箱庭の天使
それは、本当に突然だった。
なんの前触れもなく、彼女の部屋のドアが開き、綺麗な部下の制服を規則正しく着ており背筋をピンっと伸ばした人が大きな声を上げて私の名前を呼んだのだ。
「サリア・ベネティア王女さまぁ!」
彼は情けないような、声を出し額に汗の粒を浮かばせる。
青い布に、銀色のデザインが所々に紛れている制服には、金色のバッヂが付いていない。ということは、あまり高位にはいない人物だ。
「アトランティス王国様がお呼びです。すぐに居間へとお越しくださいと…」
アトランティス王国が、サリアに何の用だろうか。
この時すでにきっと、サリアは嫌な予感がしていたのだろう。
すっと、椅子から立ち上がり、金色のシンプルで綺麗なドレスを揺らした。
「今すぐお伺いします。御報告心から感謝しております」
「はっ!」
男は敬礼をすると、サリアが去るまで彼女を暖かく見守った。
大きくて高級な階段を下っていくと、居間へと迎える。
彼女は、重い足をゆっくりと国王様がいるという居間へと運んだ。
居間へと続いているドアをゆっくりと自分の手で開く。そこに広がった光景に彼女は息を飲んだ。
「よく来たな、サリア・ベネティア殿」
国王はにっこりとサリアに微笑んだ。
白い髭によく似合う金色の綺麗な服をまっとっている。
この人こそが、この、サリアがいるアトランティス王国でもっとも名誉を残しているお方、国王陛下なのだ。
「お招きありがとうございます、国王陛下殿」
サリアは頭を下げた。
そして、周りを見渡し、周りに立っている人達にも一人ずつ頭を下げた。
「第6技官、第7技官、第3議員」
一人一人の名前は覚えていない。とにかくわかるところまで彼女は挨拶をした。もちろん第6始祖に及ぶ彼女の実の父にも頭を下げた。
「そして…あなたは…」
そして、見覚えのない青年を見かけて思わず動きが止まってしまう。
綺麗な金髪に青い瞳。この国で青い瞳というのは珍しいものだ。
制服は、部下の制服でも、貴族の制服でもないが、かなりのお金を持つものだとは予想がつく。
綺麗な顔立ちであった。白い肌に冷静な空気を漂わせている。
「ヴェル。僕の名前はヴェル・ザ・カルナシアだよ。ちなみに、ザのスペルは、Theじゃないよ。覚えておいてね」
と彼はにっこり微笑んだ。
「は、はあ…サリア…ベネティア…です…」
このサリアに対してそんな話し方で何様のつもりだろうか。一応サリアは、この王国では高位にいるはずだ。
第6始祖の娘でもあり、それだけでも大きな権威を持つが、それ以前に彼女の能力は認められている。
「今日君を呼んだのは、大切なお知らせがあってな、
サリア・ベネティア、君を次のアトランティス王国、第3技官に任命する」
そう、全てはここから始まった。
国王陛下のこの一言だった。
「ヴェル・カルナシア、君のパートナーで君の騎士だよ。これから宜しくね。ご主人様」
そう微笑んで、冗談紛れにご主人様と言ったのは、あの綺麗な青年、ヴェルだった。