初めての勝利
反省点の多かったゴブリンとの初戦闘を終え、次の相手を探すため、アル達は辺りを捜索した。
迷宮の森には多く草が茂っており、その中にはいわゆる薬草と呼ばれる草も生えている。
「最初の頃はモンスターもなかなか倒せないから薬草とかが資金源になる。だから、売れるものは教えといてやろう。ちゃんと覚えとけよ。」
「わかった。」
「わかりました。」
アル達はモンスターを探しながら、シルフィに教えてもらった薬草を摘み取っていく。
シルフィは売れる薬草を指示しながら、思い出したように話し出す。
「それとなかなか倒せないが、モンスターの体内には魔石と呼ばれる石が生成される。それも金になる。さっきのやつはお前達が休憩している間に回収してある。後で見せてやろう。あと魔石の回収の仕方もな。」
「魔石かあ、見たことないんだよね。楽しみだなあ。」
「とりあえず次こそは倒さないとな。」
「というか、なかなかモンスターいないですね。」
「それはここが一階だからな。そういえばお前達はモンスターがなぜ現れるか知ってるか?」
「知らないです。」
「迷宮には魔素と呼ばれるものが空気の中に含まれてるんだが、それは奥深く行くに連れて濃くなっている。で、何らかの要因で魔素が濃いところができて、そこからモンスターが生まれるんだ。つまり、ここは一階で魔素が薄いからモンスターが発生しにくいってことだな。」
「なるほど。じゃあ、モンスターが急に現れることもあるんですか?」
「いや、モンスターが発生する魔素が濃いところは、黒い靄が見えるようになる。その靄からモンスターが現れるだろう。」
「そうなんですね。なら、靄に注意しておけば、急に教われることはほとんどないってことですね。」
「そういうことだな。とそんな話をしていたら、丁度いいところに。あれがさっき言ってた黒い靄だ。ちょっと見てろ。」
シルフィが少し離れたところにある黒い靄を指差しながら言う。
アル達はそう言われ、指差された靄を注意深く観察した。
靄の様子を見始めて一分程した時、黒い靄の中からさっき戦ったゴブリンが二体現れた。
黒い靄はゴブリン達が現れると次第に薄くなり、見えなくなった。
ゴブリン達はこちらに気づくことなく、アル達がいる方向とは反対側に歩いて行く。
「さっきはゴブリンがどのくらい強いかわかってもらうため、気付かれた状態で戦ったが、今回は先手必勝だ、一気に攻めるぞ。お前達が片方を奇襲するのに合わせて、私はもう片方を相手する。いいな?」
「わかりました。」
「おう。」
「よし、行くぞ。」
アル達はゴブリンの背後から忍び寄り、ナイフを肩に振り下ろし突き刺す。
刺されたゴブリンは叫び声をあげながら、前に倒れる。
「ぎぎゃ。」
「まだだ、攻めるぞ。」
「わかってる。」
レイとアルは倒れたゴブリンに追い討ちをかける。
そして、アルは首を、レイは腰の辺りを力任せに何度も突き刺した。
「どうだ?」
「ぎぎゃあ、ぎいぃ。」
ゴブリンはまた叫び声を上げたが、次第に声は小さくなり、力をなくしたようにピクリとも動かなくなった。
アル達が最初の攻撃を与えている頃には、もう片方のゴブリンはシルフィの剣で胴体を一閃され、絶命していた。
「終わったみたいだな。」
「みたいです。」
「戦ってみてどうだった?」
「さっきと違ってすごく楽だったな。」
「だろう。モンスターと戦う時は、相手の攻撃をもらうことなく終わらせるのが基本だ。一撃喰らうとそのまま一気にやられることもある。最初の戦闘でレイが一発やられた時あのままだとやられていただろうしな。」
「あの時は気絶しちまったし、やられてただろうな。」
「まあ、その分今回は初撃からそのまま一気に攻めれててよかったぞ。」
「ありがとうございます。」
「ども。」
「初めてのモンスターに会った時は状況を的確に把握し、攻めるか退くか判断するように。」
「「はい。」」
「じゃあ、魔石を取り出すか。よく見てろ。」
シルフィはそう言うと、ゴブリンのお腹を捌き、直径1㎝くらいの透明な光る石を取り出した。
「これが魔石だ。きれいだろう?お前達が倒したゴブリンのも取り出してみろ。」
「わかりました。レイ、僕がやっていい?」
「いいぜ。」
アルはゴブリンに近寄り、顔をしかめながら腹を捌いていく。
そして、シルフィと同じように透明な魔石を取り出した。
「僕達が倒したんだね。」
「なんとかだけどな。」
アル達は自分達がモンスターを倒したことを実感し、感慨深げに呟いた。
そして、少し休憩した後、探索を再開し、日が暮れるまで薬草や魔石を回収していった。