17話 配信初心者
目をこすりながら起きる。結局商人が来るってことで、緊張してうまく眠れなかった。ドーコは、休日だから普段よりゆっくり起きるようだな。いつもみたいに起こしに来ない。
ドーコに任せっきりだった朝ご飯を2人分作る。本当なら卵焼きを作って、これが故郷の卵料理だーなんて言いたかったんだが、恥ずかしい話上手く作れる自信がない。
最悪スクランブルエッグにでもすればいいか、と思いながらダメ元でクルクルと卵を回す。意外なことに店に並んでいてもおかしくないような、綺麗な焼き目のついた卵焼きが出来た。
俺は手先が器用な様にと願って【ドワーフの知恵】が手に入ったんだったな。もしかしたら、他のことにも応用が効くのかもしれない。こんなにも上手く料理ができるなら、料理配信もありかもしれないな。
ついついドーコを起こしに行きそうになったが、グッと堪える。
「せっかく完璧な卵焼きが出来たのに……」
思わず口に出るほど落ち込んだ。
「いただきます」
卵焼きを食べる。美味しいのに、1人で食べると何処か味気ない。元の世界だと当たり前だったのに。この世界に来て、ドーコにすぐ会えたことは、本当に幸運だったと再確認する。
とりあえず商人が来るまでに、なんとか鎧を完成させて、商人を驚かせてみたい。その時に配信の宣伝でもすれば、視聴者も伸びるかもしれないしな。
配信をつける。『黙々と1人で作業配信』でいっか。もし誰とも出会えてなかったら、ずっと『黙々と1人で作業配信』だったんだろうか。そうしたら【ドワーフの知恵】も発動しなかったし、【ドワーフの神】にもならなかっただろう。
仮にそのままヒューマンの国まで行って、何をしていたんだろうか。漠然としたことを考えつつ、作業を進めていると
〔エマ:今日は1人なのね。振られた?〕
エマが来た。一言多いな。
〔ドワルフ:鍛冶場を見ろよ。いつもと一緒だろ。仲良く2人で暮らしてるよ〕
〔エマ:冗談よ冗談。それにしても凄い鎧を作ってるのね。マジックアイテムの装飾に似てるけどこれもそうなのかしら〕
〔ドワルフ:いやこれはマジックアイテム的な効果はないっていうかドーコと同じことを言うんだな〕
装飾といえばマジックアイテムって、イメージになってるのか?
〔エマ:なんかちょっと心外ね。それにしても精神力切れが1日で治るなんて凄い回復速度ね。〕
〔ドワルフ:いや、昨日の時点で治ってたんだが。この鎧が途中からの理由は、昨日から作ってたからだぞ〕
〔エマ:どんなエルフだって精神力が切れたら2日は寝込んでいるものなんだけど、もしかして切れてなかったんじゃないかしら? いえきっとそうよ〕
昨日、エマが配信に来なかったのは、倒れてると思ってたからなのか?
〔ドワルフ:なぁエマ。エマから見てこの鎧どう思う? 売れそうか? 結構な自信作なんだが〕
〔エマ:鎧なんて着ないエルフに、そんな質問されてもねぇ……しかも私はエルフの里辺りから、出た事がないのよ。正直言って分からないわね〕
〔ドワルフ:箱入り娘ってやつか? それにしてもエルフは鎧を着ないのか。だとするとどうして俺にエルフの里まで来て欲しいんだ? 何か作って欲しんじゃないのか? ローブとかでも一応作れそうだが、他に出来そうなものなんて、なさそうなんだが……もしかして杖か?〕
〔エマ:杖なんてエルフは使わないわよ。そんなものがなくてもエルフには、ルーン文字と宝石魔法があるからね。あと前にも言ったけど、来てもらわないと説明できないわ〕
〔ドワルフ:まぁ言えないなら詳しく聞かないでおく。でもエルフは杖を使わないのか。魔法では必要ないってことになると祈りの力だと使ったりするのか?〕
〔エマ:そうね祈りの力は神への祈りから起こすものらしいから、媒体がいるみたいよ。全く不便よね〕
宝石魔法も似たような物じゃないかと思ったが、言っても怒られるだけだろうし、黙っておこう。そうこう話をしているうちに、最後の装飾を施し終わった。
〔ドワルフ:ありがとう。エマのおかげで、寂しくなく作業できたよ〕
〔エマ:1人で作業するのが寂しいなら、他の配信でも見ればいいのに〕
「あっ」
〔エマ:もしかしてそんな事にも気付いてなかったのかしら。メインジョブ配信者さん。フフッ〕
「どうして俺はそんな簡単なことに気がつかなかったんだ。今まで自分の事ばかりで、他に目をやる時間がなかった。あぁなんて俺は愚かなんだー!!!!」
俺は思わず立ち上がり叫んでしまった。
〔エマ:ちょっとそんなに落ち込まなくてもいいじゃない。悪かったわよ〕
「俺は今、自分の愚かさに嘆いていているんだ」
どうして俺はそんな単純なことに、気がつかなかったのだ。試しに他の配信を検索してみる。以前の見た時と同じで、きっちりカテゴリ―別に配信一覧が並んでいる。
今やってる中で1番大手のカテゴリーは何だろうなと、検索してみると、やっぱり情報通り冒険配信だった。自分とはカテゴリが違う。だから冒険配信のトップが8万人集めてても、全然悔しくないし! 全く悔しくないし!! ……今度は作業カテゴリーで検索だ。
作業配信なんて俺しかやってないと思っていたが、案外やってるもんだな。だがドワーフはやはり配信をしていないようだ。鍛冶配信をしているのはヒューマンだけだ。ドワーフにはやっぱり配信の文化がないらしい。
作業配信自体に視聴者が少ない……ライバルが少ないと喜ぶべきか、それともカテゴリーの人気なさを悲しむべきか。この人の鍛冶配信は10人も視聴者がいるな。悔しい。
もう少し時間に余裕が出来るようになったら、配信を見漁らなければ!
念のため俺の視聴者はっ、とマイページと念じる
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名前 ドワルフ
レベル 24
視聴者数 1
フォロワー 3
メインジョブ 配信者
サブジョブ なし
スキル なし
ユニークスキル 【エルフの知恵】 【ドワーフの神】 【ヒューマンの良心】
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何度目を擦っても1だった。タイトルか!? タイトルにドワーフって入れてないしせっかくの長所を自分から消してしまっているのか!?
「うるさいなぁ。鍛冶の音でも漏れない様にしてるのに何が愚かなんだよぉ」
ドーコがボサボサ頭で鍛冶場に入ってきた。
「すまないドーコ。だが俺は嘆かざるを得なかったんだ……」
「まぁ嘆くのは良いけど、あっそういえば朝ご飯のあれ何!? 何重にも卵が巻いてあって美味しかったよ」
「あぁそれは卵焼きって言って、俺の世界の料理だ」
「ドワルフって料理もできるんだねー」
「これもきっと【ドワーフの神】のお陰だ」
「どう言う事?」
意味がわからなそうな顔をしているドーコを傍目に、落ち込み続ける俺だった。その時、俺を励ますかのようにベルが鳴った。
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