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戦闘開始

「全体、止まれ」

 奥田が部下に静かに無線で連絡し、扇型に広がり進んでいた行軍を止める。暗視スコープ越しに6人のAKを持った人影が見える。

「前方70m、6人、見えるか?」

 少し間が空き、隊員達から確認したと伝えられる。全隊員が敵影を目視してから、本部に連絡する。

「こちら白兎、敵性部隊を発見した、これより交戦する」

[了解、幸運を祈る]

 この無線係が最近競馬で大負けして、そのまま彼女に振られた事はこの際思い出してはいけない。

『隊長、何時でもいけます』

「3カウントでいくぞ…3.2.1」

 プシュ

 サプレッサー独特の発砲音と共に頭を同時に撃ち抜かれた6人の体が崩れ落ちる。しかし、奥の方から大声で叫びながら何人もの武装した男がこちらに向かってくる。

「くるぞ、各自対処しろ」

 真っ先にこちらに走ってきた男が蜂の巣にされるのを見てふと思う。

(慣れている…)

 蜂の巣にされた男や、殆ど無警戒だった見張りのように、まるで素人の者もいるが、奥の方から出てきた多くの者は無闇に射線にとび出さず、木の影から影に縫う様に移動している。そして、不意に身を乗り出し奥田達の方にAKを乱射する。日本の森の多くは照葉樹林である。その風景に溶け込むよう作られた迷彩服、しかも夜間ともなれば発見は困難だろう。それでも蜂の巣にされた男やサプレッサー越しの銃声から大方の方向を判断し、射撃してくる。木の陰から飛び出した瞬間を狙い、男の胴部分を撃ち抜く。仲間の倒れ方を見て、AKを向ける方向を微調整した男の頭を狙い、引き金を引く。慣れているとはいえ、練度が違う。着実に数は減っている筈だ。しかし、森の奥からの増援は一向に減らない。現在交戦中の敵に、奥田は心当たりがあった。外国の傭兵部隊、金次第で何でもする彼らは、現在、需要が多く、様々な傭兵部隊が台頭してきている。安っぽい防護服に身を包み、感染者の護衛をしている彼らと交戦した事も何度かある。恐らく、その雑多な傭兵部隊の一つを河目組が雇ったのだろう。

(何故日本に入れてこれたんだ…そういえばさっきからの叫び声も日本語では無い様だ…)

 そこで思考を打ち切る。考えすぎて内に篭ってしまうのは奥田の悪い癖だが、作戦中は命取りになる。

「こちらに白兎、敵戦力に対して航空支援を要請する。位置は分かるか?」

[GPSで確認済みだ、少し待て…ん?]

「本部、どうした」

[許可された筈のヘリが無い、現在航空支援を行う事は出来ない。]

「そんな馬鹿な!どうなっている⁉︎」

[手続き上のミスだろう、すまないがってちょっ…]

「おい!どうした」

[よっ!生きてるか?]

 耳慣れた上司の声が無線から聞こえる。無線係からマイクを奪ったのだろう。

「どうなってるんですか、支援その他諸々のバックアップは何でも受けれると聞いていたんですが?」

[おっしゃる通りだ、申し訳ない、しかし、作戦展開地域最寄りの基地にヘリが無く、どうしようも無い。今別の基地からヘリを飛ばしている。30分もあれば着くだろう。]

「30分あればどちらかが全滅してますよ。」

[だろうね]

「だろうねって…」

[まぁ聞け、援護用の無人機は現在も上空を旋回中だ、物資の補給とあれは使えるから不味そうな状況だったそれでどうにかしてくれ]

「了解です…もしかして、分かってました?こうなるって」

[ちょっとね、だからあれを渡したのもある]

「成る程…せめて一言言ってくれれば…」

[だから悪かったって、最終的な判断はそっちに任せるよ]

 その声を聞いてから、奥田はまた戦闘に戻る。と、奥の方に物騒な物を発見する。軽機関銃、RP-46を担いだ巨漢が手早く2脚を展開しこちらに向ける。奥田を含む、軽機関銃の威力を経験した事のある隊員は顔を青くする。部隊の数名が巨漢を狙い発砲し、呆気なく巨体が地面に倒れる。しかし、また別の男が這いずってきて機関銃を掴んだ瞬間、轟音と共に毎分数百発の速度で銃弾が飛んでくる。着弾地点も随分近くなってきている。

「あいつをどうにかする、カバー頼む!」

『了解!』

 奥田から見て右側の隊員達が機関銃に向け連続して射撃する。しかし、うつ伏せになって機関銃を構えているため、弾はうまく当たらない、逆に位置を悟られ、機関銃の掃射を返される。瞬間、奥田はアンダーバレルのグレネード弾を軽機関銃に向け発射、爆音と共にひしゃげた軽機関銃が吹き飛んでいくのが見える。うつ伏せの男はそのままの姿勢で黒焦げの肉片になる。しかし、先ほどの掃射により、位置が把握された右側に敵の攻撃が集中する。付近に投げ込まれた手榴弾が炸裂した瞬間、隊員の誰かが鋭い悲鳴をあげる。

「大丈夫か!」

『大丈夫です。まだまだいけます。』

(やはりこのままでは少し厳しいか)

 スモークを焚き、敵の目を誤魔化して、射撃位置を移動する隊員達を見ながら思う。

(残弾も余り多くは無いはず…)

「おい!あれを使うぞ!注意しろ!」

 隊員達に伝えながら奥田は小さなピストルを敵の方に向け撃つ。数十秒後、豆電球の様に光る信号弾が着弾した地点に、長さ2mほどの楕円形のカプセルが超高高度の無人機から放たれ、地響きと共に敵陣に降り立つ。そして、カプセルが幾つかに分かれて弾ける。近くにいた数人が、離れる間も無く飛んできたカプセルの一部にぶつかり、嫌な音を立てて地面に倒れ、そのまま動かなくなる。そして、わずかに残ったカプセルの下部に立っていたのは。灰色の人型の何かだった。傭兵達が我に返って、それに銃を向けるよりも早く。それは跳躍し、一番近くにいた男に蹴りかかる。空中で器用に首筋に狙いを定め、人間には不可能な軌道で横薙ぎに蹴り込む。首が取れた体から吹き出る血液に怯んだ近場の男に低い姿勢で走りより胸を突く。刺さった手を心臓から抜き、横に飛び、背後からの射撃を避け、また手頃な獲物を狩る。

 傭兵を片付けながら、それは奥に進んでいき、隊員達の視界から生きている傭兵はいなくなる。

「隊長、あれは一体…」

 近づいてきた隊員が尋ねる。

「ああ、対人用人形兵だよ。正式には名称決まってないけど、お偉いさんがかっこいい名前つけてくれるって」

「噂のロボットですか」

「そうだ、性能テストは見た事がある。あれに任せとけば取り敢えず大丈夫だ。衛生兵!今のうちに負傷者の治療しとけよ。それと無人機から物資の補給を要求しておけ。まだ生き残りがいるかもしれん。周囲の警戒を怠るな。あとお前とお前、俺とこい」

 部下にテキパキと指示を出して、人形兵を追って状況を確認するために疲労の少なそうな2人を選び付いてこさせる。そして、その人形の事について思い出す。

 地上の部隊を壊滅させたい時、もっとも手っ取り早いのは空爆である。しかし、混戦状態の時には味方も巻き込む恐れがあり、うかつに使えない。戦闘ヘリも便利だが、地上からの集中砲火に晒される恐れがある。そんな時、あのロボがあれば、それらの事に頭を悩ます必要はなくなる。加えて重量もそれほどでは無いため、鈍臭い爆撃機に積まなくても、そこらへんの戦闘機に乗せていけばいい。これなら完全に制空権を確保できなくても、一発撃って逃げれるくらいの余裕があればそれでいい。さらに要請用の器具をピストル型にすることで、地上部隊の判断で早急に要請できる。そんな理由から作られたらしいが、作成にかかる値段を聞いて、そんなトンデモ兵器に使うなら地上部隊の装備の増強に使う方がよっぽど有意義だと感じたのは奥田だけでは無いはずである。しかし、こうして威力を目の当たりにすると、成る程高いだけあるとも思う。人工筋肉により、人型の大きさからは考えられない様な馬力を出し、被弾数を極限まで避けるように動くらしい。勿論その人工筋肉自体も防弾ではあるらしいが、戦車や装甲車ほどの耐久度は無いらしい。銃声が近くなる。気を配りながら接近すると周囲に幾つかキャンプが立っている山小屋に出くわす。どうやら、ここが彼らの拠点だったらしいが、今は人形兵相手に決死の籠城をしている。窓やドアの隙間から覗く銃口は少なく無いが、そこから放たれる銃弾を人形兵は上手く避け、中に突入する機会をうかがっているようだ。と、突然。ドアが開け放たれ男が飛び出す。人形兵が飛びかかり、男の胸を貫く。瞬間、爆音が鳴り響く。手榴弾にしては火柱が大きく、恐らくプラスチック爆弾でも使ったのだろう。

 人形兵が数mほど宙に浮かんで地面に叩きつけられる。頭と片腕が見当たらないが、千切れて吹き飛んだか。小屋からは歓声が上がる。だかしかし、人形兵はすっくと何事もなかった様に立ち上がり、開け放たれたドアに、中の者が閉めるより早く飛び込んだ。中からは大勢の断末魔の悲鳴が聞こえる。

(耐久度はあまり無いと聞いていたがなぁ)

 プラスチック爆弾でも破壊出来ないとなると、ロケット弾を撃ち込むしかないが、あんな速度にどうやって当てるというのか。

「本部、交戦終了、他の部隊は?」

 小屋からの悲鳴が止んでから、本部に連絡する。

[了解、他も交戦中だが、応援の必要は無い。当初の予定通り目的地に向かってくれ]

 最初の無線係に戻っていた。

「分かった。あいつはどうする?」

[燃料も少ないようだし、こちらから停止させておく。機能の停止を確認してから目的地に向かってくれ。すぐに回収班が向かう。]

「了解」

 開け放たれた扉から天井から吊るされたわずかなランタンが灯されているだけの薄暗い山小屋の中を覗く。部下らが息を飲むのが聞こえる。10人程の男たちが喉や心臓などの体の急所が抉られて倒れている。まだ鮮血を噴水みたいに吹き出しているのもあり、部屋は鉄臭い匂いで満たされていた。その中に元は灰色だった筈の人形兵が返り血で真っ赤に染まって佇んでいる。 近くで見ると、肩や肘などの関節部は強化プラスチックのプロテクターで保護してあるが身体の大部分は人工筋肉をそのまま晒しており、色も相まって人の皮膚を剥いだような外見である。それでも手足の指はナイフのように鋭い形の特殊合金で覆われており、学校の人体模型と違い、戦闘用に作られた兵器である事を実感させる。律儀に五本指にしてあるのは状況によっては一般の兵が使っている武器をそのまま使うためである。千切れた首と肩口からは無色のドロドロした液体を滴らせており、大小のパイプと幾つもの細いコードが顔をみせる。 マニュアルには、目の部分のライトの点滅により、稼働と停止を判断するらしいがその頭が吹き飛んでいるので判断しようが無い。銃で突っつき、動かない事を確認する。

「本部、機能停止を確認、装備の補給の後、目標への行軍を開始する。」

[了解した、目的地までは近いが気をってちょっ…]

 せめて一声かけて下さいという無線係の抗議の声が無線越しに聞こえる。その声を無視し、無線から上司の声が聞こえる。

[どうだった?人形兵の威力は]

「流石にあの値段のだけありますね、あっと言う間に全滅させました。それに耐久度も中々あります。首が無くなってもピンピンしてましたよ。」

[はぁ⁉︎首が無くなった⁉︎]

「ええ、あと左腕も無いですね。C4か何かで爆破されたんで無理も無いでしょう」

[不味いよ…そんな派手にやられるとこっちの首が飛ぶ…]

「もしかして、無許可ですか?」

[許可は取ったけど…一応…]

 どうせ詐欺同然の説明で許可を取ったのだろう。恐らく上はこの作戦に人形兵が使われているとは知らないはず。彼女はよくそんな無茶をする。

[そもそも、なんであんなの速いのに爆破されんのよ!]

「そういう事もありますって、詳しくは帰ってから説明します。」

 上司の断末魔を耳にしながら無線を切る。小屋からでて、部下達と共に部隊の所に向かう。

「しかし、小屋の中は凄いことになってたな。俺の部屋よりひどい。」

「個人的には、あんなの見た後でそんな口叩ける隊長の方がよっぽど凄いですよ」

 顔を真っ青にしながら部下は呟いた。


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