2 妹
ケイトはアリシアの2歳下の妹。
3人兄妹の末っ子で子どもの頃に病弱だったこともあり、両親は兄妹の中でも特にケイトを可愛がっていた。
ケイトもそれを良く解っていて何か気に入らないことがあると、わざと咳き込んだり、気分の悪いふりをしていたのをアリシアは知っている。
初めのうちは、アリシアもケイトは本当に調子が悪いんだと思っていたけれど、ある時、それが演技だと気付いてしまった。
それはアリシアが7歳の時の誕生日のこと。
食卓にはごちそうが並び、アリシアの大好きなケーキはテーブルの中央に。両親はアリシアのために素敵なプレゼントを用意していた。
ふかふかのくまのぬいぐるみ。
アリシアが前から欲しがっていたものを両親が用意してくれたのだ。
「ありがとう。お父様、お母様!」
アリシアは目を輝かせ、にっこり微笑んでお礼を言った。両親はそんなアリシアに目を細めている。
その隣でケイトは羨まし気にじっとりとぬいぐるみを眺め、その腕を強く掴んだ。
「ケイト、これが欲しいの。」
ぬいぐるみを引っ張る力がすごく強くて、腕が取れてしまうんじゃと心配になりながらアリシアはケイトを宥めた。
「ケイトも誕生日になったらプレゼントして貰えるわ。」
「いやっ!!これがいいの!お姉さま、これをケイトに頂戴!!!」
なお強くぬいぐるみの腕を引っ張るケイト。
そんなケイトを両親が必死で宥め、ケイトは不機嫌そうにぬいぐるみを掴んでいた手を離した。
アリシアがホッとしたのもつかの間、ケイトが隣に座っているアリシアにしか聞こえないような小さな声で呟いた。
「・・私のものにならないなら・・」
えっ?いまケイトは何を言ったの?
アリシアはケイトの呟きに不安になったけれど、その後は不機嫌そうながらも黙って食事をしていたので気のせいだったのかしらと思い直した。
そして食事もすすみ、ケーキにロウソクを立てようとした時に、それは起こった。
「ごほごほごほっ!!!げほっ!!」
アリシアの隣に座っていたケイトが苦しそうに咳き込んで、テーブルクロスの端を掴んだのだ。
あっ!引っ張っちゃだめ!
アリシアはケイトを抱きしめようとするが、間に合わずケイトが咳をしながらテーブルクロスを思いっきり引っ張った。
ガチャンガチャン!
テーブルの料理は床に落ちたり、テーブルの上でひっくり返った。もちろんケーキも。
そして、くまのぬいぐるみはひっくり返った料理やケーキでぐちゃぐちゃに汚れてしまった。
「大丈夫なの?!ケイト!!」
両親はなおも咳き込むケイトに駆け寄り、胸に抱えて寝室に運んでいく。
ケーキもぬいぐるみもぐちゃぐちゃになって泣きそうなアリシアは、ぽつんと席に取り残され、両親に運ばれるケイトを呆然と眺めていた。
そして、お父様の胸に抱きかかえられたケイトは、アリシアと目が合うと、口の端を歪めて、にやり、と笑ったのだ。