11 ヴァイオレット・ヘレフォード
アリシアに助け船を出した声の主は、華やかに大きく巻かれた美しいブリュネットの髪が印象的な、Sクラス3位のヴァイオレット嬢だった。
女子の中ではアリシアに次ぐ成績で入学した才媛で火の精霊の加護を持っていると聞く。国の東端の領を治めるヘレフォード辺境伯のご息女だ。
悪いのはイザークとボール、その言葉に2人は激昂した。
「なんだと?我々の一体どこが悪い?この国の王子である俺の問いに答えぬ、貴族としての当たり前の礼儀もない女なんだぞ。本が破れたのも自業自得だ。」
イザークがヴァイオレットの発言に噛み付く。
「数字できちんと結果が出ているものに対して根拠のない発言をした挙句に、人の物を破いて謝りもしない。私も聞いておりましたが、あんな問いに何を答えられると言うのですか。学生の平等を掲げるこの学園で、身分を盾に礼儀を欠いているのはお2人の方でしょう?」
この学園では、何人も平等・対等たれと校訓に掲げられている。変わりゆく時代を担う貴族の子弟たちに、新しい価値観を作り出して欲しいと願う現理事長が打ち立てた方針だ。
ヴァイオレットの正論過ぎるほどの正論に、周りの学生も小さく頷く。イザークとボールは悔しそうな顔をしてぐっと喉を鳴らした。
「くそっ今日はここら辺で許してやるっ。ヴァイオレットと言ったな。覚えておけよっ。」
「辺境の田舎娘のくせにっ。」
イザークとボールはそう捨て台詞を吐くと、頭頂部あたりをぼりぼり掻きながら教室を出て行った。
「本当にあの馬鹿トリオにも参ったものですわ。目をつけられて災難でしたわね、アリシア様。」
ヴァイオレットはそうサラリと毒を吐くとアリシアに向かってニッコリと微笑んだ。
アリシアはまさか自分が助けて貰えるとは思ってもいなかったので目を丸くしたままヴァイオレットの方へと顔を上げた。
「あ、ありがとうございました。いつもはあそこまでやっては来ないので驚いてしまって・・。けれど、私のせいでヴァイオレット様があの2人に悪く思われてしまうのは心苦しいです。」
破れてしまった本は残念だけれど、修復すれば何とかなる。けれど誰かの人間関係が自分のせいで悪くなるのは嫌だった。
「そんなこと気にしないで。私もあの2人には常々思うところがあったし。それに、アリシア様とはずっと喋ってみたかったの。ねえ、せっかくですし、今日のお昼、ご一緒しません?」
お昼、クラスメイトとのお昼。
学園に入学してからいつもお昼は一人で取っていたので、アリシアは初めての学生らしいイベントに目を輝かせた。
「喜んで!」
嬉しそうに笑うアリシアに、ヴァイオレットも満足そうに微笑んだ。