ヒロインは海外でもから回る(3)
やや蛇足的かも知れませんが、ヒロイン攻略本ないと攻略出来ませんの回。
●ヒロインだから恋をしたい。
クラスから浮いた理由も、自業自得って言われそうなものよ。
海外編ね、なんて浮かれて喜んでた時期に、やっちゃったのよね。有名な富豪の息子とかを追いかけてたら、変な風に取られて、ね。
お金持ちの子供ばっかりいる学校だもの、そりゃあもう、あたし的にも合格な、イケメンセレブは山程いた訳。
お金持ち達が集まる、プールバーやダーツバーなんかに足を運んでは、あたしもセレブを釣り上げようと頑張ってた訳だけど。
二十超えの人も結構いるこの学校。敷地内から出られない……出せない、の方が正解かしら……からか、彼らのストレス軽減の為に、それなりの娯楽施設が揃った場所もあって。
そこであたしは随分といろんな国のいろんなセレブと会ったのよ。
「ふーん。そう、私と付き合いたいの。じゃあ、勝手にしたら?」
金髪の美形の男、いつも仕立てのいいスーツを着たアントニオとか。
「アッハッハ! お前、あの黒髪のコレじゃなかったの? オレともヤルの? すんげー!」
巻き毛の褐色肌の陽気な男、奇抜な色彩のシャツにヴィンテージジーンズスタイルの、ダニエルとか。
「……ああ、聞いてる。あの噂の子か。本当に誰でもいいんだな、俺の前にも現れたのか……好きにすればいい」
華僑のエキゾチックな青年、黒髪の長髪にチャイナ風のスーツが独特な雰囲気の、ルーロンとか。
年代物のジュークボックス、そこに古い貨幣を投げ込んで。
薄暗い店内に、けだるげなセレブ達がカクテルなんか飲みながら集う姿にあたしは……格好いい!! って。
すっかり、のぼせ上がって。
映画みたいな風景に、あたし、思い込んだの。
きっとこれが、あたしの新しいステージだってね!
「なんなのこれ? 意味わかんないんですけど」
けれどまあ、仮に続編があったとしても、彼らの攻略は無理だったでしょうね。
そこは、まるで勝手の違う、あたしの自由にならないステージだったから。
正解を知ってた高校時代と、全然違う。
女性の好みも、趣味嗜好も、話題も、トラウマも。
前世の記憶というある意味ズルな方法で、攻略情報はなーんでも、揃ってたあの頃と違って。
彼らの情報を集めるすべもないあたしは、本当に、手も足も出ない。
「あれって、ほんとイージーモードだったのね……」
あたしは、ムードいっぱいなジャズの流れる店内の隅っこで、間接照明に淡く浮かぶ、大人達の姿を眺めるばかり。
笑いさざめく、人の波。その片手には、綺麗な色のカクテル。
そこはもう、ただのリアルな、大人の社交場で、あたしは迷い込んだだけの場違いな子供で。
「なにこれ、どうすればいいの? 正解なんてわかんないよ!」
あたしは、助けの手を求め、オドオドと視線をさまよわせるけど。
でも、そこにあたしを助けてくれる、便利な攻略対象なんていなかった。
初手からあたしは、攻略に詰まったわ。
大人ってこういう時、何するの? 何が正しいの?
山程にプレイした乙女ゲームの中にも、その正解は……ない。
いくつも変わらない筈なのに、彼らはもうすっかりと、お酒に煙草に夜の雰囲気に、慣れていて。
「あら、こんな処に子猫ちゃん? 子供は早くお家にお帰りなさいな」
セレブを取り巻く女達は、まるであたしを相手になんかしなかった。
赤い唇を優雅に歪めて、あたしをまるで子供相手でもするように優しい目で見て、退出を促す。
「間違えて来ちゃったの? ティーンの遊び場は別よ。いい子だからフープリングのある広場にでも、遊びに行きなさいな」
優雅に笑う女達と比べれば、平凡なあたしはそれはそれは見劣りしたでしょうね。
でもきっと問題はそこじゃない。
人に借りたお金で買った服は、大衆向けブランドの量産品で、どこか子供っぽくて、なんだか恥ずかしくて。
でもきっと、劣っていたのは、服だけじゃないの。
……認めなくないけど、中身が、この大人の集う場所に立つには、あたしは子供過ぎて。
大人の付き合いも、恋愛慣れした美女達と同列には出来ないんだ。そうやって、敗北感を味わうのが、常だった。
それでも夢を諦めきれないあたしは……。
仕立てのいい上等の服にピカピカの靴。周りには何人もの美人の取り巻きを連れたセレブに軒並み、食いついた。
彼らは呆れた顔をして、でもあたしのやる事に特に文句も付けなかった。……今思えば、単純に興味も無かったんでしょうけど。
……え? やってる事からして、日本と変わらない? それに完全にセレブにたかる女そのものって?
違うわよ! あたしは本命を探してるんだから。彼女達のように気軽になものじゃないの!! 本気度が違うわ。
その、愛人志望な女達に格で劣ってるあたしが言うと、なんだか情けないんだけどさ。
まあ大体、相手にからかわれるだけからかわれて、それを後ろに付いてる砺波に止められてって感じで。失敗ばっかりよ?
そうやって、彼らの出没する所に軒並みうろつきまくったんだもの。顔だけは売れたわ。
二ヶ月もすれば、学校内の噂の的よ。
あれね、海外セレブのゴシップでよく見る……肉体込みの関係、ガールフレンド志望の女と、そう噂が流れたらしいの。
そんなあたしは、大きな失敗をした。
学校の中でも、村規模程だからか注意が行き届かず、先生達に隠れて色々とやってる危ない場所があって。
あたし、マナーも知らずにそこに深入りして。
相手も自分の将来を潰したくはないだろうし、命までは奪われなかったとは思うけど。……当たり前にナイフが出てきて、あたし、あの時は本当に気を失うかと思った。
まあ、お目付け役がいたから、本当に悲惨な事にはならなかったけど……。
「今度、自分から命を捨てたくなった時は事前に言って下さい。辞表を書きます」
投げやりにそう言われて、お仕事大事な彼らに見捨てられるぐらい、空振りの日々にあたしは焦って、どこにでも首を突っ込んでいった。
……セレブに挑んで敗れたのはあっという間だったけど、その短い間に、三度も辞表を書かれて人が入れ替わったのには驚いたわ。だって、期間にしたら二ヶ月ぐらいだし、怪我だってしなかったのに。意外と根性なし?
その頃だったか、まだ普通に話してたわんこが呆れてた。
「あ、あの……星愛。おれが、言うこと、じゃ、ないけど。あんまり、周りに、迷惑、かけない、ようにね……」
あの、おとなしい奴が口に出すぐらいだから、やっぱりあれかしら、周りから見ても、相当あたしの様子は不おかしかったのかしらね?
流石にナイフで脅されてからは、あたしも肝を冷やしたし、用心して危険な場所にも行かなくなったけど。
護衛達があたしを見る目は日に日に冷たくなっていったみたい。
これで最後と触れ込みの、四人目のSSが来る頃には、あたしも打つ手なしの日々に疲れて、夜にうろつかなくなって……それで交代が止まったけど。
そういえば……辞めてった彼らの退職金もあたしの借金に加算されてるのかしら? 今では悪い事をしたと思ってるのよ、これでも。
来て早々、海外編だわ、なんて挑んではみたものの。惨敗だったわ。
大人の雰囲気に呑まれてただけで。ほんの偶に笑って、暇つぶしにからかわれてただけで。
誰もあたしの事なんて、本気で彼女になんて、してくれなかったし。
……でも、確かに周りからの扱いは、変わった。あれが尻軽女だ、愛人候補だと。
話し相手になって欲しくて、わんこの周りをうろつきまわってる件とも合わせて、益々よ。冷たい目ばかり向けられた。
学校中から、変なやつって風に思われるようになったみたいで……。
半年経つ頃には、札付きの男は寄ってきても、一番欲しい、ただの友達、話し相手が見つからない。
セレブ達はあたしの事に本気で飽きたみたいで、いつもの場所に行っても、今や目も合わせてくれない。
そんな感じの、誰からも浮いたまんまで、あたしはぽつんといつも……一人でいた。




