13 困り事
ヴァイオレットとの出会いはアリシアにとって大きな出来事だった。
明るいヴァイオレットにつられてアリシアも自然と笑顔になる。
何より、初めての女友達だ。嬉しくないわけがない。
学園生活に楽しみが増えたことで、憂鬱だった家での時間も苦しさが前より薄れた。
家族関係は相変わらずだったけれど・・。
さて、学園が休みで来客がない日、アリシアはせっせと王立図書館へ通っていた。
最近のアリシアのマイブームは世界の犯罪捜査。国によっていろいろな自警組織や捜査法があって面白い。
「オカッピキ」なる自警団員がいる東の果ての国の捜査法など興味津々だ。
詳しくなったところで何か役に立つわけでもないけどアリシアの知識欲は満たされるのだ。
今日もひとしきり気になる本を読むと、中庭へと足を運ぶ。
大樹の下には、ボサボサ髪に眼鏡のマックスさん。
アリシアは自然と口元が上がった。
「マックスさん。こんにちは!」
ボサボサ眼鏡が本から顔を上げて口元をもごもごと動かした。
マックスさんに会うときは、以前だったら新しい本の話題が中心だったけど、今は学園での授業や友達であるヴァイオレットのことも話すようになった。
マックスさんは相変わらずボソボソ喋って髪と眼鏡で表情が見えないけど、学園のことを話す時、ほんの少だけ口元をほころばせる。そして、アリシアにしか聞こえない小声でこう言うのだ。
「・・・・・・(楽しそうだね)」
マックスさんと喋る時と同じくらい楽しいと答えると、(それは良かった)と返事をしてくれた。
それにしてもマックスさんは自分が図書館に来る時はいつもいる気がする。服はヨレヨレで髪はボサボサ、いったい何の仕事をしてるんだろう。今度聞いてみようかな、なんて考えながらアリシアは図書館を後にした。
家の前まで来ると、チャールズが来ているらしく公爵家の馬車が門扉に横付けされていた。
最近調子をぶっこいているチャールズは、ケイトに会うのに「婚約者のアリシアに会うため」という口実すら使わなくなった。つまり、アリシアは今日チャールズがニーダム家に来るということを知らない。
家に着くと案の定、母が血相を変えてアリシアを叱る。
チャールズは、まあまあアリシアを許してやって下さいと母の機嫌を取り、ケイトはケイトで、自分に会いに来たことをわかっているくせにニヤニヤしながらお姉さまひどいわとアリシアをディスった。
目の前で起こっている状況に、たまの休みくらいゆっくりと過ごさせて欲しい、とアリシアは目を瞑った。