23話 スタンピード
兜と胴体が出来、一息ついたところで昼ご飯を取ることにする。今日は昼ご飯を作って来なかったので、一度家に戻って食べよう。ドーコはまだ起きて来ないな。調子が悪いって言ってたし、何かの風邪だったりするんだろうか?
〔エマ:あら、今日こそ振られたかしら?〕
家に着いたところで、ちょうどよくエマが!
〔ドワルフ:唐突だが、エルフだったら病気に詳しかったりしないか?〕
〔エマ:ある程度の知識ならあるけど、どうかしたの? もしかして精神力を使いすぎて、病気にでもなったのかしら?〕
〔ドワルフ:いや俺の体調じゃなくてだな。俺の気にしすぎなら良いんだが、ドーコの体調が悪そうなんだ〕
女性の寝室に、配信をつけて入るのは気が引けるが、すまないドーコ。
ドーコの寝室に入って、ドーコの顔を見ると朝よりも白くなっている。
〔ドワルフ:こんな感じでドーコの顔色が悪いんだ。朝は、まだもう少し良かったんだが〕
〔エマ:確かに顔色が悪いわね。私も専門家じゃないから、そこまで詳しいことはわからないけど、服を捲ってもらえるかしら。万が一ということもあるしね〕
もっと早く気にしておいてやればよかった!昨日の時点で不調なのはわかっていたのに!
うなされているドーコの服を捲ると、あの夜には見たことのない模様が浮かんでいた。
〔エマ:まさか……最悪の予想が当たるなんてね〕
〔ドワルフ:どういうことだよエマ! 素人目でも唯の風邪じゃないってことがわかるぞ!〕
〔エマ:落ち着いて聞いてね。それは病気じゃなくてドワーフのある一族にかけられた呪いなの。昔エルフとドワーフでいざこざがあったのは知ってるかしら?〕
〔ドワルフ:知ってるよ! それより早く治す方法を!〕
とにかく早く、何とかしてやりたかった。
〔エマ:その時にエルフは、ドワーフの長の一族に呪いをかけたの。その呪いと、ドーコに起きてる症状がにてるのよ。もしかしてドーコって、長の娘だったりしないかしら?〕
〔ドワルフ:確かそんな事を言ってた気がする……。じゃあまた俺が、アギリゴの実でエリクサーを作れば!〕
〔エマ:そうね、エルフの呪いはエリクサーで治るはずよ。相手が謝ってくれば、解呪するつもりだったんでしょうし〕
早速エリクサーを作るためにあの森に向かおうとする。装備は付け焼刃だが、仕方ない。さっき仕上がった兜と鎧をひっつかむ。こんなに辛い顔をしたドーコを見たくない。
その時、
〔ドバン:すまない、都合のいい話なんだが、こっちに来てくれないか?〕
ドバン!?
〔ドワルフ:久しぶりだなドバン。だが今それどころじゃないんだ。ドーコが長と同じ呪いにかかって、一刻も早くアギリゴの実が必要なんだ!〕
〔ドバン:まさか! それになんてタイミングで…… 。今アギリゴの実の入手は難しいぞ〕
〔ドワルフ:どういうことだよ! 前みたいにこっそり取れば済む話だろ!〕
転生初日で取れたんだ。今の俺だったらもっと楽に取れるはずだ。
〔ドバン:お前が去った後から、森が活性化してる。どうにもスタンピードが始まったらしい〕
スタンピード? ラノベでよくある魔物が大量発生するとかいうあれか? ドバンがずっと配信に来なかったのは、それが理由か。妙な胸騒ぎは合ってたってわけか。どうしてこうも悪い方ばかり当たるんだ。
〔ドワルフ:だからずっと配信に来れなかったのか。でもそんなことなら、もっと早く俺たちを呼べば〕
〔ドバン:長が許さなかったんだよ。追放した2人を呼んで助けてもらうなんて、あんまりにも都合が良すぎるってな。俺たちの村は殆どが鍛冶師だ。残りの戦士も傷を負ってしまってな。何とか頼み込んで、ドワルフ達に協力を仰ぐ許しを得たんだ。だがサブジョブ戦士のドーコが動けないとなると〕
〔ドワルフ:安心しろ、とは言い切れないが俺がここで死んだらドーコも死ぬ。どっちにしろアギリゴの実がいるんだ〕
兜をかぶり、鎧を着こむ、ガシャガシャと動きづらいが今はこれしかない。
「ドーコ行ってくる。すぐにアギリゴの実を取って来てやるからな」
「ドワルフ……この大斧を持っていって。きっと……役に立つはずだよ」
いつもの元気な声はどうしたんだ……弱り切った声のドーコ。
「起こしちゃったか。すまないな、でもドーコ。ドワーフの装備は自分で作った物だって掟は?」
「その大斧は私たちの合作でしょ……。それに夫婦になるんだから……問題ないよ」
「そういう物なのか? じゃあ、ありがたく使わせてもらう。だからドーコも気を強く持って、呪いなんかに負けるんじゃないぞ!」
言っているうちにもどんどんドーコの顔色は悪くなっていく。
時間の猶予はどのくらいだ?
〔エマ:ごめんなさい。私たちの一族が〕
「今は過去の原因はどうでも良い。悪いのはエマじゃないしな。エルフの里に着いたら、その話を詳しくエルフのお偉いさんにでも問いただしてやる」
ドーコの大斧を背負い、ハンマーを持って、少しでも足を早くするために扇風機用に作った宝石魔法を胴にセットし ドワーフの村へと全速力で向かう。
念を込めると魔法効果だろうか、鎧を着ているのに風の様に走れる。
扇風機のとして作った物だが案外、高速移動に使えるかもしれないな。
そう遠くはない距離だが、とにかく一刻も早く。
★ ★ ★
村に着くと、辺りは酷い有り様だった。何人かのドワーフが酷い出血で倒れている。前線ではドバンを先頭に数人のドワーフが森からの魔物の侵入を食い止めている。
横からドバンが相手をしていた魔物をハンマーで潰す。
「ドワルフ!? やたらと早くないか? いや今はそんなことを言ってる場合じゃないな。どうにも相手の数が多くてな。俺たちだけでは、もう凌げるかどうかで」
次々と攻寄ってくる魔物をつぶすが、ドギゾボの森の方角からは、どんどんと魔物が攻め込んできている。
キリがない!
「ドバン、どうすればこのスタンピードは止められるんだ!?」
ドギゾボの森から、ハグレた魔物だって一撃で倒せたんだ。ボスだって多少は苦戦しても、倒せるはずだ。
「この規模のスタンピードとなると、森の奥に月角熊がいるかもしれない。だがそいつを倒すには、せめてAランク冒険者じゃなけりゃ無理だ! だからドワルフにはここで俺たちと一緒に、せめて冒険者が来るまで村を守ってほしいんだ」
いつ来るかわからないAランクの冒険者が来るまでドーコを放っておけっていうのか!?
「言っただろうドバン! 俺には時間がねぇんだよ! 下がってろ、巻き込んで怪我されても困る!」
「なっ何をするんだ!? さっ下がれみんなっ!」
ドバンが前線のドワーフたちを下がらせた。
同時に俺はハンマーを振り回しあたりの魔物を下がらせ、前線を一気に押し上げる。
これなら遠慮はいらない!
「これが俺とドーコのマジックアイテムの力だーーーーー!!!」
全力で祈りを込めてドーコの大斧を振るう。突如ドーコの時とは比べ物にならない大竜巻が、木々をなぎ倒し、魔物を絡めとりながらドギゾボの森まで向かっていく。
「ドーコが見てたら、ずるいって怒ってただろうな……」
竜巻が収まるとドバンが駆け寄ってくる。
「ドッドワルフそれは一体……?」
他のドワーフ達も騒めき、驚きの表情を浮かべている。
「お前達と長が認めなかったドーコと、エルフの混血である俺の努力の賜物だ。これが終わったら、長に一言言うことがあるが、それぐらいなら良いよな」
ドバンは一時スタンピードが収まったのを確認して、その場に座り込む。
「伝説のマジックアイテムか。確かにその威力は……。長の件は任せてくれ。そのマジックアイテムを見せれば一発だ。お陰でスタンピードも落ち着いた。
座ったまま、ビシッと親指を上に突き立てるドバン。
「俺は先に進む。負傷者も集めておいてくれ。余ったアギリゴの実で、治せるかどうか試す」
「それはありがたいが、本当に1人で行って大丈夫なのか?月角熊は本当に」
心配するドバンの口を手で制する。
「俺とドーコには冒険者を待ってる時間がねぇんだ! 行くしかないだろ!」
「……すまん。こんなことしか言えないが、無事に帰って来てくれ」
「あぁ宴会の用意でもしといてくれ」
ドバンに言い捨て、宝石魔法を全開にして駆け出す。
一刻でも時間が惜しい。間に合ってくれ。
・面白かった!
・続きが気になる!
・陰ながら応援してます!
と、少しでも思った方は、ブックマーク追加と下にある【☆☆☆☆☆】からポイント評価して頂けると、とても嬉しいです! めちゃくちゃ執筆の励みになるので、お手数をお掛けしますが是非よろしくお願いします!