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2-①

 <<追放された令嬢の為に田舎町の開拓頑張ります!>>

 果たしてその本の進行とこの世界の進行は何処まで同じだったのだろうか。

 仕事の休憩中、私はふとそんなことを思いながら執務室の天井を眺めていた。

 私ではないけどアルマの中で前世の記憶が蘇って二つの記憶が一つに融合するところまでは同じ。

 その先名前は違うけど商会の立ち上げ、リリウス伯爵との商談までも同じ。

 違うとしたらその先くらいからだろうか。

 本の中の主人公アルマは今思えば私よりももっと上手く世の中を立ち回っていた。

 そう言えば私は三巻の途中までしか知らない。

 その先何が書かれていたのだろう?

 気になる。モーリス様の過去やフィーネ様の過去? トリシアと私のような恋愛?

 もしかしたら主人公アルマは、この領地は今の私と同じような状態になっていたのかも。

 とそこで私は私を笑う。

 何をバカな。


 アルマの中で蘇った記憶は私じゃない。

 つまり<<追放された令嬢の為に田舎町の開拓頑張ります!>>とは()()()()全部違っているじゃないか!!

 ここは現実世界。私は主人公じゃなくただのこの世界に生きる生命のうちの一人だ。


 崩していた姿勢を正して仕事に復帰。

 モーリス様からの報告書に目を通しているうちに覚える違和感。

 詳しく話を聞く為モーリス様を呼ぼうとしたらタイミングよくいらしてくれる。


「アルマ様、今少々よろしいですかな」


 相変わらずこの方は。

 凄すぎて逆に怖い。


「丁度良かったです。私からも質問があるのですが」

「ほほお。それはなんですかな」

「最近王都からの移住者が多いようですね」


 私は報告書の中、移住者希望リストに目を落とす。

 言い方はあれだけど「普通の」移住希望者ならば別によい。

 私が気になるのは移住希望者が「普通の」ではないことだ。


「鍛冶師に織り師他、貴族様方まで。これは一体どういうことでしょうか?」


 手に職がある人々。

 即戦力な人材はこちらとしては嬉しい悲鳴であるけど引っかかる。

 そんな人々が何故わざわざこちらに移住を希望するのか。

 王都でも充分に暮らしていける筈なのに。


「それがどうも近頃王都である噂が流れておりまして」

「どういうことですか?」

「王が病床の淵にあるとか」

「それは本当ですか!?」


 もし本当だとすれば次期国王となる第一王子の手腕に不安があり王都から逃げ出すように移住者達はラナ伯爵領に移住希望を出してきたというところか。

 分からないでもない。

 あの方は政治には全く向いていない。

 かと言って第二王子にその素質があるかというと、残念ながらそれもない。

 親が政治をそれなりに出来るからと言って子供がその才を受け継ぐかというと必ずしもそうではない。

 王子様方はその悲しい例だ。

 これだから世襲制というものは...。


「う~ん...」


 移住を希望してきたからには受け入れる。

 受け入れるけど、領地運営をそのままというわけにはいかない。

 仮に王様がこのまま亡くなったとして後を継いだ第一王子が言いがかりをつけてこないとも限らないから。

 例えば王都から人を奪ったとか。

 又はこれは少々考えすぎなところも否めないけど、王都にまともな人材がいないと分かれば他国はこれ幸いにと攻めて来るだろう。

 武器を持って戦うだけが戦争じゃない。

 経済だって戦争の武器となりうる。

 その際アリアノラ王国に属しているこのラナ伯爵領も否が応でも巻き込まれることは明白。

 民の暮らしを守る為にも私は手を打つ必要がある。


「モーリス様、まずは王都の噂が真実かどうか調べて貰えますか? それからこれからアガレス様へ書状を書きます。フィーネ様に届けていただけるようご指示をお願いします。後、官僚達を呼んできてください。それからブロッサム商会の財務担当者も。念の為に裏帳簿を作ります。最低なやり方ですが」


 もしこの世界に東京地検特捜部。みたいな組織があれば私はそんなことはしない。

 ないから姑息なやり方と分かっていてもその手段を取る。

 実際の経済状況よりもわざとほんの少し悪く王都に申請する。

 そうしておけば王都からこの領地に支援を申し込まれたとしても少々少な目に済ますことが出来るし、浮いた分領地が苦しくなった時に水面下で民に支援することが出来る。

 領地を守るのが私の仕事。

 例え王都からそれで何か言われたりしたとしても、その時はいっそ王都を見限ってしまえばいい。

 イザベラ様とごたごたを起こしたあの時はまだまだ力がなかったからそれを回避するよう私は動いた。

 しかし今は充分に力がある。

 伯爵でありながら公爵・侯爵様を上回っている程に。


 これからやることが全部無駄に終わるならそれでいい。

 むしろ本音を言えばそうなって欲しい。

 私はそう願いながら諸々の指示を各部署に出した。


 果たして何故か悪い予感は当たるもの。

 私がこれを危惧した数週間後に王様が急死されたことが伝えられ、国は混乱に陥った。

 私とトリシアは王都に行き葬儀に参列。

 その際ジーク侯爵から今回の王の死に不審な点がある事が伝えられた。


「つまり第一王子を王様にしたい何者かが王様をそうしたということですか?」

「まだそれはなんとも言えんが可能性はあるということだ」

「それは面倒なことになりそうですわね」


 他の誰にも聴こえないように小声。

 私達は雨の中でアリアノラ王の喪に服す。

 この雨も私達の聴かれてはならない会話を遮断するのに役に立ってくれた。


 王都にいる間に事態は案外急速に動いた。

 第一王子が一ヶ月後に国王となることを彼の側近達が宣言。

 貴族達の「早すぎる!」との反発の声を受けて宣言の二日後に王族と伯爵以上有力貴族による会議の開催が決定された。

 開催は翌日。私は王城の来賓室でトリシアと寄り添う。


「一人だけってことみたいだけどどっちが出席する?」

「私が。と言いたいところだけどアルマが行ったほうがいいかもしれないわね」

「どうして?」

「悔しいけど貴女のほうが何かあった時対処の方法を思いつくでしょう?」

「買いかぶりすぎだわ」


 トリシアをそっとベットに押し倒す。

 その胸に顔を埋めると私が大好きなトリシアの香り。


「貴女が甘えるのは珍しいわ」

「正直怖い。行きたくない...」

「そう」


 トリシアが私の頭を撫でてくれる。

 優しい手つきに落ち着いていく私の心。


「ありがとう、トリシア」

「落ち着いたかしら?」

「ええ。でももう少し甘えさせて」

「いいわ」


 唇と唇を重ね合う。

 私は心行くまでトリシアに甘えた。

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