対決
英治郎の剛剣が信一郎を襲う。
初太刀をはずしても、次から次へと二の太刀三の太刀が襲い掛かる。
信一郎は、稽古の時と同じく、徹底して受けに回ろうとする。
その時になって、信一郎は初めて気が付いた。
体に力が入らないのだ。
酒毒は抜けたように見えて、信一郎の体の奥に確実にその爪あとを残していた。
生まれて初めて酒を飲んだ信一郎は、そのことに気が付いていなかった。
押しに押してくる英治郎の剛剣を必死の思いで防ぐが、相手の隙を見つけるような余裕はまるでない。
信一郎の修行の成果をたった一晩の酒が根こそぎ台無しにしてしまっている。
息が上がり、汗が吹き出す。
信一郎の一瞬の隙を付いて伸びた英治郎の剣が、脇腹を浅く切り裂いた。
ふたりが間合いを取る。
英治郎は、獲物の外傷を確かめる狼のような目で信一郎を見つめ、唇の片方をわずかに上げる。
「ふふふ。おまえの親父の話をしてやろうか」
市井での無頼な日々は、英治郎の人品を卑しくしていた。英治郎は互いの力量を見定め、勝利を確信した上で信一郎を弄ろうとしている。
息の上がった信一郎は、わずかながらも時間稼ぎのために英治郎の申し出を受けた。




