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剣鬼と剣魔が眠る街  作者: しーさん
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ロード・オブ・ウェポン(8)

 地下歓楽街の地下道は壁にともしびがおおく灯されて、明るかった。

 昔、来訪者が持ち込んだ明かりでたびたび火災が起き、増やされてきたのだ。


 ともしびに油をそそぐのは宿無しの乞食たちだ。

 地下歓楽街の顔役である商人たちから小遣いや酒をもらうかわりに、油を注ぐために地下道を徘徊している。


 ぼろをまとった乞食のひとりが、ともしびの下に置かれた踏み台に立っていた。

 腰には油の詰まった大きな缶を下げている。この缶を空にして帰れば、銅貨を五枚もらえることになっている。

 あとすこしで缶が空になる。ここのところ酒を飲んでいない。ふところの小銭と合わせれば一杯ひっかけられるだろう。


「忙しいところに悪いな。ちょっといいか」

「……いま仕事してるんだ。見てわかんねぇのか?」


 うしろから話しかけられ、乞食はふり返った。

 道案内にこづかいを増やせるだろう。

 だが、機嫌は悪そうに見せなくてはいけない。

 すこしでも金をせびらなくてはならない。


 乞食のうしろに立っていたのは、外套をはおり頭巾を脱いだ、ふたりの大男だ。

 自分が油を注したともしびに照らされる男のひとりを、乞食は知っていた。

 地下道のせまい天井に頭がとどきそうな長身に、黒い長髪の若者はオルアベスにひとりしかいない。


「なんだ、サジワン。ひさしぶりだな。俺に道を聞く? もう知ってんだろう」

「聞きたいのは魔剣の話だ。アヴィドがすこし前にいい魔剣を手に入れた。もう値付けされているはずだ。あんたなら知ってるだろう。金は出す」

「お前もか……。いまアヴィドの魔剣が厄介なことになってるぞ」


 乞食が手を差し出した。

 サジワンはふところから銅貨一枚を取り出し、ちいさく汚れた手に乗せた。

 銅貨をしまい、乞食が地下道を歩き出す。仕事はまだ終わっていない。

 サジワンも、隣のテオフィルもその後をついていく。


「アヴィドの魔剣は……二日前か、とんでもない値段をつけて市に出たんだ。魔剣士たちは怒ったよ。アヴィドは自分たちに売るつもりはないんだってな。ただ、金持ちたちも買おうとしなかった。なんでかって? その魔剣は神梯の賜り物だとさ。教会の使徒たちに狙われたくはないからな。あいつら、悪魔のはらわたに隠しても取り戻そうとするからな」


 乞食は足を止めて、また壁のともしびに油をそそいだ。あと二回もやれば空になるだろう。


「よし、次だ。……だから、魔剣の買い手はまだ現れていない。このオルアベスで買い手がつかなきゃ、次はほかの街の買い手を待たなきゃいけない。ただし、教会に嗅ぎつけられる前に、アヴィドはあの剣を処分しなきゃいけない。アヴィドは欲をかきすぎているんだ。ふん、ちょっと金が数えられるだけのまぬけなドワーフさ」


 サジワンはうなずきもせず、乞食の話を聞いていた。

 ベレンスレブに興味はない。ただ、魔剣を追ってオルアベスにいるはずのアウグストに会って、双子の遺言を伝えるだけだ。


 しばらく歩き、ともしびに油をそそいで、缶を空にした乞食は腰を伸ばした。


「それで、だ。魔剣はいまペールの店にある。客には全員さわらせてる。店にはアヴィドの子分が何人もいる。最近じゃあ、なかなか見ない物騒さだ。さあ、話は終わりだ。俺は一杯飲まなくちゃいけねえ」

「おっさん、助かった。あんたの神に感謝するよ」


 乞食は背中を向けて、片手を上げてこたえると、地下道の暗がりに消えていった。

 残されたサジワンは、乞食が去っていった暗がりに背を向けると、道を戻りだした。

 テオフィルがとなりに並び、聞いてくる。


「ペールの店、というのはどんな店だ?」

「名剣ぞろいの、でかい魔剣屋だ。店主のペールが魔剣の鑑定士で、とにかく目利きだ。街中から魔剣の鑑定を依頼されている。あの店の魔剣を、この街の剣士が買うのは無理だな。だが、繁盛してる。胸くそ悪い話だ」

「買えないのに繁盛しているのか? わからんな」

「ペールは魔剣士に賭博試合を斡旋してる。欲しい魔剣があるなら、誰と戦え、何回勝ち抜け。生き残ったらご褒美をいただけるのさ。魔剣屋ならどこでもやってる」

「笑ってしまうな。見世物の闘犬ではないか。剣士の客寄せが魔剣屋で、決闘を仕切るのが店に面倒を見てやってる金持ちというところか。そして胴元がまた設けるわけだ」

「ああ、腐った街だ。いつもなら欲しいやつ同士で闘わされるが、ベレンスレブなら、アヴィドの子飼いと戦うことになるだろう。あんたの主人はどうやって魔剣を取り戻すつもりだろうな」

「無駄な気遣いだ。この街を儲けさせてやるつもりはない。旦那さまと私の同輩たちが、その賭博試合とやらを制してすぐに帰ることになるだろう」


 その話を最後に、ふたりは黙って地下道を歩き出した。

 ともしびで照らされた地下道のはしには、ところどころで、愛想のない露天商がむしろを広げがらくたを売り、乞食がうずくまっている。

 人間、獣人、妖精、魔人、子供、若者、老人、男、女、まんべんなくいるようだ。古びた剣を脇に置いて座りこむ、片腕のない乞食もいた。決闘に敗れた魔剣士だ。


 地下道にはしめった風が吹いている。

 悪臭はない。通気がいい。

 くすんだ玻璃細工でおおわれた壁のともしびが、たまに揺れている。

 サジワンは地下道の途中に空いた脇道の前で足を止めた。


「ここだ。ペールの店だ」


 振り返りもせずにテオフィルに告げた。看板もなにもないただの脇道だ。

 本道をそれた脇道にはともしびがすくない。のぞき込んでも、暗がりの先に何があるのか、テオフィルには見えなかった。


 そのまま脇道に入ろうとし、サジワンはすぐに身を伏せた。

 あとにつづこうとしたテオフィルも、脇道から顔をそむけ、腰の鉄剣に手をかけた。

 ともしびにきらめく斬光が、伏せたサジワンの頭上とかすめ、脇道の壁面をけずった。


 暗がりから重い足音がちかづいてくる。この斬撃を浴びたものだろう。

 身を起こしたサジワンは暗がりからあらわれた男の背中を手でおさえた。倒れかかられれば自分の服が血で汚れるからだ。


 倒れてくる背中をおさえながら、地下道の脇道のよこに、男を寝かせてやる。

 仰向けになった男のあごを掴んで上向ける。いまの一閃が首筋を真横に割っていた。だが、ほかに、胸を貫く一突きが男の上着を赤く汚していた。


「よくあることなのか?」

「いや。この街の魔剣士にも決まりがある。地下道、それも魔剣の店で殺すのは許されることじゃない。あんたの身内だろう。……おい、受け取っておくものはあるか。それを渡したい相手はいるか?」


 サジワンが耳元で話しかける。男は喉を斬られている。声はだせない。

 男は、血のあわが吹き出す口と喉でなにかをうなっている。顔は醜くゆがんでいる。だが、苦悶や恐怖ではない。

 怒りだ。敵を滅ぼそうとする殺意を、この男はまだうしなっていない。


 男はサジワンにこたえなかった。敵への憎悪をひとみに宿したまま、天井を見つめて、息を引き取った。


 脇道の奥からは怒鳴り声が響いてくる。

 サジワンとテオフィルが脇道に消えていき、本道の暗がりから乞食たちがあらわれ、男の遺骸をあさりはじめた。

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