ヒロインは海外でもから回る(1)
77777PV記念SS、海外寄宿舎生活、ヒロイン視点です。
状況がアレな為、ヒロインにしては突き抜けアホ感は余りありませんが、ざまぁ成分は増し増しとなっております。
●これが寮? ショボすぎなんだけど!
それは十七歳の冬の初め。
全てが輝いて見えた、学園生活。
あたしはそこで恋をした。沢山の素敵な思い出を作った。
「パーフェクダーリン! ~デキる男子は、デキる女と恋する~」 それが、あたしがかつての生で気に入ってた、何度もプレイしたゲームのタイトル。
あたしはそのゲームの世界に、平凡ヒロインとして誕生して。
努力して努力して、全ての攻略対象に会って、恋をして……しようと、して。
あたしは、欲をかいて、攻略に失敗し、バッドエンドを迎える。
……嘘で塗り固めた背景を攻略対象に知られて、無事でいられた訳がないんだけれど。
その時のあたしは、全てが他人のせい、他人のせいで、自分の起こした冤罪についてなーんにも考えられずにいた。
偽りの愛の世界の中心のあたし。
誰もが愛する頑張りやのあたし。
ヒロインの立場に酔って、裏側を知りながらも誰かを不幸にしてまで、乙女ゲームの最高難易度と言われていた、逆ハールートに挑んで。
見事に、惨敗した。
そしてあたしは、陸の孤島に島送りってわけ。
周りじゅう、砂漠のようななーんにもない風景。
そこを十何時間も走った先にあるのが、あたしがこれから何年も過ごすという、セントなんたら……スクール。うん、長ったらしい外人の名前で、正直覚えてない。
たっかーい教育費と、たっかーい寄付を出さないと通えないらしい、セレブ用の問題児専門学校だ。
広大な、村一つぶんぐらいありそうな敷地の周りは高い塀と、高圧電線に囲まれてて、出入り口はどこの国の軍事施設!? ってぐらいに厳重な警備があって。
……なんで、学校の入口で銃を構えてるんだろうこの歴戦っぽい戦士風おじさん。
そんな、海外の寄宿舎にムリヤリ連れて来られたあたしは、とても不機嫌だった。
「あたしカタコトしか喋れないのに、どうしろってのよ!」
本当、バグってるわこのゲーム。いまだにバッドエンドが続いているなんて最低! 困惑した顔のわんこと、イライラ顔の俺様と共にバスから降り立ったあたしは、そんな事を思ってた。
あたしはこれから、誰より愛されて幸せになるはずじゃなかったの?
リセットボタンはどこにあるの? って。
「実地で習えって事だろ。別に全く英会話が出来ない訳じゃないんだから、俺を頼るな」
「えー!? 何言ってるのよ、会長。男なんだから女を護ってよね!」
「誰が、お前のようなクズを護るか」
互いをにらみ合い、ギャーギャと言い合う俺様とあたし。
え? 婚約者同士なんでしょ、仲良しなんじゃないのって? あたしは忘れてないもん、あの、ハロウィンパーティの裏で行われた令嬢吊し上げ会場で、思いっきり突き飛ばされた事。それにこいつ、あたしの事お前とかクズって言うのよ、ほんと紳士じゃないわ、サイテー。
「あ、あの……二人、とも。それより、入寮、手続、き」
「はあ、確かにな。こんな女を構う暇などなかった。事務室に行くぞ。砺波の、貴様らが書類一式を管理しているのだろう、案内を頼む」
「分かりました。案内致します。ついて来て下さい」
わんこの言葉に頷いた俺様は、監視に付いてきたという砺波のSSに言いつけてさっさと歩いて行く。
ぐずるあたしの事を道に、置いていこうと……。
どんだけ酷いのよこの男!!
「とにかく、あたしを見捨てたら絶対許さないから!」
「フン、知るか。お前なぞどうでもいい」
長距離フライトの後、眠い中バスに乗せられ半日以上も揺られてきたあたしは、正直体力気力は尽きそうだった。
でも頼れる相手はこのムカツク男しかいないんだから、全力で縋るわよ!!
……この時。
あたしって毎度うかつだと思うんだけど、あんまりに衝撃的な事続きで、この寄宿舎に来た理由が罰だってのが、頭からすっかり抜けちゃってたの。え? 人としてありえないって? そのとおりね。
でもでもだって、逆ハー完成でラブラブチュッチュが目の前だったのよ? 反撃も鮮やか過ぎて、あっという間に罰の発動だもの。
まるで、できの悪い夢の中みたいに思ってて。
で、これまた新しい恋愛ゲームの中だと、あたしは思ったの。
……これは、自分の知らない海外編であたしがヒロインの続編が、あったに違いない、とね。
陸の孤島、監獄仕様の寄宿舎に詰め込まれた犯罪者が何言ってんの、バカ言ってるって? そうね、正気に戻ったあたしもそう思う。
でも、まだ夢が続いてるつもりだったのよね。
だって、あたしの横には、攻略対象者が二人もいたのよ?
その時にはもう、攻略対象が二人ともに、お家からも見限られて落ちぶれ人生スタートしてたんだけど、そんな事、当時のあたしは知らないし。あたし? 家とは音信不通だから、どうなったんだか分からないわ。
その時のあたしの頭の中では、恋愛の舞台イコール学校、みたいなおかしな考えが根付いていたからね。ほら、ヒロインだから、って。頭の中には常に主人公のあたし! 愛されるあたし! そんなフワフワした現実的でない考えしかなかったの。
新天地で新しい章のスタート! なんてね。また、おかしな事を考えてた。
現実逃避かしら? そうね、それもあるんでしょうね。
ともかく、その勢いであたしは、監視付きの海外生活に突入したの。
●入寮したけど、不機嫌よ。
セント・なんたらスクール(長いし複雑で忘れちゃったわ!) っていう、この金持ち専用監獄ぅ~って感じの陸の孤島な寄宿舎には、それは沢山の寮があるわ。いろんな国からやって来る学生に対応する為に、なんだって。
金持ち度によって寮が違うって聞いたから、勿論金持ち専用の個人邸宅になるんでしょ? ってあたしは思ったの。だって、隣に大会社の子息がいるんですし?
でも、現実は違ったわ。数ある国際色豊かな寮の並びを通り過ぎて、日本人三人が入れられたのは……。
「なにこの、アパルトメントって感じのショッボイ寮……」
ふっつーの、日本にもありそうな古びたアパート、そのもので。
エレベーターもないのに五階建てで三階住みとか、ありえないんですけど。
デザインは洒落てて、古びて趣はあるけど、もっとこう、高級ホテルみたいなさ? おもてなし的な感じないの? せっまい階段昇る間に壁のひび割れいくつみたのよ。
「……お前、まだ文句を言っているのか。それより自分の部屋は片づけろ」
ギロリとこちらを不機嫌そうに睨んでくるのは、磐梯弘樹。
何でか知らないけど、恋愛関係とでも思われてるのか、俺様会長……弘樹が、学校側からはあたしの保護者みたいな立ち位置にされてるのよ。
だから、あたしの入寮にもくっついてきて、監督なんてしてる訳。
「えーっ、て言っても、別に片づけるものなんてないわ」
改めて中を見る。前に入ってた人が置いてったのか、淡いピンクに塗られたアンティークな家具のある部屋の、雰囲気はいいけど……。狭いわ。セレブの無駄にひっろーい、天井たっかーい、そういうゆとりの空間? それが、磐梯家の嫁のあたしには相応しいんじゃないの?
とぼけた頭はそんな風に思ってたの。
「……何?」
こうしておもいっきり、婚約者の俺様男に睨まれてる最中だっていうのにね。
「必要なものは新しくこっちで買いそろえる予定だったし、三日分くらいの着替えとー、洗面用具とー、お気に入りの小物と、ケータイぐらい? このケータイは海外だし繋がんないだろうけど、ネットぐらい繋がるでしょ」
「無駄だ。この学校の敷地内では、学内LAN以外の通信は、外部からシャットアウトされている。出来るのは学校の関係者に利用をお願いして、有線での電話ぐらいだな。さっき入寮案内を貰ったろう、見てないのか」
「えー、なにそれ!? 今時ネットにつながんないなんて信じられない!」
あたしが叫ぶと、俺様の睨み顔が余計に怖くなる。
「俺らはそんな身軽な立場にないだろう。監視されているのに、何とも平和な頭だな……本当にお前と話すとイライラする」
親の敵みたいに睨みつける俺様。あたしだってムカつくわ!
「荷物だって、そんなに多く持ってこられないもん。最低限の荷物しか持ってないわ。こっちで買い揃えるのね。ねえ、いつ買い物行くの?」
トーゼン、最高級のお店で弘樹があたしにおごってくれるんでしょ? だって……。
あたしはイヤでイヤでたまんないけど、この御曹司様は、あたしの婚約者ってやつですものね? だからあたしを取り巻く全ては最高級品で、全てがあたし用に作られたもので、そうやって愛されて暮らすんだもんね!
……って、まだ寝ぼけた頭はおめでたく思ってた。
俺様は絶句したように動きを止めたわ。
何か、おかしな事言ったかしら? あたしは首を傾げる。
あたしが、部屋の備え付けのソファーまでトランクを引いていって、くるりと振り返るその時までも、俺様は入り口の辺りで、固まってる。
「ちょっと、どうしたのよ」
「余りの衝撃に目眩がした」
頭痛でもするのかしら、頭を押さえてるのだけど。この俺様何様弘樹様。
何だかさっきから話がスムーズにいかないわねぇ……なんて、すっかり高級品を買いあさる気のあたしは、明日にでもこの監獄から出てどっかのショッピングスポットで、全身を高級品に固めてる自分の姿を想像してた。
そんなあたしに、奴は無情にこう言った。
「……何故、お前の買い物など俺がせねばならん」
「え、あたしあんたの婚約者だもの」
トーゼンでしょ、ってあたしはサービスで笑いかけてやるけど。
「……畜生同然のお前などに、一銭も払う価値など感じない。話にならん。さっきも言ったな、俺を、頼るなと」
憤慨したように顔をゆがめるとそう言って、弘樹は話を切り上げ出て行ったのよね。
置いていかれたあたしはボーゼン。
「え、ちょっと。海外で使えるカードなんてないし……本当にあたし、どうすればいいのよ」




