22話 作業配信の王
「かんぱーい」
「完敗……」
俺は、うなだれながら、木のジョッキをぶつける。
「なんか今、意味が違うように感じたんだけど」
「その通りだ! 俺は自分自身に完敗したんだ……」
俺はヤケになって、一気にエールを飲み干す。
「すぐ落ち込むんだから……エメラルドの宝石魔法だって凄かったよ! まさかたった1日で、私が一生掛かっても使い切れないと思ってた量の宝石を使い切るなんて、思いもしなかったよ」
必死にドーコがお酌をして励ましてくれるので、俺もこれ以上落ち込んでいては申し訳ない。
「あぁそうだな。まだ精神力に余裕もあるし、どうやらドーコの目論見は外れた様だな! ハッハッハー!」
俺は空元気で無理やり笑う。
「それにしても風属性だけってのが残念だねー。氷属性だったらレイゾーコがぁ」
「風属性だって生活の役に立つ物があるんだぞ。ほら2つだけ作ってみたんだ」
俺はドーコに紹介しようと、ポケットに忍ばせておいた、エメラルドを見せる。
「なにそれ? 部屋の中で使うものなの?」
「まだ宝石魔法だけで、外装がないからうまく行くかはわからないが」
俺が動けと念じると、ヒューっと心地の良い風が流れ始めた。
「へぇー私にも使わせてよ」
ドーコが使っても風は出ている。成功だ。ドーコの髪の毛がフワフワと揺れる。
「これ良いね! ヒューマンなんかが喜びそう」
「そうだろう! これで俺の世界にあった、扇風機みたいなものを作れれば、暑い日でもバッチリだ。ってどうしてヒューマンなんだ?」
ドーコが心配そうな顔になる。
「ドワルフ、今日は本当に察しが悪いっていうか調子悪いね。鍛冶場にいて暑いとか感じたことある?」
「ないな……もしかしてドワーフって熱耐性があったり」
「その通りだよ。ドワーフの平均体温は高いんだよ。だからレイゾーコで冷えたエールを、こんなにも欲してるんだよ!」
ゴクリと、冷えていないエールを飲むドーコ。今日の俺はとことんダメらしい。やはり性欲は、人をダメにするのか? それとも三大欲求全てが満たされて、気が緩んでいる?
どちらにしても、明日は鎧を完成させて、明後日には狩りを始めるんだ。気を引き締め直さないとな。エールをゴクリと飲み干し、気合いを入れ直す。
「明日は自分用の鎧作るんでしょ! 私も色々と疲れが溜まってるし、今日は早めに寝よっか」
「一緒のベッドでか?」
ちょっとドーコをからかってみる。
「それでも良いよ」
ドーコが少し顔を赤らめるだけで、そこまで動じなかった。楽しみが減ってしまったな。
「いや今日は1人でゴロゴロ寝ることにするよ。万が一一緒に寝て、ムラムラでもしたら、明日の作業に影響するからな」
「私も実はちょっと調子悪いし、今日はそうしよっか。自分の装備は自分で作る。これドワーフの掟なり!」
そう言って、互いのベッドに向かった。
★ ★ ★
もうこの生活に慣れたのか、朝にはきっちり目が覚める様になった。ドーコが起こしに来ないってことは、まだ寝てるのか。
ドーコを起こしにベッドに向かうと、ドーコの顔色が悪い。今日はこのまま、ゆっくり寝ていてもらおうか。もしかしたら、昨日の疲れが、祟っているのかもしれないしな。昨日寝る前に調子悪いっていってたし。
1人で朝食を作り、さっさと鍛冶場へと向かう。
★ ★ ★
配信タイトルはっと『自分の装備作り』でいっか。今日は朝早かったこともあり、エマはまだ来ていないようだ。1人で寂しく作業でもって、そうじゃなかった。他の配信を見て勉強するんだった。
まだ朝早いためか配信の数が少ない。それでも作業系の配信は早くからやっているようだ。自分の作業をしながら、こっそり覗いてみよう。
汗をびっしりとかきながら、鍛冶仕事をしているヒューマンの配信を見ることにした。筋力不足のせいか、鉱石をたたく回数が多い。これは鉄だろうか。鉄にあった温度の炎でないことが火の色で見てわかる。コメントしようかと思ったが、初コメが指示では非難されるだろうし、他のページを見てみよう。
小一時間ザッピングするように視聴してみたが、どの鍛冶師も同じようなものだった。やはり鍛冶はドワーフ向きなのか。
そろそろ配信巡りはいいかな。と思ったところで新規に配信が始まった。この配信を最後にして装備作りのほうに集中するか。
この配信もやはりヒューマンだな。装飾を施している。
この鍛冶師は目を見張るものがあるな。細部も丁寧でちゃんと、神への祈りのようなものが感じられ、見習うべき点がある。ヒューマンの国に行ったら、挨拶しに行きたくなった。
フォロワー数と視聴者はと。
「フォッフォロワー数3万5000人だと!? それに視聴者が今始めたばっかりってのに1300人!?」
冒険者配信に比べれば、大したことのないフォロワー数と視聴者だが、作業系ではトップクラスではないだろうか? 大概の作業配信はは、多くてもフォロワー数100人程度だった。
コメントも多く常に止まらないな。殆どが匿名でのコメントだが、やはり多くの人がその技術に惚れ込んでいるようだ。
「バッ化け物め」
確かエマが、ヒューマンは祈りの力で何かするって言ってたな。この杖の装飾も祈りの力に作用するのか? 今すぐ同じものを作ってみたくなったが、自分の鎧作成が先だ。
くそー俺も負けてられない。そういえばシュドさんも無事ヒューマンの国に着いて、俺のことを広めてくれているだろうか? 念のためマイページと念じて確認する。
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名前 ドワルフ
レベル 30
視聴者数 0
フォロワー 5
メインジョブ 配信者
サブジョブ なし
スキル 【ハンマー使い】
ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの神】 【ヒューマンの良心】
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おぉ1人フォロワーが増えている。でもこの感じだと、シュドさんはヒューマンの国についてないみたいだな。シュドさんが着いてたら、もっとフォロワーが増えてそうなもんだ。フォロワーリストを見てみよう。
・ドバン
・ドーコ
・エマ
・シュド
・エドベンド
エドベンド? 何か仰々しい名前だな。お偉いさんだったりするのだろうか?
いちいち念じないと視聴者数が出ないのは不便だな。常に表示されれば良いのに。
あ、視界の右上に0と視聴者数が表示された。
「できるのかよ!」
まぁフォロワー数も1増えたし、俺も残りの鎧作りを頑張るとするか。
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