、下手なことは言えぬという風情で目を逸らす者もいた。
しかしながら、そのおおよそがボールとゴッグの人としての未成熟さに眉を顰めていたのは確かであった。
「貴様っ!さっきから聞いていれば人を小馬鹿にしてっ。名を名乗れ!」
「そ、そうだっ!名も名乗れぬやつが我らの何を問うというのだ!」
・・お前たちがそれを言うのかと恐らく場の皆が思ったに違いない。
「私の名は、セオドア・カールトン。王室騎士団の騎士だ。」
セオドアはボールとゴッグを前に堂々とその名を名乗った。
周りで見ていた者たちはその堂々たる態度に騎士たるものの正しき姿を感じ、敬意を含んだ眼差しでセオドアを見た。
しかしボールとゴッグは、名前を聞いた瞬間、先程のまで怯み気味だった態度を一転させ、勝ち誇ったようないやらしい表情を浮かべた。
「カールトン、だと?なんだ子爵家ではないか。格下が何を生意気なことを!」
「そうだ!俺たちは伯爵家なのだぞ!お前ごときがそんな口を聞いて良いはずがなかろう。その場に膝まづいて今すぐ詫びろ!」
尚も悪態をつき続け、セオドアを貶める言葉を吐く2人にヴァイオレットが怒りのあまり火の大精霊の力を顕現させようとした時、ポンとヴァイオレットの肩を誰かが叩いた。
そして静謐さの中に力を秘めた声が場に響いた。
「そこまでにして貰おうか。」




