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プロローグ

「勇者イトウ・タケルがこの城の正門を突破しました。」


「……」


 玉座に疲弊した王が座り込んでいた。「沈黙の国王」と称される王はかつては世界で最も美しい男であると言われていた。しかし、その国王にはもはやかつての面影はない。その姿は醜悪で、角が生え、紫色の毒々しい肌をしており、人々に嫌悪感を与えた。けれども、ここにいる者たちは皆、そんな国王に忠誠を誓っている。見た目ではなく、その心に感服しているからだ。


 重い空気が場を支配する中、ついに、国王が重い口を開いた。


「分かった。いままで私に仕えてくれて感謝している。そして、今からお前たちに最後の命令を下す。この場を脱出し、姫を死守しろ。決して勇者に明け渡してはならない。」


「「「「は!」」」」


「頼んだ」


 国王陛下が恭しく我らに頭をお下げになった。なんということだ。


「頭を下げないでください、陛下!我らは王の剣!命じてくださるだけで良いのです!」


 国王陛下が我ら四人に頭を下げた。それだけで命を賭すには十分な理由になる。


 俺達、聖騎士の四戦士は命に代えてでも必ず勇者から姫を守り通すのだ。


 ***


 この国は数年前までは世界で最も美しく、栄えた国であった。しかし、隣国の狂った暴虐の王が我らの国に呪いをかけ、私たちの国の土地を荒廃させ、人々の容姿を醜く変えた。それも、酷い理由からである。


 隣国の王は数百人の愛人や妃を侍らし、戦争の度に女を犯し、犯した後に殺す等、女性を人と思わず、「悪の国王」としてその名を世界に轟かせていた。


 ある時、その悪の国王が我が国の姫(7歳)を見初めて、婚姻を申し込んできた。もっとも、国力において差はなく、王の人格に難があることは知っていたから、我らの王は申し出を断った。これに激怒した悪の国王は彼女を手に入れるためだけにこの国に戦争を仕掛けてきたのだ。


 海に面した我らは他の大陸との貿易を担っており、物資に困らない。正攻法で戦えば確実に我らの国が勝利するはずであった。ところが、悪の国王は自分の国の国民と奴隷の多くを生贄に、我らの国に呪いをかけて、醜い容姿に変貌させた。姫様を除いて、この国の人々全員が醜い化け物のような容姿に変貌した。その結果、世界中が私たちの国に距離を置き、多くの国々が我らの国に宣戦布告し、豊かな土壌と海を手に入れるために同盟を結び、攻撃を仕掛けてきた。


 だが、我が王国の民はたとえ自らの容姿が醜くなり、世界中が侵略してくる中でも、王を慕う国民と兵士たちが一心不乱に戦い、敵の侵略を阻んだ。敵にとって誤算だったのは我らの力が呪いによって大きく増強していた事であろうか。子供であっても屈強な兵士相手に互角に戦えるようになっていった。


 その結果、世界各国は我ら国民の力に脅威を抱き、ヘッドハントすることにした。私たちの国民の生活を保障し、結婚相手を斡旋してやることで、多くの国民のハートを掴み、多数の国民が離反した。普通に生活をして、普通に結婚して、普通に家庭を持つ。国民は普通を望み、普通に戻りたかったのだ。だが、現実は非情であった。これは戦争から数年後に判明したことだが、呪いは赤子にも継承され、醜い容姿の子供が誕生するため、多くの国々はこのままでは自分たちが打倒されると懸念した。もっとも、兵力を増強する呪われた赤子は捨てがたい。したがって、赤子のうちに取り上げて、彼らに戦闘以外の教育を施さずに家畜として飼育し、子供に実の親を殺しに行かせることを折衷案として各国では徹底した。


 毒には毒をもって制する。人ならざる者である彼らは魔族と呼ばれるようになり、魔族の子供で私たちの国に攻撃してきた。元は同胞であるが、彼らは言葉を解さない戦闘機械である。殺さないという選択はあり得なかった。


 そんな中、魔族の血を引く赤子の中から人の姿をした者たちが現れた。通常の魔族の力を凌駕し、誰よりも残虐な、人の言葉を解する怪物たちが世界各国で誕生した。彼らは前世の記憶があると主張し、魔王をこの手で打ち滅ぼすと声高に主張した。


 彼らは3歳から5歳であるにも関わらず、国に多大な影響を持つに至った。彼らは魔族と呼ばれることを嫌い、自らを勇者と称した。


 とりあえず各国は魔族の国の王である魔王を殺すように指示し、姫を連れてきた場合には爵位をプレゼントすることを約束した。


 そして、強力な力を誇る勇者の攻撃により、城が落城し、勇者に滅ぼされようとしていた。


 ***

「姫様、逃げましょうぞ。」


「その前に貴方方の顔を見せなさい。」


 御歳16歳になられた姫様は非常に美しく、我ら聖騎士とて、鎧で顔を隠さなくては直視できない。


「お言葉ですが、私たちの容姿は人前に晒せるようなレベルではありません。」


 見せられるような顔をしていれば、いつでも見せられる。


「主の命令に逆らうのかしら?」


 姫には美しいものだけを見せたいと断じた王は姫の前で素顔を晒さぬように臣下に厳命した。だが、その国王も今日、死ぬことになる。


 だから、新たな主である姫の要望に応えたいと思う。


「それでは私がお見せしましょう。」


 聖騎士の隊長である俺ならば人に顔を見せることができる。


 兜を外した隊長である俺の容姿を見て、姫様は驚いた。


「ふ、普通の顔だわ!」


 聖騎士に所属する兵士は高い聖属性の適正を持ち、呪いに対する耐性が強い。短時間であれば呪いを相殺して元の容姿を再現することができる。


 俺の部下の三人も数分程度なら呪いを解除できる。もっとも、そのようなことをしても意味はないのだが。


「イケメンでも不細工でもなくフツメンだったのね!」


 聖騎士に幻想でも抱いていたのだろうか?かなりショックを受けているようであった。


 どや顔をついしてしまった。


 すると、姫さまが殴ってきた。ポカポカ殴られるのは少し痛い。


「想像と全然違うじゃない!イケメン騎士とのいちゃラブものでも不細工による凌辱ものでもないなんて、誰得なのよ!」


 姫様は時々、よく分からないことを喋る。フツメンで悪かったな。


「それでは、城を離れましょう。」


 俺が先導して、姫を城の隠し通路から外へ連れ出した。城を出れば後は馬を走らせてこの場から離れるだけだ。


「私は馬に乗れば良いのね。」


「ええ、その通りです。」


 この姫様はお転婆なので乗馬も得意だ。馬車では時間がかかるので、姫様にも馬に乗ってもらう。


「さよなら、お父様。」


 今頃は国王が勇者と戦っているだろうな。本来なら騎士は国王のために命を捨てなければならない。だが、俺らは姫様の護衛をしろとこの一年は口酸っぱく教えられた。


「姫様、それでは行きましょう。」


 俺達は姫の聖騎士。絶対に彼女を守る。

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