コンプレックス美少女! ~私は彼から○○を隠したいっ!~
※主人公の心の声と中身が残念なので美少女要素が欠けています。予め御了承お願い致します。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。
完璧な美少女とは正に私の事だった。
「桃瀬。俺と付き合って下さい!」
桜が舞い落ちる春の季節、高校三年生を迎えた私はあるクラスメイトに告白された。私の目の前で顔を真っ赤にしながら頭を下げて片手を差し出す、黒い髪を綺麗に切り揃えた眼鏡の青年。
彼の名前は北山陵、この学校の生徒会長だ。
正直に言おう。北山君はクソがつく程に真面目であり、かなりの美青年だ。加えて高身長、頭脳明晰、人望も厚く将来有望。まぁ多少運動音痴な部分はあるけど、それくらいは可愛いもの。完璧な美少女の私がお付き合いする相手としては、申し分無い。
小さく咳払いをして、顔を上げた彼の目をじっと見つめる。
あ、男の子なのに綺麗な二重、って今はそれはどうでもいいか。
「北山君。君は私のどこを好きになったのかな?」
私の問い掛けに対し、北山君は手の上に顎をのせて小さく唸る。
おい、まさか考えないと出てこないのか……
「プリントを後ろの人に回す時に相手が誰でも丁寧に笑顔で渡してくれるところ、ご飯を食べる仕草が上品なところ、仲が良い人とお喋りしてるとちょっと口が悪くなるところ、新発売のからあげちゃんを買う日は一日そわそわしてるところ、あとは」
「わ、わわ分かった! もういい!」
後半になるにつれてチョイスが微妙にマニアックになっていくのがあれだが、まぁそれは良いとしよう。
私は再び咳払いをして、彼の顔をもう一度見る。
あ、やっぱりイケメンだなこの野郎。
「北山君、私で良ければお付き合い宜しくお願いします」
「……え? 本当!?」
私の言葉に北山君は目を輝かせて、ジャーキーを与えられた犬のように嬉しそうな表情を浮かべる。
「うん。でもその前に一つ聞きたいの」
「え? 何?」
さっきより体を近付けて微妙に近い距離で尋ねる北山君に少し戸惑いつつも、私は小さく深呼吸してあの事について聞くことにした。
「北山君はさ」
「うん」
「おっ……」
「お?」
「いや、ひ」
「ひ?」
……だ、駄目だ! 聞けねええええ!!
内心取り乱している私の事など知るはずもない北山君は首を傾げて私を見つめる。そして運が悪く丁度鳴り響く学校のチャイム。
「あ、予鈴だ。授業戻らなきゃ」
「え!? ちょ……」
「桃瀬、また後でね!」
私の返事を待たずに駆け足でその場を去っていく北山君。『私と授業どっちが大事なの!?』と、思わず面倒な女を演じたくなったが、聞いたところで彼を困らせるだけなので止めておこう。
問題はあの事を聞けなかったことだ。
完璧な美少女の私に隠された秘密、それは……
「ぶわはははは!! 遥、あんた北山に貧乳が大丈夫か聞こうとしたの!?」
体育の時間、他チームのバスケ試合を見学している最中、親友の里原唯に先程の告白の件を話した。結果、私のペタンコラブリーなお胸を唯一知っている彼女は声を出して大笑い。
そう、完璧な美(以下略)の私に隠された欠点、それは胸がペッタンコなことだ。貧乳とかそういうレベルじゃない。きっとお相撲さんの方が私の何倍も巨乳だ。
「里原!! 声がでかいのよ!」
腹を抱えて笑う里原に、思わずムッとして頬を膨らます。
「だって、だって! 普通聞かないでしょいきなり! 『私はおっぱい小さいけど北山君は大丈夫ですか?』って!」
言われてみれば確かにそうだ。
男に『俺はち○こ小さいけど大丈夫ですか?』なんて聞かれたら、戸惑うなんてレベルじゃない。多分、ドン引きする。
里原は目尻に滲む涙を拭いた後、顔を上げて私に尋ねた。
「で? 告白はオッケーしたんだっけ?」
「うん。まぁタイプだったし」
「はい面食い~。きっとまたフラれるに一票」
変顔で煽ってくる里原に苛立ちが増し、思わず彼女のボウリング玉の如し胸を強く鷲掴みにした。
「いだだだだだ!? 何すんのよエッチ!」
「うるさい里原! 胸がでかいからって調子乗んな!」
「……おい。お前達楽しそうだな?」
いつの間にか終わっていた試合、審判をしていた体育教師の田中が鬼のような剣幕で此方を見下ろしていた。
しまった、と思ったが既に手遅れ。私達は放課後の体育倉庫の掃除当番を任せられることになってしまった。
「あーもう! 何で私がこんなこと!」
放課後の体育倉庫。
舞い上がる埃に咳き込みながらも、埃たっぷりの床を箒で掃いていく。主犯の里原は新発売の漫画を買いにアニメ●トに行くからと、逃げるように帰っていった。
くそ、あの腐女子め。爆乳使わないなら私に寄越せよ!
「あー! もうイライラ……」
「桃瀬?」
突然背後から聞こえた声に、思わず心臓が飛び跳ねる。後ろを振り返るとそこには帰り支度を整えた北山君の姿があった。
「掃除? 偉いね」
北山君は鞄を倉庫の端に置くと、床に置いてあった塵取りを手に取ってしゃがみ込み、笑顔で私の前に差し出した。
やめてよ北山君。私は授業中に里原とおっぱいの話をしてたら怒られて、罰として掃除してるだけなんだよ。手伝いなんかしなくていいんだよ。
「それにしても桃瀬は凄いよね。勉強だけじゃなくて運動も出来て」
「え?」
「俺なんか運動音痴だからさ。友達に『お前を見てるとアメ●ークの運動神経悪い芸人思い出すよ』って言われたよ」
ははっと、笑い声を漏らす北山君。
うん、君が運動神経悪いのは知ってるよ。今日のバスケも顔面でボールキャッチしてたもんね。
思い出し笑いをするのを堪えながら掌で口を覆ったその時、北山君が突然何かを思い出したようにいきなり顔を上げて此方に視線を向けた。
「そうだ! 俺達付き合ってるんだからデートしなくちゃ!」
「え?」
「桃瀬! 今週の日曜は暇?」
キラキラと目を輝かせて此方に目を向け直す北山君に、思わず私は反射的に頷いてしまう。北山君は立ち上がると、箒を持つ私の手を両手で握り締めた。
「それならさ! 行きたいところがあるんだけど……」
皆さんは貧乳がバレる恐るべきタイミングをご存知だろうか?
一つ目は温泉。これは同性の友達にバレる可能性が高い。もし貧乳を隠したいのであれば、生理中だから入れないとでも言っておくのが良い。
二つ目は彼氏と○○○○する時。これはもうどうしようもない、諦めろ。誤魔化すには部屋を暗くするくらいしか無いが、揉まれたら即終了。まぁそもそも揉まれる程無いんだけど……って喧しいわ!
三つ目はプール、海。所謂水着になるタイミングだね。夏しか機会は無いし、まぁそんな所行かなければいい訳なんだけど……
「……どうしてこうなった」
私は今、温水プールの着替え室にいた。
何故かって? 北山君が『泳ぎは得意だから桃瀬に見せたい!』って、何故かプールに行くことになったからだよ。
「うああああ!」
どう足掻いてもペッタンコな水着姿で、両手を床について私はその場にしゃがみ込んだ。周囲の人達が明らかにヤバい奴を見る目で此方をチラ見する。
どうして断らなかった、私!
いや、分かってるよ! あの北山君の可愛い笑顔を見たら断れなかったんだよ! 面食いでごめんなさい!
「……しかし、まだ手はある」
私はバッグからあの秘密兵器を取り出した。どうしても水着にならなければならない貧乳女子の味方、胸パッド!!
胸の大きさが不均等にならないようにパッドを胸に詰め込んでいく。あまり盛りすぎると不自然な形になるから、欲張らないように程よく……
「よし!」
私は目の前の鏡を見て大きく頷く。
形良し! はみパッド無し! 綺麗な(偽)Cカップ!
さぁ、いざ戦場へ!!
私は決心を結んだように拳を握り締め、北山君の待つ戦場へと向かうのであった。
北山君の姿が中々見つからず、人が溢れる温水プールを見回す。
ちゃんとどこに集まるか確認しとけば良かったかな……と思ったその時、聞き覚えのある声が耳に入った。
「桃瀬! こっちこっち!」
後ろから聞こえたのは北山君の声。やっと見つかったと笑顔で振り返ったが、彼の姿を見て、私の身体は固まった。
『北山』と書かれたワッペンを付けた水着に、ピチピチに嵌められた黄色い水泳帽、そしてまだプールの中に入っていないにも関わらず、既に装着されたゴーグル。彼の姿は周囲から明らかに浮いていた。
おいおい、何処の水泳スクールの小学生だよ。
「良かった! 桃瀬小さいから中々見付からなくてさ!」
私の心境など露知らず、北山君は笑顔で此方に駆け寄る。周囲の人々の痛々しい視線と彼の何とも言えない姿に、思わず引き笑いを浮かべてしまう。
「北山君……その格好……」
「うん! 最高のコンディションで泳げるように準備してきた!」
私は悟った。彼は女の水着姿などを目的に温水プールへは来ていない。ガチで泳ぎに来た純粋無垢な少年だ。
彼氏とイチャイチャすることを目的に来た女だったら残念と思うかもしれないが、私は違う。
私の今日の目的は貧乳を隠すことである。彼の目的は寧ろ此方にとって好都合だ!
「よし、それじゃあ早速泳ぎに行こうか!」
「うん!」
プールの中へと向かっていく北山君を私は笑顔で追い掛ける。今日は何事も無くすんなり終わりそうだ、と私は完全に安心しきっていた。
北山君は自分で言うだけあって、かなり泳ぎが上手だった。寧ろ上手すぎて周囲から浮いているレベル。というかこんな遊戯の場でガチ泳ぎしてるの北山君だけだよ。
私はプールの端で彼を見ながら、軽くジャンプしたりバタ足をしたりなど、身体を動かしていた。
「ねぇねぇ! あっちに流れるプールがあるって!」
「へぇ。行ってみるか」
近くにいたカップルが会話をしながら私の前を素通りし、もう一つのプールがある方へと向かっていく。
「へぇ……流れるプールか……」
北山君はまだ泳いでいることだし、あの外見なら直ぐに見つかるだろうから、ちょっと遊びに行ってこようかな?
私は泳ぎ続ける北山君をその場に残し、一人流れるプールへと向かった。
「おお~……」
小学生ぶりとは言っても過言ではない流れるプール。この流される感覚の何とも言えない心地よさに、私は仰向けになった状態でプールに身を任せていく。
久し振りのプールも悪いもんじゃない、そんな呑気な事を考えていたその時、近くから笑い声が聞こえた。
「おい、何だこれ」
「やだぁ。落とし物じゃん」
何だ? と思って会話が聞こえた方向に目を向ける。そして次の瞬間一気に血の気が引いた。会話主のカップルの男の手に握られていたのは見覚えのある肌色のパッド。そして私の片方の胸からはそれが消えていた。
「あ、あ、あ」
それ私のです! なんて言える訳もなくその場で狼狽えている間に、カップルは笑いながらそれを水の中に投げ捨てる。
「捨てとけ捨てとけ」
「あはは」
無慈悲にも水に流されていく胸パッド。焦った私はそれを追い掛けようとしたが、プールの床底を蹴ったその時、足の筋肉がプチッと変な音を立てた。
「いっ!?」
や、やばい、足つった。上手く泳げない。
暴れれば暴れる程に身体が水に沈んでいく。
「あばばば」
水の中に顔が浸かり、鼻と口の中に水が流れ込む。鼻の刺激と痛み、そして息苦しさに私は水の中でもがき続ける。
嫌だ、私こんな場所で死ぬの?
誰か、助けて……
「桃瀬ーーー!!」
突然頭上から聞こえたあの声。溺れていて姿は見えないが間違いなく彼の声だ。沈みかけていた私の手は誰かによって勢い良く引き上げられる。
私を水の中から救い出してくれたのは、他でもない、黄色い水泳帽をつけた北山君だった。
「ゲホッ! ゴホッ!」
「大丈夫か!? 桃瀬!」
北山君はプールサイドへと私の身体を引っ張り、懸命に背中を擦る。助かった事に安心したのも束の間、無くなった胸パッドか直ぐに脳裏に浮かんだ。
Aカップへと成り果てた左胸を慌てて両手で隠す私に、北山君は怪訝な表情を浮かべる。
「何してんだ? 桃瀬」
「え、いや、あの……」
何とか誤魔化せないかと言葉を探したが、いくら鈍感な北山君でもこれ以上は無理だ。隠しても仕方がないと、私はゆっくりと両手を胸から離した。
左右で明らかに違う胸の大きさに、北山君は瞬きを繰り返して私(の胸)を見つめる。
「ごめんなさい。これが本当の私なの……」
目に涙を溜めながら震える声で話す私。北山君は暫く何かを考え込んだ後、深いため息を一つ吐いた。
もしかして嫌われた!?
そんな事を思ったその時、北山君は私の手を小さく握り締めた。
「桃瀬、ごめんね。俺がこんな場所に誘ってしまったから、こんな辛い目に合わせてしまったんだね」
「……え?」
「でも俺は君が小さい胸でも気にしないよ。君が小さい胸を隠すために、小さい胸に詰め物を入れて、小さい胸を誤魔化そうとしても」
おい、ちょっと。
小さい胸連呼し過ぎだろ。
「それに長く付き合っていく上で胸の大きさなんて関係ないよ。只の部位でしかないんだから」
「北山君……」
北山君は水泳帽を外し、私に優しく微笑む。
く、水泳スクールボーイからただの水も滴るイケメンに変わりやがった!
「桃瀬。俺からのお願い、聞いてくれる?」
「は、はい!」
私はその場に正座して身体を彼へと向け直す。北山君は私の頭を優しく撫で、もう一度私の手を両手で握り締めた。
「俺は桃瀬のことが好きだ。だから君にはありのままの姿でいて欲しい」
「北山君……」
「約束、出来る?」
恥ずかしげも無く尋ねる北山君に、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。私は恥ずかしさを隠すように唇を結び、小さく頷く。
「私も、北山君が好きです。だからありのままの姿を見せたい」
「ほんと?」
「……うん」
再び頷く私に、北山君は嬉しそうに目を細め、私の頭を自分の胸に引き寄せた。
ああ、北山君が私の彼氏になってくれてよかった。心から幸せだ。
私は胸パッドを無くした左胸の前で手を握り締め、幸せな気持ちをただ噛み締めるのであった。
後日、学校で里原にプールでの一件を話したところ、案の定大爆笑された。
「あはははは! あんた達、本当に面白いわね!」
「もう、笑わないでよ!」
前の席で腹を抱えて笑う里原に口では怒りつつも、今は心に余裕があった。
何て言ったって、私には北山君という素晴らしい聖人のような彼氏がいるからね!
「桃瀬。一緒に帰ろう」
日誌当番を終えた北山君が片手に鞄を持ち、私の席へとやって来た。彼の優しい笑顔に、思わず此方も気が抜けたようなデレデレの顔になってしまう。
「あー。早く帰れバカップル」
里原は呆れたような溜め息を吐きながら、片手を振って追い払う仕草をした。私は里山に別れを告げ、北山君の隣に並び教室の外へと向かう。
「あ、そうだ」
突然何かを思い出したように立ち止まる北山君。私は首を傾げて彼の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「今日の授業で分からないところあったんだよね。教えてくれない?」
へえ、成績が毎回学年一位の北山君に分からないところがあるなんて珍しい。
「でも今はテスト前だから図書館も混んでるし、教室も長くは使えないよね。どうする?」
北山君は暫く考え込んだ後、何かを閃いたような表情を浮かべ、私に微笑んだ。
「それなら俺の部屋来ない? 幸い今日は家族も誰もいないしさ!」
「え、北山君の部屋?」
「うん! 駄目?」
ニッコリと笑う北山君。
考えたくはないが、彼のこの笑顔に下心があるようには到底見えない。
プールの一件もあるし、きっと大丈夫! 彼は聖人だ!
「いいよ! それならコンビニでお菓子とか買って帰ろ!」
「そうだね。他にも必要な物があるだろうし」
こうして、私達は勉強をする目的のために北山君の家へと向かうこととなった。
その後、北山君の家で予定通り勉強が行われたのか、はたまた違うことが行われたのかは、ご想像にお任せします。
まぁ、胸の大きさを気にしないからと言って、彼が聖人であるとは限りませんよね笑
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