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ユウシャと呼ばれた正樹は自分が考える勇者の召喚とはかけ離れた状況にさらに混乱した。普通、勇者と言ったら大きな王宮の玉座の前で何十人という近衛兵に囲まれながら、美しい姫君と引き換えに一国の危機を救う為にその大役を担う存在だと考えられるだろう。
しかし正樹が置かれている状況は石造りの王宮とは全く異なる神殿のような内装をした建物の中で、美しい姫君もいなければ、ましてや服すら着ていない。
正樹を見る4人の男たちの様子からは一国の救世主となって欲しいというような期待は微塵も感じられず、ただ風化して崩れた壁の隙間から風と日光を感じるだけだった。
まだ整理がつかずただ呆然とする正樹に今度は別の男が手に持っていた服を乱暴に投げて
「これに着替えたら俺たちについて来てくれ」
とだけ伝えて、他の男たちと一緒に外へ向かってしまった。
風に当たり続けて寒かった正樹はとりあえず服を着て、急いで彼らの後を追った。どんどんと足を早める4人の男らは一言も喋らず、ましてや正樹と顔を合わせたり、目を見たりすることは一度もない。
そんな冷たい空気感を前に歩みを進める正樹は少しでも情報が欲しくて周りを見渡す。しかし周りはただの草原で、眼前の景色からはどこかは分からない
正樹を前を行く4人の男らははっきり見えないものの皆ヨーロッパ系の顔つきをしていた。だが肌が白いスラヴ系のような人もいれば、鼻や頬骨などがラテン系ぽい人など全員違う人種のように見え、一概に「ここらへんっぽい」と細かく推定するには情報が足りなかった。
着ている服も単なる半袖、半ズボンで別段奇異な衣装ではないので、これもまた場所を特定する判断材料としては弱かった。
歩く道は舗装されておらず生い茂る草を掻き分けて進むため、草が足に触れる不快感と歩きづらさから来る疲労感で正樹の思考はだんだんと鈍る。
「どこだよここ…」
未だに状況が読めない心境からか、ふと言葉がこぼれる。ようやく口から出た言葉はそんな程度のものだった。