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2-②

 翌日の会議。

 見事に女性は私一人だった。

 伯爵席に座ると幾人かの私を蔑む瞳。値踏みするかのような者も見受けられる。


「おや? ここは貴族の会議の場ですよ。何故女性がここにいるのですかな」


 一人の貴族の言葉で"ドッ"と室内に笑いが巻き起こる。

 貴族の下は平民。

 では「平民」とは言わず「女性」と言ったのは彼らの中で「女性」は取るに足らない存在ということなのだろう。

 屈辱、侮蔑に激しい苛立ちを感じるが感情を表に出さないように努める。


「その瞳...貴様まさか魔族か!!」


 ・・・・・。

 思い切り出ていたらしい。

 私は人間と魔族のハーフなパトリシア様の眷属な為かどうも割と半端な魔族らしい。

 そのせいで普段は人間と変わらないものの、感情が昂ぶれば魔族の血が活性化して瞳などに「魔」の証が現れる。

 面倒なことだと思う。だってこれってある意味私が考えていることが丸わかり。

 ざわつく場を沈める為私は無理矢理感情を殺す。


「失礼しました」


 どうにか「魔」を抑え込んで頭を下げる。

 胡散臭く笑みを作ってみるが場は少しも静かにならない。


「何故魔族がここにいる!」

「もしや人間との不可侵条約を破るつもりですかな?」

「女性であるだけではなく魔族とは。なんという」


 ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩い。

 せっかく「魔」を抑えたのにこれではあまり長く持ちそうにない。


「そうですわ。この者を摘まみ出すべきです」


 私の隣から女性の声。

 以前お会いした時よりも更にふくよかになられたイザベラ様。

 頭の中ですっかり存在を消してしまっていた。


「失礼ですが一応貴女も女性では?」


 リリウス伯爵による突っ込み。

 一応と言われたことでイザベラ様の顔が真っ赤になる。

 イザベラ様がそれについて言及する前にジーク侯爵による愚貴族達への牽制。


「先程から黙して聞いていれば皆様方は全員自分の目は節穴だとわざわざ宣言なさっているようですね」

「何を言うか!」

「おや、違いましたか? 社交会、今は亡き王からの爵位授与、今回の葬儀にしてもそうだ。諸々の場でアルマ殿の姿を拝見することがあった筈ですが?」

「それとこれとは別だ。大体私は反対だったんだ。女性がこの貴族の円卓に座るなど」

「なるほど。では貴公はこの国の在り方に反対するというわけですな?」

「何を!」

「第一王子の戴冠式がなされていない今、国の頂点はまだ亡き王です。その王がお認めになったものを反対するということはそういうことでしょう?」

「ぐぬっ、ならば第一王子が立てば女性などすぐこの場から排除してやる」

「よろしいのではありませんか? アルマ殿は少しも困らないと思いますし」

「はっ?」


 それ以上ジーク侯爵は何も言わない。

 よく分かっていらっしゃる。

 私は少しも困らない。

 困るのはこの国のほうだ。


「・・・・・」

「・・・・・」


 漸く場に静寂が訪れる。

 それを見計らったかのように入場される王族の方々。

 第一王子にその奥方、第二王子、王妃様。

 第一王子が私達の顔を見回す。


「皆、今日はよく集まってくれた。早速だが余はひと月後にこの国の王となろうと思う」


 これに貴族達から様々な声。

 私はとりあえず様子を見守る。


「時期尚早ではありませんか」

「国民がどう思うか。せめてもう少し後にされたほうがよろしいかと」

「それはよろしいですな。殿下はこの国を背負うに相応しいお方ですからな」

「現在国は統治する者を失い混乱しております。ひと月と言わず殿下にはもっと早く国王として立っていただきたい」


「うむ。よく言ってくれた。余は嬉しい。そうだな、戴冠式を早める必要があるやもしれんな」


 反対意見もあった筈だけど。

 どうやら第一王子は自分に耳障りの良い言葉しか聞くつもりがないらしい。

 この時点でこの方がもし王様になったらどうなるかが想像出来る。

 都合の良いことばかりを聞いて反対意見は無視。

 国は間違いなく衰退の一途を辿るだろう。


 頭痛がして来る。

 にわかに騒がしくなる中、私は口を開く。


「殿下は国王となった暁にはこの国をどのようにされるおつもりですか?」

「女性の身でありながら殿下に質問などなんと無礼な」


 イザベラ様の咎め。

 自虐のようにも思えてしまう。

 困惑する私。

 第一王子がざわめく皆を手で制し私の質問に回答する。


「良い。うむ、そうだな。諸君ら貴族の為最大限の便宜を図ろうと思う」

「それは民はどうなるのですか?」

「民は民だ。領主の采配に任せようと思う」

「王都の民はいかがなされるおつもりですか?」

「それよ。父上は愚王であった。消費が冷え込むのなら何故税金を上げなかったのか。物に税を掛ければ金は回るというのに」


 消費税か。

 あれのメリットは増税で国の予算が増えること。

 デメリットは民が消費を抑えて経済が回らなくなること。

 ハッキリ言って景気の良し悪しに強く左右されることを私はよく知っている。


「殿下、僭越ながら申し上げます。それこそ時期尚早かと思います」

「何を言うか。諸君ら貴族もそれで潤うのだぞ」

「しかし民が苦しみます。殿下は先程貴族に便宜を図るとおっしゃっていましたが国は有力者のものとお考えですが?」

「いや、国は余のものだ。便宜は図るがいかに貴族であろうと余の歯車であることを忘れて貰っては困る」


 ああ、この方はやっぱりダメだ。

 私はそこで第一王子との会話を打ち切ってあの日魔族の王ことバエル様と謁見した時のことを思い出す。

 凛としたお顔立ち、深紅の瞳、腰まで棚引く美しい銀色の髪、透き通るほど白い肌。

 まさしく美青年と呼ぶに相応しいお姿でありながらその容姿と反して纏う雰囲気はさすが魔の王たる者。

 もし迂闊なことを言えば私の生命など一瞬で飛ぶと比喩ではなくそう思った。


「この度は謁見の機会を与えていただきありがとうございます」


 震える声でバエル様に挨拶をしたことが記憶に新しい。

 あの時は死の鎌が喉元に突き付けられているようで本当に恐ろしかった。


「そう委縮せずとも良い。アガレスから話は聞いている。我らグリモワ帝国に繁栄をもたらせてくれているらしいな」

「勿体なきお言葉。ですが私の力など微々たるもの。バエル陛下のお力あればこそと存じます」

「ふむ。アルマと言ったか? どうもお前は普通ではないらしいな」

「...? どういう意味でしょうか?」

「我には亜麻色の髪の少女の他に黒髪の女性が見える」

「......っ」

「それが貴公の秘密ということか」

「私はアルマです。他の誰でもありません」

「そうか。分かった。さて我らの力を借りたいという話だったな」

「無礼を承知でお願い申し上げます。領地を守る為何卒お力をお貸しいただきたい」

「ふむ」


 バエル様が玉座から立ち上がる。

 数歩歩いて私の元へ。


「貴公は民が好きか?」

「民なければ国はありません。国を支えているのは民です。私はそんな民を...妻の次に愛しています」

「妻の次か。くくくっ、ははははははははははははっ」

「よかろう。貴公は面白い。グリモワ帝国の公爵の爵位の座を与えよう」

「えっ.....。よろしいの...ですか?」

「うむ。我も民が好きだ。貴公の言う通り民あっての国よ。「人」はそれを履き違えている者が多いがな」

「バエル様...」

「ところでまだ時間はあるか?」

「...? はい、ございますが?」

「ふむ。では」


 私はこの後まさかの将棋勝負に付き合わされた。

 バエル様はお強く、私は飛車角を取られた上守りを丸裸にされて敗北した。


「・・・・・」


 あの時の雪辱。

 近いうちに返すつもりだ。

 あんな負け方はあまりにも...。


 私が現実逃避をしている間に会議は勝手に進んでいた。

 このままこの国は第一王子の玩具となるのだろう。

 私がそう考えていた矢先、それまで黙っていた王妃様がお声を上げた

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