25話 VSスタンピードのボス
流石に森の中にまで、さっきの大竜巻は届かなかったので、大量の魔物が森に待機していた。ウゥーという角狼の唸り声が聞こえる。だがしかし俺にはこの大斧がある。
「ウゥーウゥーうっせぇんだよ!!」
出来るだけ森を壊さない様に、小さくだが、高密度の竜巻を何個も同時に発動させ、魔物達を切り刻んでいく。転生初日は、あんなに怯えていたこの場所で、無双できるほど自分が強くなったことに驚く。それもこれも、ドーコがこの大斧を持っていっていいと、言ってくれたからだろう。俺のハンマーは、多数戦に向いていないからな。
右上の視聴者数が5人になっていることに気づいた。まだ配信を切ってなかったな。まぁ良いこのまま行こうじゃないか。マジックアイテムの強さを広めてやろう。
道中アギリゴの実を幾つか見つけた。沢山持って帰ろうとしてたのに、鞄を持ってくるのを忘れていた。とりあえずドーコ用に一個だけで片一方のポケットに入れておく。
大斧をブンブンと振り、魔物を蹴散らしながら、森の奥へと進んでいくと、何か気配が強くなっているのを感じる。そういえばAランク冒険者じゃないと、倒せないって言う話だったが、俺で倒せるんだろうか? あんな大見えを切った今更、恐ろしくなった。だがここで逃げることは、ドーコを救えても、ドワーフを見捨てることになる。
確かに追放はされたが、だからと言って俺には、ドバンという心強い味方がいた。そんな村を見過ごしにして、ドバンとドーコだけ生き延びるなんてことをして、どこがハッピーエンドだ。それにドーコのお父さんはドワーフの長だ。見殺しにできない。せっかく俺が追放されてまで、一度救った命なんだ。こんなところで死なれては、もったいない。そんな事を考えながら森を進んでいく。
★ ★ ★
「お前がこのスタンピードの原因か!」
森の奥に、巨大な三日月型の角の生えた熊がいた。その熊が立ち上がり、こちらを威嚇すると、胴体に丸い満月のような円盤があるのが見えた。この大斧が効けばいいが。ブンっと大斧を振り回し、大竜巻を起こす。流石にボス戦ともあって周りの木に気をかけてはいられない。
が、しかし大熊は胸の円盤を盾のように、腕に装備し、その竜巻をかき消されてしまった。
「初めて作ったマジックアイテムだけで、ゴリ押し出来るほど甘くはないか……」
月角熊が、その頭に生えた三日月の角で突き殺そうと、突進を仕掛けてくる。その巨体からは、想像できない速さで、思わず当たりかけたが、寸前のところで胴体に、はめておいた宝石を発動させ、回避する。そして体当たりで、できた隙に思いっきり直接、刃に風属性を纏わせるイメージで、大斧を振り下ろす。しかし相手も反応が早く、盾で防がれてしまった。
「くっどうにもあの盾を真っ二つに切るにはこの大斧じゃあ分が悪いみたいだな」
俺は大斧を置き、この世界に来たから、ずっと持ち続けたハンマーに持ち変える。切るのが無理なら、衝撃で破壊する。それだけの力が、このハンマーにあると確信している。
相手もどうやらこのハンマーの強さがわかるのか、動きが慎重になる。俺と月角熊との間に緊張が走る。
その緊張の糸を切ったのは、聞き覚えのある声だった。
「おーいドワルフ! そいつはただの月角熊じゃない!! Aランク冒険者でも勝てるか分からない進化系の満月角熊だ!」
「馬鹿! ドバンなんで来たんだ! それにそんな大声を出したら」
突如、満月角熊が俺より弱いと判断したのか、ドバンの方に向かって突進を始める。
「クソ! こうなったら仕方ない、ドーコ後で説教ならいくらでも聞くからな!」
さっき足元に置いた大斧に祈りを込め、思いっきり放り投げる。
「俺に後ろを向けたのが失敗だったな!」
大斧は満月角熊背中に突き刺さった。
グワーーーという唸り声が聞こえたが、初めて受けた傷に満月角熊は激昂し始めた。取り敢えず俺は急いで、ドバンと満月角熊の間に入り、睨み合いを再び続ける。
「ドバンのおかげで、運良く傷を与えられたが、無茶はするなよドバン」
「それはお互い様だ! 今すぐ逃げるぞ! 流石に満月角熊相手じゃ、ドワルフでも相手が悪い。マジックアイテムを手放しちまったじゃないか」
「残念だが、もう逃げられそうにはないな。俺たちがここから逃げれば俺たちを追って来て、村は崩壊するだろうな」
「でも、それじゃあどうやって倒せば」
「俺に1つ案がある。もう一度さっきみたいに、満月角熊の注意を引いてくれ。その隙に俺が、こいつを一発ブチ込む」
そう言って俺はハンマーをドバンに見せる。
「そのハンマーでか!? まぁドワルフのことだ。信じるぞ。その作戦で行こう。取り敢えず俺は右方向へ逃げる」
「おう、怪我するんじゃないぞ」
ドバンが作戦通り、右方向へと逃げる。満月角熊もつられてそちらへ向かうかと思ったが、背中に刺さったままの大斧を、今度は満月角熊が握りしめた。無理矢理、体から引っこ抜き、それをドバンに向けて放り投げる。
「ドバン!!! 魔物のくせに賢いことしやがって!」
ニヤっと満月角熊が笑った様な気がした。
〔ドバン:なんとか俺は大丈夫だ……盾で防いだが腕の骨が折れちまって、囮はできそうにない……〕
ドバンが無事でよかった。
〔ドワルフ:とにかく茂みで隠れていろ〕
満月角熊の猛攻が始まる。ギリギリのところで回避し続けるが、いつまでも持ちそうにない。俺もここまでくるのに、随分と体力を使ってしまっていた。相手も背中の出血が酷く、このままジリジリと避け続けていれば出血死で、と思ったその時、相手の攻撃が俺の鎧を切り裂く。
「今朝作ったばっかりなんだぞ!!」
そんなこと言ったって、伝わらないのはわかってる。ここままジリジリと防いでいれば、勝てると思ったのに、相手はもう死ぬ覚悟が済んだのか、さらに攻撃を激しくなってきた。こうなったらこっちも死ぬ覚悟で挑むしかない。こいつさえ倒せば、最悪ドーコと村は助かる。
ドバンの倒れていた方向から、槍が飛んできて満月角熊の傷口へと突き刺ささった。咄嗟に満月角熊もドバンの方を見る。
「ざまぁみろってんだ」
その一瞬の隙を俺は見逃さなかった。俺は全身全霊をハンマーにこめて満月角熊へと叩き込む。相手も咄嗟に盾で防いできたが、その盾が粉々になり、そのまま盾、角、頭蓋骨全てを砕ききり、内部から破裂した。
「流石相棒のハンマーだな……」
ギリギリだったが何とか、勝つことができたな。
満月角熊の死体の中に、きらりと光る結晶のようなものがあった。貴重なものな気がしたので、一応拾って、もう片方のポケットに入れておく。
「やっぱり装備をしっかりしないとな」
魔物ですら、こんな立派な盾を装備していたんだと思うと、自分の貧相な装備が情けなくなった。
「違う違う今はそんなことじゃなくてドバン! 助かったぞ。大丈夫か?」
「忘れられてなくて、よかったぞ。大丈夫だ。俺は腕の骨が持ってかれただけだ」
もし満月角熊が、マジックアイテムを使えたら、不味かったな。確実に斧を突き破って、ドバンは真っ二つだっただろう。
「そっそうだ! ドーコの分は取れたんだが、ドワーフ達分のアギリゴの実を取らないといけないんだが、一度村に帰って、鞄を取ってこなきゃな。もう原因は倒したんだし、大丈夫だよな?」
これでドーコだけ助けましたー、じゃあ後味が悪い。
「アギリゴの実なら大丈夫だ。ほらドワルフが鞄を持っていってない事にちゃんと気付いたからな。俺がここにくる最中拾っておいたぞ」
よくやったとドバンの背中を叩く。
「いやー流石ドバンだ! ドバンがいなけりゃ、俺も村も無くなってたぞ」
バシバシとドバンの背中を叩く。
「イテテテ! そう思うなら、腕が折れてる俺に気を使って、揺らさないでくれ」
「悪い悪い! じゃあアギリゴの実拾いながら帰るか! ほら走るぞ!」
ちゃんとドーコが無事だといいが。
「だから腕が折れてるんだって! それにしても、そのハンマー凄いんだな。満月角熊の盾を壊すなんて、聞いたことがないぞ。まぁ勿体ない話だがな」
「かなり価値があったりするのか?」
「そりゃそうだ。ドワーフが作った盾より丈夫って評判だしな」
それをぶち壊して、さらに頭蓋骨まで砕いた自分が少し恐ろしいな。
「命あっての物種だ! 仕方ない!」
「それもそうだな」
ドーコの大斧を拾って、村へと向かっていく。
「そういえば村に俺とドーコは入れるのか?」
大事なことを忘れていた。これでまだ追放状態だったら、結局村を救えない。
「それなら安心してくれ。しっかり俺が説得して来た。それにほら、視聴者リストを見てみな」
言われるがまま確認する
・エマ
・ドーコ
・ドバン
・ドウェイン
・シュド
「1人だけ見たことがない名前があるな。ドウェインって人なんだが」
「それが長の名前だ。ずっと見てたんだよ。だからこの危機を救ったのも、ドワルフだって知ってるだろう」
〔エマ:凄いわねあなた。殆ど鍛冶仕事しかしてないのに、見事な戦いぶりだったわ〕
〔ドワルフ:おぉエマ。どうしてずっとコメントくれなかったんだよ。〕
コメントが来てやっと戦闘が終わったんだと安心する。
〔エマ:だってあなたずっと殺気立ってたし、怖かったのよ。あの熊との戦いだって、集中してるのを邪魔しちゃいけないと思って〕
〔ドワルフ:あーそうか。それはすまない。でも戦闘中に喋りかけられても、大丈夫なくらいには配信歴は長いから安心してくれ〕
ドバンに肩を貸しながら村に帰る。早くエリクサーを作って、ドーコに早く飲ませなきゃな。
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