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第一章 一話 赤の世界に煌めく白銀の輝き。

皆さんおはようございます。

以前、千殿劉光というユーザーネームで投稿していたヘルメットです。


今回は以前投稿していた『異世界転移で高額賞金首』旧題『転移無双〜異世界の分解者アナリスト』のリメイク版? みたいなものです。


ミスって最初の一文字を下げ忘れたのですが、次からはちゃんと直しますので、良かったら読んでみて下さい。

では、第一話投稿開始^o^

神乃紫夜かみのしやはどこにでもいるごく普通の中学三年生だ。

少々目つきが悪く、学校に来てもほぼ毎日屋上で昼寝をしている以外は他の人と変わらない。


ただ、彼は『気功技』という総合格闘技を習得している。

気功技とは、体内に内包している力——『気』と呼ばれる力を用い使用する、師範曰く世界最強の格闘技だ。

気は、生命エネルギーや潜在能力と呼ばれ、それを操り使用することで、身体能力を強化させたり、五感、第六感の強化などをすることができる。


そして最大の特徴は、気を体外に放出して凝縮、固定させて相手に向かって放つ事により、遠距離から攻撃することができる『気功弾』と呼ばれるわざがある。


とある事情により、この気功技を幼い頃から一つ下の妹と同い年の幼馴染みと共に修練して来たのだ。


そして現在、シヤ達の通う中学校では卒業式が行われている。

中学三年のシヤは、卒業式に出席するため学校に足を運んだのだが、いつもの癖で気付いたら屋上に来ていた。


「いっけね……いつもの癖でここに来たけど、もう既に卒業式始まってんじゃん……また師匠にどやされるなぁ」


気功技の師匠であるロゼ=ララバティは同時に中学の教師であり、担任だ。

ロゼは何かと学校行事に力を入れるたちなので、卒業式を、それも無断欠席したシヤに容赦なく教鞭を振るうだろう。(物理的に)


今更卒業式に行っても仕方ないと、シヤはその場でごろりと横になる。

さわさわと髪を撫でる風はまだ冷たく、僅かにその身を縮こませた。

ふわふわと流れる雲を目で追っていると、次第に眠気が頭を支配してくる。


腕時計で時間を確認すると、既に十時を少し過ぎていた。

丁度日差しも出て来て暖かくなり、思わず睡魔に身を任せてしまいそうになる。


(寝るときは羊を数えろって言うけど、絶対雲の方がいいよな……)


こんなどうでもいい考えを最後に、シヤは眠りについた。


それから数分後、天から膨大な光が降り注ぎ、その中学校から生徒のみが忽然と姿を消した。


生徒と同じ場所にいた大人たちは何故か全員無事だったが、皆が口を揃えてこう言った。


『異世界が見えた』


と。


その後、中学校の集団失踪は『〜〜中学の神隠し』と呼ばれ、しばらくの間、世間を騒がした。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「……よ、よし……取り敢えず、状況確認だ。俺は確かに屋上で寝たはずなのに、いきなり体にありえない程の圧力が掛かったと思ったら、これまたありえない程の熱さを感じた……そして目を開ければ……空も大地も赤に統一された世界……はっはっは……訳がわからん」


シヤは混乱していた。

学校の屋上で寝ていたはずなのに、いきなり襲いかかってきた重すぎる重力と異常な熱さ。

臓器を潰される感覚に、咄嗟に気で身体強化していなければ、今頃臓器を潰され、穴という穴から血を吹き出していただろう。

そして目を開ければ、雲が渦巻く赤銅の空に同色の大地、体感で五十〜七十度であろう温度。


正直、泣きそうになっていた。


何処とも知らない場所に放り出され、気を使えなければすぐにでも死んでしまう赤の世界。

大人であってもこの状況には参ってしまうだろう。

さらにシヤは中学三年、まだ十五歳なのだ。


いかに世界最強の格闘技を嗜んでいたとしても、その精神はまだ子供であり、これからの事を考えてどうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。


「こ、これはあれだよな……二次小説でよくある異世界に召喚されたとかだよな……だとしたら、何処かに俺の事を召喚した人がいるはずだ。その人を探そう」


知らない場所(少なくとも地球ではない所)、人の気配すら無い所に一人でいることの恐怖から折れそうになる心を叱咤して立ち上がり、着ていた学ランを脱いで腰に巻きつけ、ワイシャツの袖を捲る。


「……行くぞっ」


パンッと両頬を叩き、喝を入れて歩き始める。

何もない平地は地平線まで続くかのように、どこまでも遠く広がっていた。



二時間程歩いただろうか、平地だった大地にはポツポツと岩が見えるようになってきた。

真っ黒な岩は大小様々な大きさがあり、十メートル間隔で赤銅の地面から顔を覗かせている。


「ふぅ……流石に、疲れたな……ここらで一旦、休憩するか……」


熱さのせいで予想よりも体力の減りが早く、更に発汗の量が多いせいで、このままでは一日も経たずに脱水症状で死んでしまう。


息を切らせながら手頃な岩に近づき腰掛けて、今後について考えをまとめる。


(水も食料も無し、持っているのはポケットに入っていたハンカチのみ……初期装備が終わってる……早いとこ誰か見つけないと、本気で死ぬ……っ)


明確になっていく死のイメージに、心臓の鼓動が速くなる。


十分ほど休憩して、そろそろ出発しようと岩から腰を上げた瞬間——


「っ!?」


シヤは全力でその場から飛び退いた。


立ち上がった際に周囲の気を探り、一つだけ生物の気を感じたのだ。

しかし、それは人間なもので無く、否、最早シヤにはそれが生物なのかすら分からなくなった。


(おいおい……なんだよ、この気の量は……到底生き物が保有できる量を遥かに超えてるぞ……マジで化け物だコイツ……)


体制を低くして、気を感じた方を睨みながら冷や汗を流す。

ゆっくりと後退しなから、気の主の姿を探す。

そして、そいつは現れた。


「……蛇……いや、犬……?」


目視できる距離まで来たそいつは、なんとも奇妙な姿をしていた。

犬種は多分、顔からしてダックスフンドなのだろう。

だが、その胴体はありえない程長く、三メートルはあるかと思われる。

オレンジに近い赤色の体を、まるで蛇のようにうねうねとクネらせながら此方に近づいてくる姿は、正直キモい。

一瞬、足が無いのかと思ったが、よくよく見れば、申し訳程度の長さの足(二センチ程)がちゃんと四本あった。


シヤはその姿を完全に捉えた瞬間、凄まじい恐怖でその場から動けなくなった。

気の総量もさることながら、赤ダックスフンド(仮)の瞳が、シヤをその場に釘付けにしていた。


瞳に映っていたもの、それは友好なものでもなく、敵意でもなく、殺意でもない。

それは、只の(シヤ)を見る目だった。


シヤは本能で感じ取った。

奴にとって、自分はただの餌だ、なんの抵抗も許されずに、いとも簡単に食われるだけだ、と。


実質、その通りだ。

赤ダックスフンド(仮)の体からは、可視化できるまでになった膨大な気が、まるで炎が燃えるかのように溢れ出ていた。

それだけで、まるで心臓を鷲掴みにされている錯覚に陥り、急激に体温が下がっていく。


(ダ、ダメだ……早くここから逃げないと、く、食われるっ……でも、動かない……いや、動けない……一歩でも動いた瞬間、狩られる……っ)


赤ダックスフンド(仮)は、ゆっくりと、だが確実に近づいてくる。

迫る死神に、シヤはどうする事も出来なかった。

そして、十メートル手前まできた赤ダックスフンド(仮)は、一度立ち止まり、その短い足に力を溜める。


「ガァッ!」


一声吠え、足に溜めた力を解放する。

ドコォンッ! と地面が砕け、赤ダックスフンド(仮)の姿が搔き消えた。

シヤはその姿を見失った瞬間、殆ど無意識に半歩後ろに下がっていた。

鋭い熱さが胸から脇腹にかけ迸ったのは、それとほぼ同時だった。


「がっ……ぁ……え……?」


感じた熱さに、思わず自分の体を見てしまうが、そこにはなんの異常も見られなかった……かのように見えた。


ドシュッ


嫌な音だと思った。

その音が、自分の体から聞こえたのだから尚更だ。

視界が真っ赤に染まる。

それが自分の血だと理解したのは、身を引き裂かれる様な痛みが襲ってきてからだ。


「————————————っ!!」


あまりの痛みに、声にならない絶叫を上げ、地面に倒れ込みのたうち回る。


「グルルルッ」


そんな姿を見て、赤ダックスフンド(仮)は嘲笑うかのようなうなり声を出し、ゆっくりとシヤに歩み寄る。

シヤは痛みの中で、近づいてくる死の気配から逃れようと必死に藻掻くが、その背中を押さえ付けられ、動くことすら叶わなくなった。


(これは……死んだ……瑠花るか、ごめんな……兄ちゃん……先に母さん達のとこに逝くわ……)


心の中で、唯一の家族であり、最愛の妹の瑠花に謝罪をする。

赤ダックスフンド(仮)は、餌が動かなくなったことをいい事に、その牙を剥いてシヤの首筋に当てがう。


(ここで死んだら、瑠花は大丈夫なか……ちゃんと生活していけるかな……あぁ、ダメだ……意識が遠くなってきた……)


もう感覚さえなくなった手を前に向かって伸ばす。

その手は何かに縋るように握り込まれるが、途中で力を失いパタリと地面に落ちる。


(俺の人生、こんな所で終わるのか……わりかし楽しい人生だったけど……もう少し、もう少しだけ…)

「……生きたかったなぁ」


シヤの目が閉じられて行く中、光が見えた。

ゆっくりと目を動かし、光を見る。


それは、赤の世界に煌めく白銀の輝き。


(あぁ……綺麗だなぁ…)


風に靡く輝きを脳裏に焼き付け、シヤはその目を閉じた。






誤字脱字、アドバイス等ありましたら是非に

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