57話 クレーマー
「ふぁー」
昨日はもっと飲みたがるドーコを引っ張って帰って、その後水浴びをして別々に寝たんだったな。通りであの鳥が鳴かないわけだ。
「ドワルフー朝ご飯出来たよー!」
しかもドーコの方が先に起きてる。
「わかった今行く」
洗面所で顔を洗いドーコと食卓につく。
「おはようドーコ。それにしても今日は早かったな」
「おはよう! そうだよ普段ならあんなに眠ってばかりの私じゃないんだよ!」
「それじゃあ」
「「いただきまーす」」
今日も卵焼きだ。流石にこう何日も続くと飽きてきそうだな。ドーコの方を見ると褒めて欲しそうな顔をしている。
「よく1人で作れたな。もう完璧に卵焼きは作れるってわかったし今度から別の朝ご飯にしようか」
「卵焼きの師匠から認められたよー! やったー! 確かに最近卵焼きばっかりだし別のにしよっか」
よしよし毎日卵焼きだけルートは回避されたぞ。
「「ごちそうさま」」
早速鍛冶場に向かって配信をつける。ずっと決めなくちゃいけないと思っていた事を配信で決めよう。今日の配信タイトルは『店の名前決めながら作業』これだ。
〔ドワルフ:おはよう〕
〔おはよう〕
〔よう!〕
〔エマ:おはよう。今日は少し早いわね〕
〔ドワルフ:まぁな〕
そう言って俺は鉄ではなく魔物素材を取り出し加工を始める。こっちの方が売値が良かったのと、今度はドーコが鉄を使いたいと言ったのでバランスを考えて俺が魔物素材担当になったのだ。
〔ドワルフ:タイトルにもある通りなんだが、早速この店の名前を決めたい〕
〔そんなこと重要なのか?〕
〔ドワルフ:確かにドワーフの村ではみんな店の名前をつけてなかったが、ここまで大きな国となると名前があった方法が便利なことが多いんだ〕
〔ほう。そういうもんなのか〕
〔それにしても店名ねぇ〕
〔俺たちは決めたことがねぇからさっぱりわからないぞ〕
あ……完全に失念していた。店名を付けてないんだからそんな店名がいいかもわからないよな。
〔ドワルフ:じゃじゃあエマ! エマなら何かいい案思い浮かばないか?〕
〔エマ:本当ならエルフの特徴を押し出した店名にしたいところだけどタイミングが悪いわよね〕
〔ドワルフ:そうだなーあの勇者のせいで。あっそうだ昨日実は大量のヒューマンにフォローされる機会があってな。もしかしたらエマがエルフだってバレると不味い事になるかも知れないから、その事は隠してやっていこう〕
〔エマ:わかったわ。最悪バレても無言で見ておくわね〕
そこまでして見てくれるなんて配信者冥利に尽きるな。
〔ドワルフ:ありがとうエマ〕
〔他に特徴って言ったら卵か?〕
〔あー確かにチラッと髭の合間から見える卵が印象的だ!〕
ふむ卵か。俺もこの世界に来たばかりの卵みたいなものだ。じゃあ
〔ドワルフ:エッグスミスなんてどうだ?〕
〔いいんじゃねぇか?〕
〔卵を持った鍛冶師なんてそういないしな〕
〔エマ:面白いんじゃないかしら、ドーコも見た目は卵みたいだしね〕
〔ドーコ:私が卵見たいってどういう意味!?〕
〔ドワルフ:ゆで卵みたいに綺麗な肌ってことだ〕
適当に言って誤魔化す。
〔エマ:そうそう。そういうことよ。フフフ〕
〔ドーコ:なんか絶対違う気がするんだけど!〕
看板名も決まったし、早速看板を作るか。
「ドーコ! 看板を作るために鉄使うけど良いよな」
「うーん! いいよー!」
魔物素材で作っていたものは一先ず置いておいて看板を作っていく。細かい装飾もできるんだぞというアピールをするために普段以上に気合を入れて作った。やっぱり細いノミは良いな。今まで合ってないノミで無理やり細かくしてたのがかなり楽に作業が出来るようになった。かなり凝ったデザインだったが無事出来た。
「今日から俺たちの店の名前は『エッグスミス』だ!」
〔おぉーーーー〕
〔なかなか看板ってのも良いじゃねぇか〕
〔俺も作ってみようかな〕
〔まずは看板を持てるぐらい上手くならなきゃな〕
〔エマ:かなり力を入れたのね〕
〔ドワルフ:まぁそりゃこれからこの名前でやっていくんだから全力を込めて作ったぞ〕
時間が経つのも忘れて装飾したせいでもうすっかり昼だ。
〔どうして作業カテゴリなんですか?〕
お、初見っぽい人だ。
〔ドワルフ:新聞から来てくれた人かな? 俺たちの配信は作業配信がメインなんだ。冒険を期待して来てくれた人には申し訳ない〕
〔なんだよーせっかくマジックアイテムが見れるって思って来たのに〕
〔どうせだったら作業じゃなくて冒険に行けよ〕
〔『常闇の夜』を捕まえるほど強いんだから絶対冒険カテゴリの方が伸びますって〕
そういえば冒険者は昼から配信が多いのでヒューマンの視聴者もこの時間から増えたのか。
〔ドワルフ:いやいや作業もなかなか面白いもんですよ。ほらこれなんてどうです?〕
そう言って俺はさっき作ったばかりの看板を見せた。
〔そんなもの見せられてもなぁ〕
〔俺たちは冒険が見たくてフォローしたっていうのにがっかりだ〕
〔フォローはーずそっと〕
こうなることはわかっていた事だ。別にそこまで期待してはいない。ある程度の人数は減っていくだろう。
〔ゾルギン:まさかとは思ったが流石の技術力だな。鉄とはいえ俺より遥か上の技術レベルだ〕
ゾルギン!? あの伝説の鍛冶師の!? まさか新聞から来たのか?
〔ドワルフ:まさかゾルギンさんに来てもらえるとは光栄です!〕
〔ゾルギン:日課の新聞を読んでいたら最近見たことのある名前が載っていてな。少し見てみればわかるだろうと思い見に来たんだ〕
〔ゾルギンって誰だよ〕
〔馬鹿お前ゾルギンさんを知らないのか? 鍛冶師といえばこの人かドワーフだろ!〕
〔勇者パーティーの装備や王様の装備も作ったって聞いたぞ〕
〔そのゾルギン? が認めてるってことは結構凄いやつなのか?〕
〔さぁ俺も作業カテゴリはそこまで詳しくないからわからないな〕
〔凄いなんてレベルじゃねぇ! 奇跡だ!〕
〔ゾルギン:もしクレームがあれば俺に言ってもらおうか。ドワルフは作業カテゴリでも十分にやっていける才能を持ち合わせている〕
〔そこまで言われてもな〕
〔別に文句を言ってるわけじゃないんだ。ただ冒険が見たいってだけで〕
〔ドワルフ:すまない。いつか冒険カテゴリでも配信するからそれまで待っていてくれる人だけ、フォローしておいてくれればそれで良いよ。新聞から期待してくれた人には申し訳ない〕
〔こっちこそすまない。少し熱が高まってた〕
〔鍛冶も少し興味が出たしな〕
〔俺は外すかな。じゃあね〕
ある程度チャット欄も落ち着いたし、作業に戻るか。鍛冶場の入り口にさっき作った看板を掲げてっと。
よしバッチリだ! じゃあまた魔物素材での装備作りに戻るか。その前にゾルギンにお礼を言わないとな。
〔ドワルフ:ゾルギンさんありがとうございました。お陰で大炎上せずすみました〕
異世界に来てまた炎上するところだったがなんとか穏便に済んだ。
〔ゾルギン:ドワルフのような有望な鍛冶師が消えることは俺にとっても損失だからな〕
流石、伝説の鍛冶師だ。懐が深い。
〔ドワルフ:礼と言ってはなんですが何か俺に出来ることはありませんか?〕
〔ゾルギン:ではそうだな、一度実際に会って話をしないか? 俺はドワルフの境遇に興味がある〕
〔ドワルフ:それぐらいでしたら是非。俺も会ってみたいですし〕
〔ゾルギン:では待ち合わせ場所は商人ギルド前で〕
〔ドワルフ:わかりました〕
伝説の鍛冶師とこんなに早く仲が深まるとは。新聞に載ったのは悪いことだけじゃなかったな。シュドには感謝だ。
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