17 理事長って?
ケイトのカフェテリア乱入事件はしばらく学園内での噂となった。
アリシアを良く思っていないチャールズやイザークたちは噂に乗じて妹を虐めている悪い姉として吹聴し、それを鵜呑みにするものもいた。
けれど、実際テラスにいた学生は王子であるイザークや高位貴族のボールやゴッグ、姉の婚約者であるチャールズにあからさまに媚を売るケイトの様子を見て良い感情を抱く者はいなかった。
結果、さまざまな噂が入り混じり、アリシアは加護を盾にする悪女であるともないとも、ニーダム家は混乱しているとも言われたけれど、あの場でアリシアが何の発言もしなかったので大炎上するほどではなく、思いだした時に話題にされる程度の噂に収束していった。
あの時、偶然庭園を通りかかってくれた理事長と場の状況を判断してくれたヴァイオレットに感謝である。
「本当にあの馬鹿たちにはほとほと参りましたわ。アリシアも苦労しますわね。」
ヴァイオレットは、未だにあの時のことを思い出すと腹が立つらしい。苦虫を噛みつぶしたような顔をするけれど、それでもヴァイオレットの持つ凛とした美しさは損なわれることがない。美人はどんな顔をしても美しいのねえとアリシアは思いながらまあまあと宥める。
「ヴァイオレットのおかげで乗り切れたからもう忘れましょうよ。けど、理事長ってすごい人気なのね。有名人なのかしら。」
「アリシア・・あなた、すごく博識なのに、たまに面白いこと言うわね。まあそこが可愛いんだけど。」
ヴァイオレットは骨董品でも見るかのような目をしてアリシアを見た。
そう、アリシアは、本や新聞などの内容に興味はあっても、生身の人に対しては圧倒的に興味がない。
女神の加護に寄ってくる大人や嫉妬を向ける同年代などを相手にしていたため人が苦手になっているのも一因だろう。
ヴァイオレットはそんなアリシアの性質をわかってか、理事長についてわかりやすく説明してくれた。
「理事長は、国王の年の離れた弟で、10年前に国の西端で起きた隣国との戦争を、その類まれなる知略でもってわずか15歳の若さで平定して、講和条約を結ぶに至るまでの立役者よ。国政にも関わっていて今や国王を支える国の最高頭脳とも呼ばれているわ。」
そういえば、若き王弟の半ば神話化したような逸話の本が何冊も図書館にあった。私も読んだ気がする。アリシアは思った。
「それで学園の理事長と、あとは確か王立図書館の館長もなさっているわ。」
そうなんだ。王立図書館も。
図書館と聞き、アリシアはぴくりと反応する。けど、そんな皆が振り向くような美形なんて見たことないから、図書館には館長の名ばかりで来た事ないのかもなあ。
ふんふんとヴァイオレットの話を聞きながらアリシアはそう思った。