10 Sクラスにて
学園での生活は人間関係以外はおおよそ満足のいくものだった。
もともと知識欲のあるアリシアにとっては、新しい知識を吸収できる授業は楽しみ以外の何者でもなかったし、学園の図書館は、王立図書館に蔵書量こそ負けるものの、ここにしかない貴重な文献も複数あったからだ。
Sクラスは10名の選抜クラスで、加護の有無も加味されるが主に座学成績で選抜される。
今年の1年生のSクラスは、男子7名、女子3名。
そのうちの2名は、例の金髪王子と黒髪眼鏡だった。赤毛の脳筋は、Dクラス。筋肉にすべての加護がいっているのだろう。
王子がイザーク、眼鏡がボール、脳筋がゴッグという名前だとお喋り好きなクラスメイトが教えてくれた。
Sクラスでは、10日に1度行われる小テストの成績でつど席替えが行われる。
1位から順に並ぶのだ。
アリシアは入学してからこれまで、ずっと1位の席をキープしていた。イザークは2位。ボールは5位から7位をうろうろしている。
「なぜ、お前のような地味女がまたその席なのだ。おかしいではないか。」
「そうだ、その席は本来イザーク様のような貴い方の座る席なのだ。」
今日もアリシアにくだらないイチャモンをイザークとボールがつけてきていた。
悔しかったらもっと勉強すればいい、アリシアはそう思うが、反論しても面倒くさいことになるだけなのが分かっているのでいつも黙って本を読んでいる。その態度がまた勘に触るのか、ますます2人はアリシアに盾突く。それが席替え後の恒例行事となりつつあった。
「イザーク王子がお声をかけているのにその態度は何だ。無礼だぞ。」
ボールが眼鏡を鼻息で曇らせながらアリシアに迫る。
そんなボールをちらりと横目で見ると、アリシアはまた本に視線を落とした。
いつもならばこの後、諦めて何かしら捨て台詞を吐いて席に戻っていくのだが、今日のボールは違った。
「おいっ!なんとか答えろ!」
そう声を荒げると、アリシアの読んでいる本に手を掛けた。
引っ張られた本の、開いていたページがビリリと嫌な音を立てる。
本が破れたのだ。
これにはさすがのアリシアも動揺した。
買ったばかりの本なのにとアリシアは破れた箇所を手で擦りながら唇を噛み締めた。
「な、お、お前が悪いんだぞ。お前が、」
「そ、そうだ。お前がそんな態度だから、」
なおも悪態を突こうとするイザークとボールに、流石にそれはひどいと周りで見ていたクラスメイトたちはアリシアに同情の視線をやるが、腐っても王族と将来の側近候補。下手に絡みたくないと沈黙した。
そんな沈黙を破るかのように、教室の後ろから高く美しい声が響いた。
「悪いのは、イザーク様、ボール様、あなた方ではありませんか。」