婚約と命を懸けた悪役令嬢
文はめちゃくちゃかもしれませんが、わかってほしいのはマーリアの優しさです。
12歳の時、婚約した。これでも遅い方だと言われる。
『お初お目にかかります、ネルディ様』
「は、初めまして…あなたが、マーリア嬢?」
初めてあった私の婚約者である第二王子は3歳年下で、どちらかといえば弟みたいだった。
『…うん、そう。よろしくねネル』
誰もいないから不敬罪にはならないだろうと、いつもの口調で話しかければ花が咲くような笑顔で彼…ネルは笑った。
「ありがとう、マーリィ…僕の優しい婚約者に愛を」
そう言って私の手に口付けをしたネルは幸せそうに笑った。私も、幸せだった。
『…あの頃は、幸せだった』
上にあげていた手をダラリと倒し、私はベッドに寝っころがる。
あれから成長して私は16歳に、ネルディ様は13歳になった。
それと同時に、私はある役目を得た。
「お嬢様、手当てをさせて下さい」
『…嫌よ、マーディル。貴方は異性じゃない』
「おや、男にみてもらえるとは大変光栄でございます」
それだけ言うと、気にせずにマーディル…従者は丁寧に私の足を持ち上げる。
「…今日も旦那様は厳しかったようで」
『これくらいどうってことないわ。王子を守るのだから当然よ』
私が婚約者に選ばれた理由は伯爵令嬢だからではない。有名な剣術を操る一族の生まれだからだ。
つまり、王子の盾となる存在。
「…お嬢様」
『そんな顔しないのマーディル。…私の存在が必要にならなければ良いだけよ』
最高の状態は、このまま平和に結婚してネルディ様と国を支えていくこと。
最悪の状態は、…ネルディ様が暗殺者に狙われて、私がそれを守る事態になること。
ネルディ様は第二王子なので王位を継ぐことがない。それでも、大切な王なのだ。
ネルディ様とは今でも仲良くしている。けど…愛称で呼びあったのはあれが最後だった。
問題が起きたのは、1年後だった。王立の学園の高等部3年の私と、中等部2年のネルディ様。いつからか一緒に昼食を食べなくなった。
『マーディル、今日は中庭へ行きましょうか』
「いえ、お嬢様…食堂が良いかと」
様子の怪しいマーディルを押しきり、私は中庭へと向かう。
「っ、お嬢様っ!」
マーディルの声を遮るように違う声が聞こえた。
「ネル、今日も小鳥さんは綺麗ね!」
「ステラ、走ったら危ないよ。…ほら」
若い2人の会話。恋人のような…会話。
『…マーディル、食堂へ行きましょうか』
「…っ申し訳ございません」
なぜ、マーディルが謝るの?そう言った私の顔は………どうだったのだろうか。
ステラ·オールという男爵令嬢がネルディ様のクラスに転入したことは知っていたが、あそこまで仲が良いとは思わなかった。
月に1回、ネルディ様は私の家を訪れるが今回は来なかった。なぜかマーディルが"申し訳ございません"と謝るのだった。
その代わりに、ネルディ様から伝言があった。
『ネルディ様が?』
「はい。日曜日に、王城に来るようにと」
『…そう』
小さく返事をすれば、マーディルが眉を下げる。
『もう、マーディルったら。…ごめんなさいね、嫌なことばかり押し付ける主で』
「…いえ、お嬢様…マーリア様。これからもどうかお側においてください」
『ふふっ、マーディルがいれば私はもう…なにも要らないわ』
何てね、と笑い飛ばして話を終わりにする。
きっと、婚約が破棄されるだろう。つまり盾がいらなくなるのだ。
『そうしたら…マーディルと旅行でも行こうかしら』
想像すると思わず笑みが浮かぶ。今まで盾となるために鍛えていたので、体力だけはある。だから旅行なんてとても良いじゃないか。
幸せになれることを、願って。
「マーリア嬢、呼び出してしまってすまないね」
『いいえ、ネルディ様。どうってことありません』
王城の一室。私はネルディ様と"ステラ様"に挨拶をした。
『どうか、マーディルを…従者を入れることをお許しください』
「ああ、いいよ。こちらも侍女のテディーにお茶を出したりしてもらうからね」
テディーと呼ばれた少女は丁寧にお辞儀をした。…この人、見覚えがない。
『…新しく、王宮に来た者ですか?』
「ああ…君がそういうのを嫌うのは知っているが、許しておくれ」
…新入りが嫌い、なんて言ったことないけどな。ネルディ様は勘違いをしているのかな。
『…それで、お話とは?きっとステラ·オール様にご関係がおありでしょうけど』
私がそう尋ねれば、ステラ様が怯えたようにネルディ様の腕を掴む。…いつから私は、ネルディ様の横ではなく前に座るようになったのだろう。
「実は…私はステラを愛してしまったんだ。…婚約をなかったことにしてほしい」
やはり、と思った。
『わかりました』
そう、一言だけ発した。だって、惨めにはなりたくないもの。ネルディ様を好きではなかったとは言い切れない。でも…粘るつもりはないのだ。
ネルディ様は申し訳ないとは思っているのか、頭を下げていた。この方は本当にお優しい。公共の前なんか選ばずにしっかり話し合える準備をしてくれた。
「…本当によろしいのですか?」
『もちろん』
「貴方はネルを…何とも思ってないのですか!?」
なぜ、あなたが怒るの?ステラ様が私を睨み付ける。不愉快、と感じた。
『そんな訳ないでしょう?』
「なら、なぜそんなにあっさりと身を引けるんですか!?」
『…では、お話も済んだので失礼致します』
私は退室しようとした。その時だった。丁度、侍女のテディーがお茶を………
『ネルっ!!』
「え___」
直後、鈍い金属音。そして叫び
「マーリア様っ!マーリア様!」
「______ちっ」
『ぐ…っマーディル!その女を抑えて!!』
「っ!はい!」
マーディルが私の名前を叫ぶ。…ああ、なんて嬉しいのだろう。一番に私の名を叫んでくれた。
『…も、無理………』
「マーリア様、お待ち下さい!どうか…」
自分の首を撫でれば、真っ赤なぬめった液体がつく。…生温かくて気持ち悪い。思わずティーカップで侍女のテディーのナイフを受け止めたが、呆気なくカップは割れた。そして首に突き刺さるナイフ。
『ネル、……ネル』
「マーリア?…マーリィ?」
ネルは起こったことに頭が追い付かないようで呆然としている。倒れた私の首を撫でて、その撫で付けた手を見つめる。
『優しい、婚約者に…愛を』
そう言って笑えば、ネルはハッとしたように私の肩を抱く。
「マーリィ、待って、…マーリィ!おいてかないで!」
ああ、ネルはあの時と変わらない。
「マーリア様!!マーリア様!」
マーディルの声が聞こえる。どうやら、テディーを柱に縛り付けたようだ。騎士達も部屋に入ってくる。
ボヤけてきた視界では確認できないが、マーディルは側に居てくれてるだろうか?
本当はね、ステラ様…あの女に色々言われた時に叫んでやりたかった。…けどね、やめた。後ろから歯を食い縛る音が聞こえたから。私を支えてくれる、あなたがいたから。
マーディル。そして…ネル。私は…あなた達の幸せを守れた?ひとつ、言うならば…
『こんな、尻軽に……負けたの、ね』
傭兵に混ざる騎士団長に抱きつくステラ様に呪いでも残していってあげようか。…ネルが目を覚ますための…ね。
様々な意見、ありがとうございます!!少しずつ直していきます。