エピローグ
七年後。
十二歳になった私はアルマお母様が設立した学園を飛び級で卒業し、ブロッサム商会の商会長の座をアルマお母様から譲り受けて今日も執務室で書類を捌いている。
こうして見ると改めてアルマお母様の凄さが分かる。
明らかに時代を幾つも飛び越えているのではないかと思われる商品についてもさることながら、人材、人脈も舌を巻く。
普段から「人は石垣、人は城。人は宝よ」と言っているだけのことはある。
人を大切にするアルマお母様だからこそ人が着いて来ていたのだろう。
私も負けないように頑張らないと。
アルマお母様から私の代になった途端にブロッサム商会が潰れた、売り上げが落ちたなんてことがあったら目も中てられない。
私は必死に山積みの書類にサインなどをして片していく。
時間を忘れる中、ふと感じる人の気配。
「邪魔しちゃったかしら?」
「パトリシアお母様。いいえ、少し休憩にしようかなと思っていたところです」
「そう。良かったわ。お茶に誘おうと思っていたのよ」
「ご一緒します。パトリシアお母様。..アルマお母様は?」
「相変わらず、だわ」
"ふぅ"と小さなため息を吐くパトリシアお母様。
アルマお母様はブロッサム商会を私に継がせた後は領主の仕事を山程抱えている。
パトリシアお母様と半々にすればいいのに多くの仕事を自分が持つようにしている。
仕事が好きなのか、パトリシアお母様を楽させようとしているのか。両方?
紅茶を淹れてくれるパトリシアお母様。
「パトリシアお母様、それくらい私がやります!」
「いいのよ。アルマのせいで私暇だもの。これくらいやらせてちょうだい」
口では恨み言を言いながらもその顔は優しい顔。
アルマお母様のことが大好きで仕方ないんだなぁって分かる。
「ルリ、そう言えば禁断症状はまだ平気かしら?」
「はい。明日に血を吸って貰えれば」
「そう」
私はアルマお母様と同じくパトリシアお母様の眷属になった。
私が人間でなくなることに最初は難色を示していたお母様達だったけど、私が引かないと分かると了承してくれた。
これでお母様達と同じ刻を生きることが出来る。
大好きなお母様達といられるなら人間でなくなることくらいどうってことない。
「美味しいです」
「そう。良かったわ。ほんとはアルマのほうが上手なんだけど」
「パトリシアお母様はアルマお母様が淹れたお茶が大好きですよね」
「ええ、子供の頃からずっと飲んでいたから」
「懐かしいわ」なんてパトリシアお母様は笑う。
お母様達の子供時代って可愛かったんだろうなぁ。
見てみたかった。
「ルリ?」
「はい!」
いけないけない。
ついつい想像してニヤケてしまっていた。
でもやっぱり見てみたかった。
もっと早く生まれてれば。残念過ぎる。
「お母様達可愛かったんでしょうね」
「アルマは可愛かったわ。ああ、今でも可愛いわね。失言だったわ」
「パトリシアお母様。ご馳走様です」
隙あれば惚気。
私に微笑むパトリシアお母様。
居た堪れなくならないのは私もお母様達のことが大好きで同じだからかな。
「私が何?」
「アルマ」
「アルマお母様」
「仕事は良いの?」
「私も休憩だわ」
いつ来たのか。
椅子に身体を預けて背伸びをするアルマお母様。
"ボキボキ"なんて身体から可愛くない音がする。
「アルマお母様、少しは身体を労わって下さい」
「もっと言ってあげて欲しいわ。ルリ」
「ごめんなさい...」
私の言葉よりパトリシアお母様の言葉でアルマお母様が苦笑い。
そのままアルマお母様はパトリシアお母様の肩を引き寄せると私がいる前で当たり前のようにキス。
七年間ずっとその様子を私は見てきた。むしろ自分からキスしあって欲しいと頼むこともあった。
だからお母様達は遠慮することもなくなって。
うん、とても眼福。
「ルリ」
「何? アルマお母様」
「貴女の恋人はいつ紹介してくれるのかしら?」
「うっ...」
お母様達の営みに目を細めていたら藪蛇。
アルマお母様もパトリシアお母様も楽しそうにこちらを見ている。
隠れて付き合っていたのにお母様達どうして知って。
ううん、当然かな。
お母様達には優秀な諜報員の方がいるし。
「別に彼女達に頼まなくても分かるわ」
「そうね。学園からの帰り道、別れ際に屋敷の前でキスしてたら分かるわ」
「心を読まないで下さい。後、見てたんですね」
「あれだけの頻度でしてたら当たり前だわ。見せつけてるのかと思ってたのだけど」
「...っ。サラは.......明日連れて来ます」
「ルリの想い人はサラちゃんって言うのね。楽しみにしてるわ」
「泊まっていくように言っておいてね」
「はい」
赤面する私を余所に楽しそうなお母様達。
次は私達がお母様達の...。
その後ルリは恋人サラと数年後に結婚。
二人でブロッサム商会を盛り上げる。
時にはアルマ以上の物を作りだし、ブロッサム商会は全盛期を迎える。
これによりラナ公爵領もその恩恵を受けて更なる目覚ましい発展を遂げ、アルマ・パトリシア・ルリにサラは存命時も死後も、この世界においてその名を知らぬものはいないという程の人物となる。
又身分差の恋や同性婚、平民から貴族への成り上がりなどは多くの人々の心に残り、吟遊詩人の歌や本の中の物語として末長く後世に語り継がれていく――――。
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第二部 End.
これにて一応の完結とさせていただきます。
後は第二部の人物紹介と閑話を一つ投稿予定です。




