エピローグ
ヘリから降りて、スクラップになった防弾車の陰に両肩や足から血を流して虫の息の五条を見つけた時は肝を冷やしたが、五条を運搬した救護ヘリの班員から、銃槍痕は自動拳銃によるものだろうと聞いた時には胸を撫で下ろした。
しかし、そのヘリの護衛として乗り込んでいた黒蛇隊のスナイパーから、危うく敵の首謀者によって五条が殺害される寸前だったらしく、作戦遂行の責任についてガミガミ説教されたのには気が滅入った。
崖から落ちていった男については、常識的に考えて生存は絶望的であるという理由から、疲労困憊した隊員達と崖下まで探索にいく事は免れた。
(まさかあんな車の中に生存者がいるとは…)
奥田は兵舎の個室で数時間の仮眠を取ってから、ぼんやりと作戦を思い出しながら報告書の作成に励んでいた。
例の女上司から、特に人形兵の実戦での機動性や利便性、課題点などについて最大限精密に記すよう言われていた。恐らく、人形兵の実戦での部隊長からの主観的な評価。上層部にとって喉からが手が出るほど欲しいデータだろう。これを巧みに取引して、大破した人形兵の件をチャラにしてもらおうという魂胆だ。他の部隊でも人形兵は使用されたが、白兎隊ほど大きな破損はなく、それ故、彼女の保身の為の資料作成という面倒な作業をする事になった。他の二人の隊長も報告書は書く事にはなるが、少なくとも数日間の猶予が与えられている。気怠い体に鞭打ち、何とか仕上げた報告書を渡しに行く、司令室に入ると、正装用の軍服に身を包んだ上司が待っていた。今作戦についての会議に呼び出されたのだろう。
「遅い!何時だと思ってる!」
9時過ぎである、何時間寝たと思ってる。内心で愚痴を呟きながら。報告書を手渡す。
「ほい、これで首の皮一枚つながるでしょう」
「うむ、ご苦労!じゃ!」
報告書に目も通さずにバックに突っ込み、そのまま急ぎ足で部屋から駐車場に向かう。その姿を見送ってから、欠伸を噛み殺しながらもう一眠りしに個室に向かう。廊下の途中で、輸血パックを入りの箱を小走りで運んでいる救護班とすれ違う。今回の作戦含む、ここ数年の世界中の惨状の原因となった男を生かす為に尽力している姿を、不思議な気持ちで眺める。そんな事を考えながら、重い足を引きずりベッドを目指す。
…その男が後日アメリカに引き渡されて消息が絶たれ、そのアメリカで感染が広がり、その他諸々の厄介事に巻き込まれていくのは、また別の話。
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