26 祝福
「こっちにおいで。」
マックスは、涙でぐしゃぐしゃの顔をしたアリシアの肩を優しく抱くと、図書館の奥にある部屋の扉を開けた。
「そこに座って。今温かい飲み物を出すから。」
言われるままに部屋の中央にある革張りのソファに腰掛けると、ほどなくしてアリシアの目の前にコトリと白磁のティーカップが置かれた。ふわりと瑞々しい果物のような香りが鼻腔をくすぐる。
まだ薄白く湯気の立つ液体を口に含むと、その温かさと優しい香りに、乱れていた気持ちが徐々に落ち着いていくのを感じた。
「何かあったの?今日は君の大好きな学園に行く日じゃないのかい?」
アリシアが黙って俯くと、マックスはゆっくりと柔らかな声で言った。
「僕で良かったら、話を聞くよ。」
アリシアは俯きながら、ポツリポツリと話し始めた。
「私は、生まれつき、少し人と違ってて・・それが元で、家族が、変になって・・周りも、変になって。妹は、昔から私の持ち物を、良く欲しがるけど、家族は、そんな妹の味方でっ。ごめんなさいっ、うまく説明できない・・っ」
話しているうちに気持ちが昂ってしゃくり上げるアリシアに優しい声でマックスが頷く。
「大丈夫だよ。わかるよ。」
豹変した両親のこと。妹のこと。婚約者のこと。妹を好きな婚約者との結婚が本当はとても嫌なこと。周りが自分という人間を見てくれなくて辛いこと。そしてー
「もしっ、私が、いなかったら、両親も兄も妹も・・周りの人みんなに、平穏な幸せが訪れてっ。私がっ、私がいるから、みんながおかしくなったんじゃないかって・・私は、私なんてっ生まれて来るんじゃなかっ・・」
アリシアが最後の言葉を発するよりはやく、暖かく大きな手がふわりとアリシアの頬を包んだ。
「生まれて来ない方が良かった人なんていないよ。」
ゆっくりと諭すような声が室内に響いた。
そしてその柔らかな声はこう続けた。
「もしかしたら、今の君の両親は、本当に君の言った通りの人たちに成り下がっているかもしれない。君の人と違う面は、周りを大きく歪め変えてしまっているかもしれない。そして、君は、君という人間を本当には見て貰えていないのかもしれない。それは、君にとっては紛れもない真実で、今見えている現実そのものに違いない。」
マックスは頬を包んでいた手で零れ落ちる涙を優しく掬う。
「そして、君は、神に、両親に、世界に祝福されて生まれてきたんだ。それに間違いはないんだよ。」




