19話 魔物狩り
「ほうほう、これもまた装飾の凝った見事な大斧で御座いますね。特にこの宝石なんて……」
宝石に言及した瞬間、はたとシュドさんの動きが止まった。
「……まさか完成させたというのですか!?」
マジックアイテムの知識もあるのかシュドさん。
「まさかもまさかだよ! そう遂に念願のマジックアイテムが完成したのだー!」
ドーコが小さな胸を張り上げている。
「一体どんな効果があるのですか?是非とも拝見したいです」
嫌な予感がする。
「威力を見るのに丁度いい森が近くにあるよ!」
あぁまた例の森がイケニエに……。
★ ★ ★
倒れる木々を見て興奮気味のシュドさん、一方で俺は落ち込んでいた。これだけ森を荒らしてたら森に呪われても文句言えないな。
なぎ倒された切り株の切断面を見ながらシュドさんが言う。
「これもお売りになられるんでしょうか? 流石にマジックアイテムになると、私の一存では取引できませんが……個人的には是非買い取りたいのですけどね」
「いやこれは私物だよ。ごめんね、あんまりにドワルフばっかり褒めるからー」
自分の自尊心のために、シュドさんに迷惑をかけるなよドーコ。見せられただけだから、シュドさんちょっと残念そうじゃないか……。
「それはそれは申し訳御座いません。それに致しましても、よく宝石に魔法を封じ込められましたね」
あ……封じ込めは俺が……。
「……ドワルフがやったんだよ」
ドーコが目に見えて不機嫌になる。
「いっいやーそれに致しましても、この装飾は非常に素晴らしいですね! もしかしてあの鎧の装飾もドーコ様がお教えになったのですか?」
あっまたしても
「……それもドワルフのお陰だよ。この小さな懐中時計に装飾したのもドワルフだよ」
ドーコはポケットから、俺が初めて装飾した懐中時計を、シュドさんに見せつける。
「おぉこんな細かなものにまで……凄いですねドワルフ様は……あっ」
……
きっ気まずい。
「いやー良いものが見れましたし、ギルドマスターにも、良い土産話が出来ました! それでは私はこの辺で、馬車は私が帰り次第、いつでも出せるよう準備致しますのでー」
馬にシュドさんがまたがり、パカラッパカラッと、かけていく。こんな空気にしたまま行くんじゃない。それにしてもシュドさんが持っていたあの鞄が欲しいな。あの口ぶりからして、容量がもっと大きなものがあったりするんだろうか。
「ねぇ慰めてくれないの……?」
考えに耽って、ドーコのアフターケアを忘れていた。
「じゃあ魔物狩りでもしてさ、良い汗かこうぜ! そうすりゃストレス発散にもなるさ」
「うーん、それもそうだね。よーし狩まくるぞー!」
凄まじい意気込みを感じる。魔物狩りなんて簡単に言ったが、ここら辺には大量に狩るほど魔物はいないし、もしかしてあの森にでも行くことに?
「誘っておいてなんだが、どこで狩るんだ? ここら辺にはそんなにいないんだが」
「ドワルフは鍛冶仕事ばっかりで、全然外を出歩いて無いもんね。結構道外れにいるもんだよ。でも今日は、ちょっと強い魔物と戦いたいなぁ」
ドーコは早く戦いたいのか、大斧を素振りしている。
「じゃあお昼ご飯を食べてから狩りに行こうか」
「そうだね!」
★ ★ ★
ドーコについて行き、道外れまでやってきた。
「じゃあまずは、ドワルフの戦闘から見せてもらおうかな? レベルだけ高くても、戦いが上手いとは限らないからね!」
ここでも師匠顔したいらしいな。当たりを見渡すと、何匹か魔物がいるのを発見する。どれも見た目は強そうだが、あの角兎ほどの禍々しさは感じない。適当に近くにいた犬型の魔物を、ハンマーでひと殴りする。
「ちょっと待って!」
ドーコの静止の声より先に、グシャっと音を立てて何の緊迫感もなく倒す。
「それ、ここら辺じゃ1番強い魔物なんだけど……。あぁもう私だってやってやるんだからー!」
ドーコが、全力で大斧を振り回す。今まで以上に大きな竜巻が起きた。
「あぶないじゃないかドーコ! ちょっと間違えれば俺まで巻き込まれてたぞ!」
「ごっごめんなさい! まさか私もあんな大きな竜巻が起こるなんて思いもしなかったんだよ」
〔エマ:マジックアイテムは込める力や想いによって強さが変わるわよ〕
エッエマ!? そういえば配信しっぱなしだったな。
「そうだったのか、ドーコはそれを知らなかったのか?」
「ついうっかり忘れちゃってた。テヘッ」
ドーコは舌をペロッと出して謝る。可愛いから思わず、許しそうになる。
「テヘッじゃない! ちゃんと力加減を覚えるように!」
「……はーい」
味方のうっかりで死んでしまっては、余りにも情けない。そんなことで、この異世界配信者ライフを終わらせたくない。今後戦う機会があったら、ドーコが興奮しないよう注意しながら、戦う必要があるな……。
「そういえばドワルフは、そのハンマー使わないの?」
「使わないのって、さっきこれで倒したじゃないか」
「いやいやそうじゃなくてって、わざと言ってる? ハンマーにも宝石がたくさん埋まってるじゃん! どうして発動させないの?」
言われて思い出したが、デザインの時点で、エルフっぽさを出すために、ハンマーに宝石を入れていたんだった。今まで何も考えずに使っていたが、意識して使えばどうなるんだろう。ちょうど良い所に、さっきの竜巻から生き延びた魔物がいる。試し振りしてみるか。
「ちょっとその魔物はハグレで危険」
「そりゃよっと!」
グチャ! 叩いたところが潰れただけで、変わらないなと、がっかりしたと思った時、グシャグシャグシャっと魔物が内部から弾けた。汚い花火だ……。そんなことを言ってる場合じゃない。これじゃあスプラッター配信だ。対象年齢がR-18になってしまう! ドーコの方を見ると完全に引いている。
「もうちょっと調整しないと、配信に映せないな」
「そういうことじゃなくて! さっき言いかけてたけどその魔物は、ドギゾボの森からのハグレた魔物だったんだよ! だからとっても危険で、2人でなんとか勝てるかどうかだったのに、とぼとぼ歩いて一振りって……戦闘でも規格外なんだね……」
そんな危険な魔物だったのか。話を聞いた後だったら間違いなく挑まなかっただろう。だが、初めに会った角兎ほど恐ろしく感じなかったのは、俺が強くなったからなんだろうか。
「ドワルフ1人でも大丈夫そうだし、そのハンマー上手く使える様に練習しといてよ。私は先に帰って料理を作っておくよ」
「なんだよ連れないな。ドーコの方はもう調整しなくても大丈夫なのか?」
元々はドーコのストレス発散の為だったんだが、目の前でスプラッターを見せちゃったし、流石に萎えたかな。
「うん。大斧の扱いは大体はわかったし、今度からは大丈夫だよ」
「それじゃあ俺も帰って、料理手伝おうか?」
「ダメ! ほっほら今日はドワルフだけ鍛冶して疲れたでしょ! 私に任せて、ほら練習練習!」
そう言ってドーコは、足早に家へと帰っていく。疲れてるのに練習とはこれいかに。それに何か表情が固かったし、絶対何かあるな。
★ ★ ★
言われた通り、配信に映せるよう、調整しつつ魔物を狩る。それにしても今日も色々とあったな。シュドさんは護衛もなし、一人と馬一頭でここまで来ていたが、戦いの腕の方も、確かなんだろうか?
そんなことを考えながら、10匹ほど魔物を狩る。ようやくハンマーの扱いに慣れてきた。最後に全力で振ってみた時の破裂はヤバかった。エマからコメントが来ないのはあまりにもグロテスクな配信だからだろうか? 血が服から落ちなくなる前に、家に帰って洗おう。
もうすぐこことも別れて、ヒューマンの国か。長いようで短い日々だったな。そういえば、シュドさんがドワーフの村と連絡が来ないって言っていたな。本格的な出発の前に、チラッと見にいくか。そう思い、念のためマイページと念じる
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名前 ドワルフ
レベル 28
視聴者数 2
フォロワー 4
メインジョブ 配信者
サブジョブ なし
スキル 【ハンマー使い 】
ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの神】 【ヒューマンの良心】
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レベルが上がってるが、それよりスキルが増えているな。【ハンマー使い】か。当分ハンマーで行くつもりだし、ちょうど良いだろう。
視聴者リストなんかも念じれば見れるんだろうか?
・エマ
・ドーコ
うーんやはりドバンがいない。気のせいで済めば良いんだが、ハグレた魔物がここに来たことといい、用心に越したことはない。やっぱりヒューマンの国に行く前に少しだけ村に寄ることにしよう。門の前に行くくらいだったら、村に入った事にならないし大丈夫だろう。
〔ドワルフ:じゃあ今日は終わるな〕
〔エマ:今度からは、しっかりタイトルを変えてから配信してね。おつかれ〕
なんだかんだ最後まで見てくれてたのか。タイトル変え忘れてたのは手痛いミスだな。視聴者が戸惑ってしまう。
配信を切ってと。
ドーコが何かを隠していている様だし、念のため注意して帰ることにしよう。何もなければいいが。
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