16 なんとか助かった
アリシアは戸惑った。
学生たちの視線の中、どう切り返すかを必死で考えているけれど、どう対応したとしても王族と高位貴族を侍らしているように見えるケイトは顰蹙と好奇の対象だ。
「あの方が女神の加護を持つアリシア様?」
「やっぱりチャールズ様との不仲説は本当だったのね・・」
「けど、あんなに地味ではチャールズ様が嫌になるのもわかるかも・・」
「それにしてもあの妹さん、品がないわ・・」
「あんなに胸元の目立つドレスを着て・・」
「家の恥よ、恥ずかしくないのかしら・・」
テラスにいる学生たちのヒソヒソ話が聞こえてくる。
ニーダム家の恥をこれ以上晒すのは避けたいんだけど・・。
じんわりと嫌な汗が出てくる。
ケイトはといえば、自分に都合の悪い話はさっぱり聞こえていないようで、女子たちの冷ややかな視線にまるで気付かないのかこれまた大声で話しだした。
「お姉様ったら、昨日のチャールズ様との約束のように、私との約束も忘れてしまわれたの?ひどいわ・・」
悲劇のヒロインさながらに目を潤ませてチャールズにしなだれ掛かる。
チャールズはデレデレと鼻の下を伸ばしてニヤニヤとこちらを見ている。太陽の光のもとデコが輝く。
「やはりお前は酷い女だったのだな。こんなに美しい女性を悲しませて!」
「Sクラスの恥だ!」
「そうだそうだ!」
3馬鹿が便乗するようにチャチャを入れ、学生たちはアリシアが次に何を喋るのか好奇の目を向けた。
ヴァイオレットが、眉間に皺を寄せてチッと小さく舌打ちする。ヴァ、ヴァイオレット・・?相当怒ってる?
「お姉様、何とか仰ったらどうなんですの!」
アリシアに詰め寄るケイトの言葉に、場が最高潮に緊迫したその時。
「きゃー!!!!理事長よ!!!」
テラスにいた女子生徒の1人が金切り声を上げた。
その声に女子生徒がものすごい勢いで次々とテラスの隣の庭園の方向へと振り返る。
「本当だわ!!!今日は学園にお見えなのね!!」
「ステキ!!なんて麗しいの!!」
「ハアっ美しすぎて倒れそうですわ・・」
女子生徒たちが感嘆の声を上げる。
男子生徒は女子のそれとは異なるが、それでもかなり興奮しているのがわかる声を上げた。
「あれが有名な!」
「すっげーホンモノだ!!」
「わが国の知略の神だ!!」
庭園を見ると、立ち上がった学生たちの隙間から、背の高い銀髪の男性が見えた。
人だかりがすごくて顔までは見ることができなかったが。
先ほどまでの緊迫感は何だったのかというくらいすっかり注意が自分たちからそれ、それに気づいたヴァイオレットがアリシアの袖を引いた。
「今のうちに行きましょう。」
コクンと頷いてそろそろとドアを開け屋内へと逃げた。
ちらりとケイトを見ると、目をハートにして庭園に向かって奇声を上げていた。