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逆転~相馬中村藩仇討ち秘話~  作者: 大平篤志
11/21

探索

 信一郎は、判助の話を頼りに、板橋に向かった。


 なるほど、判助の言うとおり、江戸には人が多い。

 板橋の宿についても、信一郎はどうやって英治郎を探せばいいのか皆目見当もつかなかった。

 仕方なく、宿場町を歩き回ったが、道行きを急ぐ旅人ばかりで、英治郎らしき人間の姿は影も見えない。


 信一郎は、三日間あてどなく歩き回った末、考えを改めた。

 仇持ちの人間が、表を堂々と歩き回るとは考えづらい。

 そして、自分も能天気に顔を晒して歩いていた事に気づき、編み笠を買い求めた。


 翌日より、信一郎は旅籠を一軒一軒訪ねて歩き、女将や主人、番頭といった人間ではなく、下働きの小女や小僧に駄賃を与えて英治郎のような風体の人間が逗留していないか聞いて歩いた。

 板橋の宿の旅籠を全て回るのには十日ほども時間がかかったが、英治郎らしき男は影すら見えなかった。

 

 信一郎は、麻布にある相馬中村藩の中屋敷に戻った。

 信一郎はここで寝泊りすることを許されている。


 中屋敷では、毎日夜明けと共に起き出し、刀を半刻ほど振るった後、編み笠を被って日が落ちるまで市中を歩き回った。

 現代のように、監視カメラもなければ、科学捜査も発達していない時代である。

 信一郎は、英治郎が江戸へ向かったという話を頼りに、ただ歩き回るだけしかできなかった。


 そんなある日、夕刻に中屋敷の近くで編み笠を取ると、久保寺判助にばったり会った。


「おお、おお、信一郎殿」


 判助は相変わらず軽薄に声をかけてくる。信一郎は、眉間に皺を寄せて判助を見た。


「丸山の姿は板橋にはなかったそうですな。いやいや、あいすまぬ」


「いえ、仕方のないことです。その節はありがとうございました」


「わしも、他の皆も丸山の姿を注意して探しておる。必ず見つかるはずだから、安心召されよ」


 仇を探し出すことが、そのように容易ではない事を、実際に歩き回っている信一郎が一番よく知っている。


「あまり、気を張り過ぎていても、物事うまくいかぬものだ。そうだ、今日は先般のお詫びに、わしが一献馳走しよう」


「いえ、私は結構です」


「そう言うな。江戸という場所を知るには飲み屋が一番だ。この後の探索の足しにもなる事とは間違いない」


 そう言われると、世間を広く知るわけではない信一郎は、仇討ちの一助になるのであればと、判助に付き合うことにした。



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