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祝福をこの手に  作者: 憂鬱なメランコリア
第一章 終わりの事件と始まりの事件
19/22

神域会議 急



「■■■・■■■?誰かの神名か?」

「名前の途中に・を挟む神はいなかったと思いますが……」


 突然の理神の発言に、多くの者は困惑した表情をしている。

 それもそのはずだ。

 いきなり緊急会議を開くと言った彼女が、聞いたこともない名前を口にしたのだから。



 神名はその神の祝福を受けた人以外には聞き取れないが、神同士であればしっかりと認識できる。

 そのため、今理神が口にした名前は他の神たちもちゃんと聞こえていたし、それが神名であることも理解できた。

 彼らが困惑しているのは、それが神の名前であるのは確実であるにもかかわらず、誰を指しているのかがわからなかったからだ。

 

 叡智神が先程見せた映像ではルシフェルの奮闘やその結果だけを映しており、途中の魔人アマデウスの発言はカットされていた。意図的に、だが。

 アマデウスの口から出た■■■・■■■というのは明らかに神名であり、アマデウス自身の発言や高出力の魔法、膨大な量の魔力という異常性から考えて彼は神からの力、それも寵愛レベルの恩恵を受けていると叡智神は結論付けた。

 叡智神の知る神はこの神域会議に集まったので全てだ。

 だから彼女は、この中の誰かがアマデウスのような不適切な人物に過度の力を与えている……と一瞬だけ考えた。


 しかし、同時に彼女はここにいるどの神の名前も■■■・■■■と一致しないことも知っている。

 これはいったいどういうことか。

 考えられる可能性はいくつかある。

 その内の一つが、二つ目の名前を得た神がいる、というものなのだが……。


「どうだ、真実神?」

「嘘の反応をしている者はいなさそうです」


 正体不明の神名に気付いた時点で叡智神は理神に報告をしていた。

 そして、考えられるいくつかの可能性についてもその時に話した。

 今回の緊急会議の宣言からの一連の流れは、それを聞いた理神が計画したものである。

 真偽の判定ができる真実神にあらかじめ話をしておいて、■■■・■■■の名前に不自然な反応をする神がいないか探る。

 もっとも、これだけでは理神や真実神が■■■・■■■である可能性は排除できないし、神同士で真実神の力がどこまで通用するかも若干不安なところはある。

 それでもやらないよりは大分マシ、ということで実行された犯人(犯神)探しであった。


 しかし、結果はほとんどの神がそんな名前は知らないという困惑の表情を浮かべ、真実神の言葉を信じるならそれは嘘の反応ではない。


「ですが、その名前をもともと知っていてそれを隠していない者ならいますね。試練神と武神。あとは恋愛神です」


 しかし、それは嘘の反応をしている者がいないというだけで、元々知っているという正直な反応をした者ならいた。


「俺は実際に見てたからな。俺の祝福を受けたエステスが駆け付けたあたりからだが」

「私も同じだ」

「私も大体そんな感じ。クラウディア……ルシフェル君の母親が『愛している』って言葉を口にしたあたりから見てたの」


 この三柱だけはもともと知っていたようだが、彼らも叡智神と同じようにアマデウスの発言を実際に聞いていただけだと主張する。

 試練神や武神のように、恩恵を授けた者を神が見守っているのは何ら不自然な事ではないし、恋愛神のように自身の司る分野に関する言動がキーとなって地上の出来事に気付くこともおかしくはない。


「あの後秩序神が顕現していたから私が報告しなくてもいいかなって思ってただけで、別に隠していたわけでもないし心当たりもないわよ?」

「……どれも嘘ではないようです」


 続けた恋愛神の発言も含め、三柱は嘘をついていないと真実神は言う。

 つまり、この中に■■■・■■■本人は存在せず、詳しく知っている者、心当たりのある者さえいないということになる。


「そもそも■■■・■■■って名前はどこから出てきたんですか?僕たちは聞いたことすらないんですけど」

「先程見せた映像の魔人が口にしていた名前だ。寵愛を受けたと言っていたんだが、あんな奴に恩恵を与えた者がいるというのは問題だろう?」


 事情を知らずに疑問を挟んできた他の神に叡智神が答え、実際にその映像を見せると皆不可解な表情を浮かべる。


「間違いなく神名なんですけどねぇ」

「誰とも一致しないなんてことあるのか?誰かがあんな奴に恩恵を与えたてしまったことを隠しているのではなく?」

「この中にいるどの神とも■■■・■■■は一致しないことは私が保証する」


 アマデウスのような不適切な人物に神が恩恵を与えたこと自体も問題ではあるが、一番の問題は当然、そんな神は存在しないということである。

 一体誰が(・・・・)、こんな真似をしたのか?


「どういうことだ?叡智神、何か思いつく可能性はないのか?」

「とりあえず考えたのが複数の名前を得た神がいるという仮説だが、この中に心当たりがある神がいないのならそれはない」

「じゃあ一体……」


 全ての神の名前を覚えている叡智神が知らない名前。

 それの意味するところは……。


「意外と誰も思いつかないのだな。長いこと増えることが無かったからかな?」

「……何の話だ?」

「■■■・■■■の存在を説明する他の可能性だよ。魂魄神はすぐに思いついていたんだが、これは先入観の差かな」

「叡智神はもうわかっているのか?誰が■■■・■■■という神名であんな者に恩恵を与えたのか」

「誰というふうに指し示すことはできないが、この中に■■■・■■■という名前を知っている者がいないなら可能性は一つしかない」


 そう言い切った叡智神は、もともと考えていた可能性の一つを告げる。


「仮説2:私たちの知らない神が以前から存在していた。あるいは新たに発生した、だ。」

「……なるほど、私たちの知らない神が存在する可能性か」

「十分ありえますね。魂魄神の誕生も叡智神がその場にいなければ気が付かなかったわけですし」

「言われてみればって感じだけど、普通はその可能性が真っ先に思いつくよね。僕は神が関わっているならこの中の誰かの仕業だって勝手な先入観で思い込んでいたよ」


 この中に犯人がいないなら他の人が犯人。

 そんな当たり前の結論だが、長いこと新しい神も現れなかった現状で彼らがその可能性に思い至らなかったのも無理はない。

 つい最近魂魄神が誕生するのを見てなかったなら、叡智神でもすぐには思いつかなかったかもしれない。


「……しかし、そうだとすればその神がなぜあのような者に力を与えたのかが……いいえ、それ以前に何故私たちに接触してこないのかがわかりませんね」

「然り。この世界を見ていれば我々の存在を知らないわけがない。何らかの形で接触してきそうなものだが……」


 この仮説が当たっているとしても当然疑問点はある。

 神々が最初に思ったのは、何故その神が自分たちに接触してこないのか、ということだ。


 が、その点についても叡智神は既に考察を終えていた。


「それはそういう(・・・・)性格──役割といってもいい──の神として誕生したからではないかな」

「そういう性格?」

「そう。要するに、我々とは反対の存在──善神に対する悪神のような存在が生まれたのではないかということさ。そのような存在だと想定すれば、あの魔人のような邪悪な者に力を与えていたことにも説明がつくし、当然我々と接触するはずもない。それに、今見せた映像で魔人の最期を見ただろう?口封じとしてあのように自らが恩恵を与えた者を殺したことからもその性格がうかがえる。そもそも私は、この中に複数の名前を持って隠している者がいる可能性よりはこちらの可能性が圧倒的に高いと思っていたしな」

「悪神か……」


 叡智神の発言に、周りの神々が黙る。

 叡智神の言う仮説が決してありえないものではない……どころかかなり現実的なものであると思い至り、絶句しているのだ。


「しかし、我々神は人々の願いから生まれた。単なる魔法と言ってしまえばそれまでだが、大勢の人が一つのイメージとして強く思い描くことで成り立っている。だが、叡智神の言うような不幸を振りまく悪神の存在を願う者などいないだろう?悪神が誕生していたなんてありえるのか?」

「少なくとも一人はいたじゃないか。あの魔人がそうだろう?そしてあの魔人は魔人族の典型的な例だ。南大陸にいる魔人族──に限らずとも大半の魔族はそんな奴らだろう。彼らの全てが一つのイメージとして自分たちの所業を肯定する悪神の像を思い浮かべたことでそのような神が生まれたのだと私は考える。我々が信仰されていない南大陸の神だとすれば我々の誰もその存在すら認識できてなかったのもおかしくない」

「南大陸の魔族か……たしかに我々の存在を敵視している奴らなら真逆の存在を生み出すことも……あり得るな……」


 誰かから出た疑問も叡智神によってすぐに説明される。

 もはやこの場の誰もがその可能性を否定するすべを持っていなかった。


 全員がある程度納得したところで理神と叡智神が続ける。


「今回緊急で会議を開いたのはこの中に偽証をしている神がいないことを確認することと、悪神の存在する可能性を知らせるためです。もし実際にそのような悪神が存在するとすれば大変な問題ですから」

「今後は■■■・■■■そのものと今回の件に関わっていた魔人が存在をほのめかしていた仲間についての情報を集めていく。皆も協力してくれ」

「了解」

「もちろん」

「わかりました」


(この中に偽証をしている神がいない(・・・)ことを確認する……ねぇ。実際は疑っていたのを信じていたふうに取り繕うあたりは流石だな。その方がスムーズに話が進んで楽だからいいが)


 真実神を使って皆を試すような真似をしたことで若干この場が荒れることも予想していた叡智神だが、何でもないようにまとめた理神の手腕には素直に感嘆する。

 感情のこもっていないような声で話す理神だが、このような感情面でのフォローもそつがなくこなす。

 実際には考える時間を与えない速度で推論を披露した叡智神が上手かったことや悪神という存在の可能性が衝撃的かつ重大なことだったこともそれに貢献していたのだが……とにかく理神と叡智神が締めくくったことで緊急の会議も幕を閉じた。

 これからはとりあえず悪神が存在するものとして警戒しながら情報を集めその目的を探る、という方針で動くことになるだろう。




(まあ、あの中に犯人がいる可能性もまだ捨ててはいないがな)


 自らの神域に帰った叡智神はそう心の中でひとりごちる。

 魔族の信仰によって悪神が誕生した可能性が最も高いのは確実で叡智神自身それでほぼ間違いないであろうと確信しているが、他の可能性も完全に払拭できたわけではない。

 一柱の神が善と悪の二面性を持つ多重人格のような存在に変質したと考えれば、あの場では自覚していなかったが実際には犯人という可能性もあるだろうし(その場合存在が変質した要因が思いつかないが)、単純に神同士で真実神の力が上手く働かなかった可能性もある。


 それに、襲撃を行った魔人が口にしていたセリフ……。


(■■■・■■■様の寵愛を受けた……か)


 神の寵愛を受けたという表現はそれほど不自然ではない、一般的な表現だ。

 しかし、魂魄神がルシフェルに与えたような祝福以上の力を神の寵愛と名付けたことはまだそれほど広がっておらず、知っているのはせいぜい神と神官ぐらいだ。

 偶々同じような表現になっただけかもしれない。だがもしあの魔人がそれを理解したうえで寵愛という表現を使っていたとすれば、犯人が神域会議に参加していた神の中にいて寵愛という言葉を使ってあの魔人に力を与えた可能性がある。


 「考えすぎかな。それにしても一体何が目的なんだか……」


 今回魔人がアーデレントの貴族を襲撃した目的は不明のままだ。

 何か奪おうとしている物でもあったのか、彼らを殺さなければならない理由でもあったのか。

 襲撃を行った魔人の仲間が同じようなことを繰り返さないとも限らない。


(どちらにせよあれだけの力を持ってよからぬことを企んでいる者たちが他にもいるのであれば……世が荒れるだろうな。それが■■■・■■■の目的か?)


 叡智神の不安は尽きない。


 果たしてその真相は……。


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