仇との遭遇
品川に到着すると、目指す旅籠は本陣にも指定される大きな旅籠で、すぐにわかった。門をくぐり、玄関で訪いを入れると、手代らしき男が現れた。
「こちらに、丸山英治郎という武士が逗留してはおりませんか」
信一郎は丁寧に訊ねた。
男はあごに手を当てて首をひねり「さて……」と言ったきり、黙りこくった。
当然の反応であろう。
仇を持つ身で本名を名乗るわけもなく、店に事情を話してあれば、その存在すら秘匿しようとして何ら不思議はない。
信一郎は、いきなり刀を抜き、男の眼前に突き付けた。
「ひっ」
男がのけ反って尻餅をつく。
信一郎一歩進んで、その鼻先に切っ先を突き出す。
「あわわわわ」
その様子を見て、店の他の者が悲鳴を上げた。
一瞬にして旅籠の中は騒然となり、人が集まってくる。
ここまでは、信一郎が道々考えた通りに事が運んでいる。
悲鳴を聞いて、奥からふたりの武士が姿を現した。
自分の店で揉め事が起これば、用心棒は当然姿を現す。
信一郎がふたりを見る。ふたりのうちのひとりは、案にもれず丸山英治郎だった。
英治郎もまた信一郎の姿を認め、大きく目を見開き、火を噴くような目つきで睨みつけている。
英治郎は相馬中村藩にいたころよりも痩せており、目は吊り上がっていて、どこかやさぐれた印象を与える。
信一郎が刀を鞘に戻す。
周りの人間も、睨み合うふたりの尋常ではない雰囲気に気が付いた。




