20話 ドーコの企み
「ただいまー」
「おっ、おかっ、おかえりドワルフ」
いつも一緒に家に帰っていたから、初めてドーコにただいまって言ったな。しかし、どうにもドーコの様子がおかしい。動きがぎこちない。
「ドーコ、何か俺に隠してないか?」
ドーコはヒューヒューと鳴らせない口笛を吹いている。明らかに何か隠しているだろ。誤魔化せてないぞ……。
「さっ早く晩御飯を食べようよ! 今日は贅沢なごちそうを用意したんだよ」
机の上を見る。確かにいつもと違う料理が並んでいるが、普段の方が美味しそうだ。丸焼きにされた蛇や、ヤモリの様な物が並んでいる。一応確認しておこう。文化の違いかもしれない。
「これがこの世界のごちそうなのか? いつもの料理が美味しそうに見えるんだが」
「贅沢なことには間違いないし、嘘はついてないよ! ほっほらエールで乾杯しよ?」
贅沢な事には間違いない? 妙な言い方をするな……。
「なんだかこのエールも、少し赤い気がするんだが?」
「気にしすぎだよー。ほら、かんぱーい!」
気にしすぎとかいう問題なのか? 俺は首を傾げながらも、木のジョッキをかかげる。
「かんぱい」
ゴクッと一飲みする。味は余り変わらないが、ひと口で体が熱くなっている気がする。
「どっどう? いつもと違う気がするかな?」
なんでいつもと同じものを飲ませてるはずなのに、そんなことを聞くんだ? 怪しすぎる。
「……体が熱くなってる気がするな」
「そう!? じゃあどんどん食べていこう!」
妙に料理を勧めてくるドーコ。今一つ気乗りしないが、蛇の丸焼きを食べる。意外に美味しい。元の世界で蛇を食べたことはないが、こんな感じなんだろうか? ドーコは俺が食べる姿を、興味津々に眺めて、食事に一切手をつけない。
「ドーコも食べろよ。それとも食べれない理由でもあるのか?」
ギロリとドーコに睨みを効かせる。
「そっそんなわけ、でっでも食べて私まで……あーもう食べます食べますよー」
★ ★ ★
エールを飲み干すたび、ドーコがあの少し赤いエールを注いでくる。もっと飲め飲めという感じだ。ドーコも顔が赤い気がする。普段より飲んでいないのにな。
俺の方も汗ばんできた。なんだか体が妙にカッカする。もしかしてこれは精力料理か? 蛇とかヤモリといえば元の世界でもそうじゃないか。じゃあこのエールに入っているのは、スッポンか何かの血か? どんどん血流が下の方に巡っているのを感じる。
「ドーコ、これって精力料理じゃないのか?」
「え!? うーん……」
ドーコの表情から答えがわかる。yesだ。ドーコも精力料理を食べてるせいで、モジモジとしている。体が小さいからなぁ効果も俺より早く回るのか?
「だってドワルフ、全然手を出してくれないんだもん! やっぱり髭生えてない私なんかじゃダメで、好きだのなんだの優しさだけなのかなーって思ったんだよ。」
あー、隠してたのはこれか。てっきり、飲み比べの日ドーコは酔い潰れたものだと思っていたが、聞いてたんだな。
「だから、このシュドさんに頼んだ、精力フルコースを食べてもダメだったら諦めようって……」
泣きそうな顔になるドーコ。泣くな泣くな!
ていうか手を出してくれないって俺の方からそんな積極的に行けばよかったのか?
「その話つい最近じゃないか!? こういうのはもっとゆっくりとだな。デートしたり、手が触れ合って、その時の勢いで手を握ったり、最後にいい感じになってキスをした後とかだろ!?」
そのくらい手順を踏まないと、ダメなんだよ俺は!
「でもそんなこと吹っ飛ばして同棲してるんだよ! そりゃあ初日はそんな気なかったけど、あの日の翌日からは、私襲われるの待ってたんだからね!」
「そっそうだったのか!!」
「ってそんなこと言わせないでよ!」
衝撃的な事実だ。今までの発言は全て俺を誘っていたってことか!? だったらボディーブローじゃなくて優しいボディタッチとかにしてくれたら良かったのに。それならその日にでも襲えたかもしれ……無理だな!
「確かに良い雰囲気には何度かなったが、まさかそこまでの覚悟をしていたとは。というか俺はドーコを急に襲う度胸はない!」
胸を張って堂々と宣言する。無理なもんは無理だ!
「だから今日の料理を食べて、興奮が抑えきれず襲ってくるのを待ってたのに、あー全部作戦がバレちゃったよー」
ワンワン泣きだすドーコ。どうやら本当にこの作戦に賭けていたらしい。
「だとしてももっと簡単な方法があるじゃないか」
「グスッ……なに? その方法って?」
俺みたいなタイプに、一番聞く方法を試してないぞドーコ。
「単純に今日しない? って聞かれたら、俺はすぐさまル○ンダイブだったぞ」
「ル○ンダイブってのが何かわからないけど、そんな簡単なことで良いの??」
「俺が告白したの忘れてるのか? 俺としては一世一代の告白だったんだが」
ドーコが酔い潰れてて聞こえてないと思ったし、ドーコからOKの返事も来てなかったしな。完全に外したものだと思っていた。
「忘れてなんかないよ、でもどうしても自分に自信が持てなかったからさ……っていうかどうしてそっちから誘ってくれないの!」
「だから俺としては手を繋いだりって事をした後で考えてたんだよ。女性経験がないから怖かったんだよ!」
元の世界じゃ、ブサメンだったんだ。そんな自信はない!
「なーんだドワルフも怖かったんだね。私も怖かったんだ。似た物同士だね私たち」
「そうだな」
「ねぇ良い雰囲気なのに悪いんだけど、もう私限界かも」
「何が?」
少し意地悪でとぼけてみるが、いつもみたいにボディーブローは飛んでこない。
「わかるでしょ!」
「冗談だ。ほーらお嬢様を水浴び場までご案内だ」
我ながらクサイセリフだが、ヒョイっとドーコをお嬢様抱っこして水浴び場へと連れて行く。
「これすっごい恥ずかしいんだけど! ねぇドワルフってば!」
「これからもっと恥ずかしいことするんだから、これで慣れろ」
ドーコはどうなるか想像したのか、赤かった顔をさらに真っ赤にして黙ってしまった。誘っておいたのに、こんなに恥ずかしがるなんて可愛いすぎる!
なんとなくで、水浴び場まで運んだものの、ここからどうすればいいかさっぱりわからない。とりあえず一緒に水浴びでもするか。今日は魔物狩りで汗をかいたしな。
初めてドーコの素肌を見たが、スベスベで綺麗だ。髭が生えてないだけでなく、パッと見たところ、体には毛が一本も生えていなかった。これなら髭が生えないのも無理はないだろう。
「なんか今変なこと考えなかった?」
ドーコが拳を作る。髭に敏感すぎないか!? そんな“髭がないな”みたいな顔してたか俺。
「いっいやそんなことはないぞ! 毛が生えてなくて綺麗だなーと思ってたくらいだ」
「もう! コンプレックスなのに、好きな人に褒められると、なんかどうでも良くなるね」
拳から力が抜ける。流石にここで倒れて終わるのはいやだ。助かった。
結局水浴び場ではお互い汗を流したくらいで、ドーコの体をまじまじ見る以外に何も起きなかった。
いや、十分だけども。
水浴びを終え、服を着替えて寝室へと向かう。そういえばドーコの部屋にはいるのは初めてだ。案外小綺麗に整頓されている。てっきりリビングや鍛冶場よろしく、鉱石やらマジックアイテム用の宝石やらが散乱してると思ったんだが。
「今日は絶対落とすつもりだったからね! ちゃんと片付けて置いたんだよ!」
心を読まれた……まぁまんまと落とされたわけだが。
「じゃあ始めようか」
――はじめての熱くて長い長い夜が始まった。
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