プロローグ&第一話
小説家になろう、では初投稿になります。拙い文ではありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
私にとって、大事な人。
…その人は――。
朝。
スマホの鳴り響く音で窪田彩は目を覚ました。
「何」
電話に出るなり、思いきり不機嫌な声を出す。
「彩…今から会えねぇ?」
「…え、健?…いいけど、どしたの」
電話の相手は村田健。不良仲間であり、彩のグループのリーダー格でもある。
普段は割とへらへらしているだけに、ただならぬものを感じ、思わず体を起こす。
「ちょっとな…そっち行くわ」
「わかった」
彩は、ごそごそと行動を開始した。
「あのさあ…馬鹿なの?」
「何が」
「電話してから5分で異性の家に来る馬鹿がどこにいんのよ」
「え、ここ」
ドアを挟んで話しながら、彩は密かに溜め息をついた。
結局、こいつは何も切羽詰ってなんかないんじゃないか。そう思いはじめていた。
「ったく…もういいよ、上がって」
「お邪魔しまーす」
「邪魔するならお帰りください」
「なんでだよ!」
… しつこい程に毎回繰り返すこのやりとりの後。
「あのねぇ…なんであんたはそんなに寛ぐわけ。しかも私仮にも女なんだけど」
カーペットの上でうつ伏せになりスマホをいじっている健。
「いいだろ、別に。つーか腹減った」
呑気な声で言いながら彩を見る。
「あのね…」
手にしたラップでぽかりと健の頭を叩いて腕組みする。
「…で?何が食べたいの?」
「彩が作るもんならなんでもいい」
「…ばーか」
ぼそりと呟いて用意にとりかかる。
どうせ無意識なんだろう。
そう思う彩の心臓は、うるさいぐらいだった。
鈍いのか、気付かないフリなのか。
どちらにせよ、気付いている様子はない。
「ねえ、あんたさ…好きな人いんの?」
「は?なんだよいきなり」
面白そうにけらけらと笑う健に視線を移す。
「別に?ただ、ふと思って」
「ふーん…そういう彩はどうなんだよ」
「さあ、ね。どう見える?」
「いないだろ」
「…あ、そう見えてるんだ」
「で…どっちなんだよ」
「さあ?…健は?」
「どうだろうな?」
笑いながら立ち上がった健がキッチンへ来る。
「何手伝えばいい」
「いいよ、あんたは何もしなくて」
そうは言っても、健が聞くわけもなく。
「…まあいいや、手伝って」
いつもとほとんど変わらない朝食を摂りながら、彩は本来の目的を尋ねる。
「あー…あのさ、教えてほしいことがあるんだよ」
健がこんなことを言いだすのは…
彩は黙って立ち上がり、数冊のノートを渡す。
「あげる。私は別に持ってるから」
「さっすが彩…頼んでもねぇのに」
ぱらぱらとノートをめくりながら健が感心したように言う。
「だって、あんたあんまりにも講義出ないんだもん。単位がやばくなったら絶対に来ると思って二冊書いといた」
「さんきゅ、助かる」
礼を言って食事を再開する健を頬杖をついて見つめる。
「何?」
「別に」
どこまで鈍いのか、と出かかった溜息を飲み込む。
「ふーん…ところで、知ってるか?良たちが目付けてる奴」
「え?…あー…なんだっけ、どこかの家の息子だっけ」