退屈な会議は続く
一人が手を挙げ答える、
「何故今さらそんな御説明を?ここに入った者はそれらの流れは把握していると思うのですが」
「そうね、私達はあくまで法律の外にある集団であるということを再確認して貰いたかったの」
じゃあ説明に戻るわね、とまだ何か言いたげな部下たちを軽く無視して熱弁を続ける。この人の下について長いが、本当に何故自分より昇進してるのか不思議に思う。
今回の救出目標は五条っていう科学者のおっさん、こいつが中国で、ウイルスばら撒いた張本人、しかもワクチンの在り処を知ってるらしい!何としても拉致って自白剤漬けにするなりしてその場所を教えて貰ってアメリカとかに媚を売らねば!ついでに使い勝手の良い細菌兵器を作ってもらえば核兵器縛りしてる我が国にとって有益かもってのが私らの政府の思惑らしい、で、そいつを攫った河目組ってところの暴力団、場所も衛星からバッチリ把握、資料に緯度経度、現地の衛星写真が載ってるからよんどいてね。本当は警察の機動隊とかそこらへんに頼みたいんだけど、事の詳細をあまり公にしたくない。具体的には日本で感染者でもない20数名の若者の脳漿を公道にブチまけた事とか。なんで、できるだけ内密に話を済ませたい。で、私達が何をするかって言うと、何時もと同じ殲滅戦。ただ今回は相手は感染してない、そして一人だけ生かしとかないといけない。私達の一生が決まると思って作戦に励むこと。何か言いたい事ある?
さっきと同じ部隊長が声をかける。「繰り返して申し訳ないのですが、先ほどの質問の答えがイマイチ納得出来ないのですが…」
「うーん…誰か察してくれた人いるかな?」
誰も手を挙げず、不穏な静音が室内を満たす。
「交渉材料なの、彼は唯一の」
そこでやっと奥田が事態を把握した。他の隊長の顔色も変わる。
「国を相手にですか?」
いい?今こんな組織が存在できるのは必要だからという事と世間の目が逸れているからっているのがある。私達の出現は未知のウイルス、中国の経済崩壊から始まった世界恐慌、日本の失業率の低下、犯罪率の上昇、物資不足、その他諸々の事件の一部に過ぎない。しかし、どんな悲劇もいずれ終わる。ワクチン開発が先か、奇跡的に日本が感染を防ぎ続け経済を元に回復するのが先か、兎に角何時か終わる。そうなった時、海外出現して民間人を撃ち殺した武装組織集団に注目が集まる。その時、国は国民と私達、どちらの味方になると思う?
「待って下さい、その為のメンバー非公開でしょう、全て終わってから私達が自衛隊に戻る手段なんて幾らでもありますよ」
「非公開なのは死亡した隊員の処理が容易だからだ、今時金銭目的の殺人なんて珍しくないもの。」
「だからって、わざわざ命令されていった我々が…」
「我々全員という事はないだろう、恐らく組織内の内の一部が処分されることになるだろうな、反乱の首謀者として、その候補の中には私達も入ってるだろうよ」
「こんな末端にスケープゴートが務まるんですか?」
「こんだけ不透明な組織ならそれぐらいなんて事ないだろうねまぁおっさんという交渉材料さえあれば上層部がどうにかしてくれるさ、多分」
「多分という事はそれも確定ではないという事ですか…」
「そう、あくまで交渉が始められるってだけだからね、断言は出来ない。」
先程から質問を続け、今は呻きながら手で顔をおおっている彼は前回の殺菌作業後に隊長に昇格したため、彼女と顔を合わせるのは今日が最初だ、自分も最初は疑問点や不可解な部分は質問しなければ気が済まなかったが、何時からか疑問も持たず淡々と作戦を続けるようになった。
「すいません、いいですか?」
奥田と同じく黙って聞いていたもう一人の部隊長が声をかける。
「なに?」
「そのような事情を我々に話したのは何故ですか?彼さえ確保すれば交渉はあなたやあなたの上司がやってくれるはず、我々はそのような裏の事情は知らない方が都合が良いのでは?」
言われてみればその通りだ、淡々とこなすと言うよりは、思考力が低下してるだけな気がしてきた。
「そりゃこの目標がちゃんと護送されてれば私もこんな面倒くさい説明せずにすんだわよ、これだけ重要な作戦が説明不足で失敗なんてしたらそれこそ生贄は私達で決定ね、今回の作戦は失敗する訳にはいかないの、ワクチンが発見されればそれこそこの組織は必要じゃなくなるし殺菌作業ももう行かなくてすむ。今回の作戦、航空支援その他諸々のバックアップはなんでもできると思っていい、そして…」
言いながら、机の下から取り出した仰々しいアタッシュケースのロックをはずし、中から取り出した小さなピストルを見せる
「なんと、こいつも使えます」