エピローグという名の始まり
「知っていたわよ」
母さんの答えはとてもシンプルなものだった。
なんだ、知ってたんだ……って……。
「えええええええええぇ!!!??知ってたのおおぉ!!?」
「うん。って言っても、転生しているっていうのは推測だったんだけどね。ルシフェルの精神が生まれた時から既に一人の人としての人格を確立していることは知っていたわよ。夜王族って成熟すると精神系統の力にも目覚めるから、それでね。エストにもそのことは伝えてあるし」
そ、そんな……。
最初からわかっていたのか。
でもそれじゃあ、なんで……。
「ならなんで僕を気味悪がったりしないで、普通に接してくれたの?」
自分の子供が生まれた時から既に自我を確立していたら、普通はおかしいと思うだろう。
少なくとも母さんたちがしてくれたみたいに、普通の子供に接するように育てるというのはなかなかできないと思う。
母さんたちは何故、俺にそのことを指摘するでもなく普通に接しているのだろう?
「なんでって、そんなの決まっているじゃない。ルシフェルが私の子供だからよ」
「え……」
「ルシフェルは私がお腹を痛めて産んだ子で、私とエストの一部が宿っているのよ?私たちが愛情を持ってルシフェルを育てることにそれ以外の理由がいる?」
それに対する母さんの返答は、至って単純だった。
たったそれだけの、単純な理由。
「でも……僕は普通じゃないし……」
「そんなの関係ないわ。誰が何と言おうとルシフェルは私の子だし、世界で一番愛しているの。ルシフェルが泣いていたら私も悲しいし、ルシフェルが喜んでくれたら私も嬉しい。ルシフェルが間違ったときはちゃんと叱ってあげるし、ルシフェルが困ったときは助けてあげる。もしルシフェルに別の記憶があったって、私はそれをまとめて愛してあげる」
母さんの言葉の一つ一つが、俺の心に溶けるように染み込んでいく。
そこまで思われていたなんて、全然知らなかった。
これほど愛されているなんて、想像もしてなかった。
「今のルシフェルが私にとってかけがえのない、唯一無二の愛しい子なの。ルシフェルが何の記憶も持たずに普通に生まれてきてたなら、なんて想像をしたことは一度も無いわよ」
ずっと騙しているような気持だった。
俺がいなかったらありえたかもしれない、普通の子供を育てる機会を奪ってしまったと罪悪感に苛まれていた。
それがどうだ。
母さんたちは最初からそれをわかったうえで俺を普通に育ててくれていた。
今の俺をまるごと愛してくれていた。
胸が熱い。目頭が熱い。
「お母さん……」
俺はそのまま、母さんに抱きついた。
「ふふ、もしかして、その話をしたら私たちの態度が変わると思ってたの?そんなわけないじゃない。ルシフェルはルシフェルよ。優しくて素直で、可愛い私の子」
そう言って母さんは俺の頭を撫でる。
よかった。本当によかった。
受け入れてもらえた。
……いや、最初から受け入れるも何もなかったんだ。
俺は母さんと父さんの子供なんだから。
それから俺は、全てを母さんに話した。
前世のこと。地球のこと。俺が死んだ事件のこと。
リンネさんやソフィーさんとのやり取りと、俺の受けた加護や祝福のこと。転生のこと。
魔人アマデウスによる襲撃事件の途中で俺がやったこと。
母さんは俺の話を最後まで聞いてくれた。
俺が異世界から転生したというところや神と話したりしたというところでは流石に驚いていたが、その話を最後まで聞いた後も母さんが俺を見る目は全く変わっていなかった。
「……そう。そんなことが……」
「うん、全部信じてくれるの?」
「思っていたよりも話が大きかったけど、ルシフェルの言うことなら信じるわ」
母さんの目はそれが嘘でないことを物語っている。本当に全部信じたんだろう。
信じたうえで全く変わらない態度のままなのか。
「ありがとう……」
「ふふ、どういたしまして」
「父さんも……」
「ん?」
「父さんも、全部受け入れてくれるかな?」
「当たり前じゃない。ルシフェルが記憶を持ったまま転生しているかもしれないっていうのはもう受け入れているんだから、それに異世界や神が関わっていたくらいで今さら態度が変わるわけないわよ」
「そっか……」
母さんのその言葉を聞いて、俺はほっと胸を撫で下ろした。
そうだよな。俺が生まれた瞬間から人格を持っていることも既に受け入れているのに、異世界や神が関わっていることなんて大したことはないか。
……ないか?
まあ、いいや。母さんがそう言うなら、この世界の人の感覚的にはそんなものなんだろう。
数日後、全く襲撃の気配がないということで、父さんが護衛の仕事を終えて帰ってきた。
どうやらあの襲撃にはもう続きはなさそうだということと、あの日は屋敷にはいなかった騎士たちも今はコデルロスさんたちの警備に人員を割いて警戒しているため、とりあえず父さんへの依頼はこれで終了となったらしい。
それで、父さんが帰ってきたその日に俺の転生についての話をしたが、母さんの言った通り、父さんの態度は全く変わらなかった。
「へぇー、そうだったんだ」
ただこれだけである。
神様の恩恵とかの話をしても、
「よかったね」
みたいな感じだ。
全然衝撃を受けてないじゃん……。
なんか逆に悲しいよ。
とまあ、あれほどの内容の告白をした後も父さんと母さんは変わらずに接してくれた。
物凄く愛を感じる。
この二人の子になって本当によかった。
いつか絶対に親孝行しよう。そう固く心に誓った。
「父さん、僕に剣術を教えてください」
俺が転生をしていることを告白してから数日後。
俺は父さんに頼みごとをしていた。
「剣術?もちろんいいけど……急にどうしたの?」
父さんは俺のお願いを快く引き受けてくれたが、何故俺が急にそう言いだしたのか疑問のようだ。
「人を守れる力が欲しい。またああいう事件が起こっても、誰かを助けられるような力が」
あの襲撃事件の時、俺はほとんど何もできなかった。
ミシェルとフローラさんは救えたが、魔人のアマデウスに対しては無力だった。それに、【契約】の強制力で意図的に全力を出す方法はもう使えない。
【治癒】【守護盾】【破壊】(【切断】)の魔法はその名残で実用可能なレベルまで上達したし、魔力操作の感覚も覚えたので魔力の制御も上手くなり、魔法の発動も速くなった。
が、それでもまだまだ力不足。
【契約】の残したものに満足しているだけじゃ駄目なのだ。
もっと強くならないと。どんな事が起こっても大切な人は守れるように。
「なるほど……うん、いい顔だね。そういう理由なら、当然厳しくするよ?」
「うん、そうじゃないと意味が無い。どんなにきつくてもいい。それが強くなる最善の道なら」
これから先、俺に困難がまた訪れるとして、その困難が俺の成長を待ってくれるかはわからない。
今回のことだってそう。俺がほぼ無力な二歳児だろうが関係なくそういうことは訪れた。
漫画やアニメじゃないんだ。俺の成長に合わせて困難がやってくるとは限らない。
大切な人がいるならば。絶対に守ると決めたなら。
いきなりラスボスが来ても守れるように、どんな事件に巻き込まれても生き残れるように。
俺は最善の選択をして、最速で強くならなきゃいけない。
「魔法の練習も手伝ってくれる?」
「ああ、もちろんだ」
「それは私も手伝うわ」
「ありがとう。父さん、母さん」
剣術だけじゃなくて魔法もそうだ。
いろいろやればそれだけ大変になるが、関係ない。
全部やる。俺にできることは全て全力でやる。
「でもね、ルシフェル。私たちは光属性と闇属性の魔法は最高峰の力を持っているけど、その他の属性は超一流とまでは言えないの。もしルシフェルがそれ以外の属性の魔法も本格的に学びたいって言うなら、私たちの知り合いに頼んだ方がいいけど……どうする?」
母さんたちは属性に複数適性があるが、それぞれ一番得意な魔法を集中して伸ばしたらしい。
他の属性も教えるのには問題ないくらいの実力はあると思うけど……。
「お願いしていいかな?やっぱりどうせなら、それぞれの属性に特化している人から教わるのがいい」
「わかったわ。私から知り合いに頼んでみるわ」
「僕も何人か心当たりがある。ルシフェルの為だし、頼んでみよう」
「ありがとう」
せっかくなので母さんの出した選択に乗っかろうと思う。
人に頼むことになる母さんと父さんには少し申し訳ないが、ここはなるべく貪欲にいきたい。
そこに少しでも強くなれる可能性があるのなら。
そして数日後、俺の練習用の剣(まさかの真剣)が用意できたので、父さんがいつも鍛錬に使っている広場に俺も一緒にやって来た。
今から父さんに剣術を教えてもらうのだ。
「僕はとある有名な剣士に師事して剣術を教わったことがある。だから僕が教わったのはいわゆる正統派の剣術なんだけど、それはどちらかというと対人を想定したもので、僕は狩猟者として活動しているうちに対魔物の剣術も身につけたから、今の僕の剣術は我流なんだ。それでもいいかな?」
そう言って父さんが俺に確認をしてくるが、細かいことは気にしないので我流でも全然かまわない。
我流ってかっこいいしね。
「うん、もちろん!」
「それじゃあ……人に教えるのは初めてだから、とりあえず振ってみてよ。悪いところを指摘するから。型とかはその後教えることにしよう。その方が最適な動きを実感できると思う」
「わかった」
父さんの言う通り、とりあえず振ってみることにした。
……って、このタイプの剣を持つのは初めてだな。どうすりゃいいんだろう?
まあいいか。普通に振ろう。
「ふっ!」
「ん?」
「よっ!」
「あれ?」
俺が剣を振り始めると、それを見た父さんが何やら怪訝な表情を浮かべた。
「ルシフェル……前世で剣術やっていたの?」
「え?剣術は……あ、『剣道』なら少しだけやってたけど……」
「なるほど、それだね。ルシフェルが今やっていた動きは結構理にかなっているよ」
俺が昔やっていた剣道の素振りをやっただけだったが、よく考えたらあれも剣術か。
スポーツに近い形になってはいるが、最速で剣を振るということを追求した剣術だ。あ、刀術だ。
刀術は対人用のものだけど、今から剣術を本格的に習うのに役に立つならやっててよかったよ。
「あ、でもこれは『刀』っていう片刃の剣を扱う剣術だから、父さんの長剣とは若干合わないと思うけど……」
「基本がわかっているだけでもだいぶ違うよ。足の動きや間合いもわかっているみたいだし、これから教えることもきちんと理解できそうだね」
だいたいそんな感じで俺の剣術の修業は順調に始まった。
「これからルシフェルには、体に留めておける魔力量を増やす方法を教えるわ」
「うん」
剣術の修業をした後の休みの時間は、魔法の訓練だ。
俺が魔法の練習を始めてまだ少ししか経っていないから、今までは大したことは教わっていなかった。
けれど、俺が本気で強くなりたいという意思を伝えた日から、魔法の訓練も本格的になってきている。
昨日までは父さんと母さんが使える魔法を全て見せてもらったり、翼の出し方を教わったりした。
魔法は当然すぐには十分な精度での真似できないし、翼の出し方もまだ掴めないでいるが、今までより内容は充実している。
今日は保有する魔力量を増やす方法を教えてくれるそうだ。
魔法を使うのには魔力が必要なため、魔法を使いすぎて魔力が体内にほとんどなくなればその時点でしばらく魔法が使えなくなる。
しかし、それで一生魔法が使えなくなるということは無く、一度体内の魔力が全部なくなっても魂が周囲のマナを体内に取り入れて自身の魔力に変えるため、時間が経てば魔力は回復してまた魔法が使えるようになる。
ここまでの話を聞いた時、それじゃあ魔法を使わずにずっとためておけばどんどん魔力量が増えていくんじゃないかと誰もが思うだろうが、実際にはそんなことはない。なぜなら、魔力がたまればたまるほどマナを体内に取り入れるのが難しくなってくるからだ。
魔力は質量を持たないが、物質的存在と同じように体積や密度はある。この場合密度の定義が少し変化するが、まあ密度という言い方が一番わかりやすい。
要するに、圧縮していけばどんどん密になっていくわけだ。
ただ、それが密になっていけばいくほど反発する力も強くなり、もとの自然な状態に戻ろうとする。そのせいで、体内に魔力を取り入れていくとそのうち限界が来る。
だから、魂がマナを引っ張ろうとする力に圧縮された魔力の反発力が追い付いてくると、ほとんど魔力は増えなくなる。
さらに、魔力は周囲から取り入れるだけではない。魔力が集まってくるとだんだんそれを体内に留めておくことが難しくなり、体内からも少しずつ漏れ出していくのだ。
つまり、マナを魔力として体内に取り入れるのと同時に、体内からも魔力が漏れ出してマナに還元されているということだ。
体内から漏れ出す魔力の量よりも体内に取り入れるマナの量が多い間は魔力がだんだん回復していくのだが、体内に魔力がたまって密度が上がるにつれ体内に取り入れられる量が減るのと同時に漏れ出す量は増えていき、体内に取り入れられる魔力の量と体内から漏れ出す魔力の量が釣り合うと、体内の魔力の量が一定となって増減しなくなる。
これが一般的に言われている個人の魔力量だ。
わかりやすく例えるとしたら……そうだな。
全部の面にいくつかの小さい穴が開いているペットボトルに、蛇口を捻って水を入れるような感じか。
最初は水のたまるスピードが速くてどんどんたまっていくが、次第に水が漏れ出す穴が増えることにより蛇口から出る水の量と穴から漏れていく水の量が釣り合って、増えもせず減りもせずという状況になる。
その水を魔力、ペットボトルを体とでも置き換えればいい。
まあ、これだと魔力がたまるにつれ取り入れるのが難しくなるという要素が入っていないが、だいたいでイメージするならとりあえずはこんな感じでいいだろう。
では、魔力量を増やすにはどうすればいいか。先程のペットボトルと水の例えで考えると、単純に思いつく方法は二通りである。
蛇口をより捻る。またはペットボトルに空いた穴を塞ぐ。
これと同じことを魔力でやればいいのだ。
すなわち、体内にマナを取り入れる力を強くする。または体内から自然と漏れ出す魔力を抑える、というわけだ。
ここまでの説明がソフィーさんの祝福の力で調べた内容であるが、その具体的方法についてはいまいちわからなかった。実際にやってみないとわからないタイプの知識なんだと思う。
「魔力量を増やすのも魔法の精度を上げるのと一緒で、意識することによって徐々にできるようになるの。まずは自分の体にマナが取り込まれていく感覚と自分の体から魔力が漏れ出している感覚をしっかり認識するところから始めるけど……」
「それなら今の時点でもできてるよ。この体から出たり入ったりしているやつでしょ」
「そうよ。これは難しくないからすぐにできたみたいね」
魔力量を増やすのに必要な認識は、魔力感知ができるようになった時点から既にできていた。
マナが体内に入り込んでくるのも体から漏れ出ていくのもちゃんと視えている。
「それじゃあ、そのマナをもっとたくさん体に引っ張るように意識してみて」
「わかった」
母さんに言われた通り、マナを自分の体に引っ張って取り込むように意識してみる。
イメージは掃除機。吸引力でマナを吸い込むような感じだ。
俺がそのように想像力を働かせると、実際に周囲にあったマナが先程より若干勢いを増して引き寄せられてくる。
あれ?こんな簡単でいいのか?
「ここまでは順調ね」
「うん、こんな簡単なら……あっ」
思ったより簡単にできたことに拍子抜けしていたが、母さんが順調だと言ってくれたことで気が緩んだのか、ちょっと意識を逸らした途端にマナを取り込む勢いが元の状態に戻る。
「しばらくの間はできても、それを持続するのは難しいでしょ?」
「うん……」
なるほど、これはずっと維持するのが難しいのか。
少しでも気を抜くと元に戻る。
「今度は体から漏れ出している魔力を抑えるように、それを留めるようなイメージをしてごらん」
次も母さんに言われた通りに想像をしてみる。
体のあちこちから流れ出る魔力を止める為に、その部位に蓋をするようなイメージだ。
これも最初はうまくいったのだが、すぐに他の場所からも魔力が漏れ出し、そこを抑えようとするとさっきまで抑えていたところが疎かになってまたそこから漏れ出す、といった具合で、全部を抑えようとしても必ずどこかしらから魔力が漏れ出していく。
しかも、これも気を抜くとすぐに元に戻るのだ。難しい。
「今やった二つが魔力量を増やす方法ね。これが無意識にできるようになれば魔力量は今より増えた状態で常に維持されるの。なるべくいつも意識しているとそのうち自然とできるようになるから、焦らずにゆっくり地道にやればいいわ」
「うん、わかった」
魔力量を増やす訓練も地道な努力が必要みたいだ。
まあそれは仕方がない。今日教わって今日できるようになるとは俺も思ってなかったし。
これからできるようになればいいのだ。
「あ、そうそう。この間言ってた魔法が使える知り合いに連絡を取ったら、何名かがルシフェルに魔法を教えてもいいって言ってくれたわよ」
「え!?本当!?」
これはいい知らせだ。
うまくいけばこれで、光と闇以外の属性の魔法も強化されるだろう。
なんだか今から楽しみになってきた。
「ええ。これで水属性と空属性と地属性の魔法なら一通り教えてもらえるはずよ。ルシフェルに地属性の適性があるかどうかはまだわからないけどね」
「どんな人たちなの?」
「私がエストと結婚するまでの間、狩猟者として一緒にパーティーを組んでいた人たちよ。魔法の実力が超一流なのは私が保証するわ」
なるほど、母さんの元パーティーメンバーか。それなら安心だ。
俺に地属性の適性が無くても、少なくとも水魔法と空魔法に関しては超一流の技術を教えてもらえるわけだな。ありがたい。
こうして朗報と共に、俺の魔法の訓練も本格的に始まった。
剣術に魔法。そのどちらも伸ばすために俺は本格的な訓練を始めたわけだが、俺が強くなるのにはもう一ついい方法がある。
それは、神々から恩恵を受けることだ。
とはいえまあ、この方法も決して簡単な方法ではない。
神の恩恵を受けるのには、それを受けるにふさわしいという資格を見せなければいけないからだ。
ソフィーさんの祝福を受けるのはかなり大変だった。リンネさんと秩序神の場合は少々特殊だが……他の神から恩恵を受けるのもそれなりに大変に違いない。
それに、そもそもいろいろな神から恩恵を受けるのは難しい。
加護や祝福を受けるために必要な活動の最小単位は祈ることなのだが、それだと神殿で神官として何年間も毎日祈り続けてやっと恩恵を受けることができる、というレベルなのだ。
そのことからも、複数の神から受けるのが容易でないことはわかるだろう。
属性神とその従属神、武の神とその従属神である剣の神や槍の神といった同類の神からの恩恵に限って言えば複数受けることはそこまで珍しくはないようだが、まあ普通は複数の神から恩恵を受けるのはレアケースだ。
……最近、父さんがそのレアケースだって知ったんだけどね。
父さんはさっき言った武の神と、その従属神である剣の神、そして試練の神から恩恵を受けているらしい。武の神が加護で、剣の神と試練の神が祝福だそうだ。
父さんがいろいろと規格外なのはわかっていたが、そもそも三柱もの神から恩恵を受けて魂は大丈夫なのだろうかと心配になったりもした。
しかし、同系統の神は性質が近いから二柱分の恩恵でも魂への負荷は少ないということと、種族進化に関わっているらしい試練の神の恩恵は例外に近い方の恩恵で、魂への負荷はなくノーリスクで効果が得られるものだということで、この組み合わせならば三つの恩恵を受けても大丈夫だったらしい。
他に恩恵を三つ受けている人がいたとしても、だいたいこれと似たような組み合わせになるだろうとのことだ。
俺が既に三つの恩恵を受け、父さんも三つ恩恵を受けているせいで複数の恩恵を受ける難易度が軽く感じられるが、複数の神から恩恵を受けるのは本来難しいことなのだ。
俺としては今からでも神殿に行って祈りを捧げたいところなのだが、神殿はどこにでもあるわけじゃない。豊穣の神の神殿のように、農村の近くにしか需要が無い神殿もあるからだ。
国の首都であればほとんどの神の神殿があってもおかしくはないが、普通の都市には最低限の神殿しかない。
それでも十分ではあるが、欲張るのならもっといろいろな神殿を回って恩恵を得たい。
簡単ではないにせよ、これは今のところ俺にだけ許された選択肢なのである。試さない理由はない。
さて、その場合俺がしなければならない行動は自ずと決まってくるのだが……これは俺一人で勝手に決めていいことではないので、父さんと母さんにも相談しないといけない。
「父さん、母さん」
「どうしたんだい、ルシフェル?」
「何かしら?」
返事をした父さんたちに一つ一つ言葉を選びながら俺の希望を伝える。
「僕がリンネさん……魂魄神から祝福というか……恩恵を受けていることは話したよね?」
「ああ、聞いたよ」
「確か、その効果の一つが他にいくつかの神からも恩恵を受けられる、だったわね」
「そう。その効果に関係することなんだけど……」
少しだけ渋ったが、それでもきちんと俺の意志を伝えようと口を開く。
「今すぐじゃなくてもいいけど、近いうちに神聖国に行きたいんだ」
これで一章は終わりです。
ただ、二章までにもいくつか話をはさみます。
次回更新は一週間後です。




