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カウント7  作者: reco
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 立ちつくした道には、誰もいない、

 見渡しても、誰もいない。

 声を上げてみた。外で声を発するのなんて、ここ数年なかったためか、発したように感じただけで、実際は喉から空気が抜けただけだった。

 後ろをついて来ていたクロックドールが、僕の足にぴったり張り付いたのを見て、僕はもう一度、今度こそ声を出した。

「だ、だれか、いないの?」

 そう発した途端、堰を切ったように、僕はその場を駈け出した。凹凸のない道を走る。走っても走っても誰もいない。

「はあはあ……どうしてっ」

 立ち止まり、道路一面に、不自然に散らばっているものを拾う。それは服だった。そして、時計や髪留め等の身につける嗜好品、シリアル端末にブレインチップ……そんな物たちが、何も、塵ひとつ落ちている筈のない道に散乱している。まるで、人のいた痕跡を残すように。

 自動塵除去装置が作動しているのか、落ちていた、人の痕跡が音もなく消されていく。

 僕には家族や友人、知人すらいない。誰がどこへ行ったのか、確かめるすべもなく、住処があるレストラン街の地下へ戻ってきた。

 一体、何が起きたのだろう?

 人は、どこへ行った? いや、どこへ消えた?

 寝床に潜り込んだ。心臓がドキドキしている。闇雲に走り続けた所為だけではない。何が起こったのか解らない現実に、言いようのない不安を抱いているからだ。

 嗚咽が聞こえた。僕の声だ。何故泣いているのか自分自身にも理解出来ない。

 悲しむことなんてない。泣くことなんてなにもない。泣く様なことがどこにある? いまさら何かあったとして、それがどうしたというのだ。

「僕は、宇宙に行く、それだけじゃあないか」

 そう、それだけだ。なのに涙が止まらない。

(だって、だってさ、地球は僕を捨てたんだ)

 そんな筈はない。そんなことある筈がない。

(悲しいなんて、ある筈がない)

 とめどなく流れる涙をそのままに、僕は思考の防衛の為に眠りに落ちた。


 僕は本来、存在してはいけないとされる人間だった。

 地球連合が発足し、人を監視下に置くことを目的に、満8歳の子供にブレインチップを埋め込むことを義務付けたが、8歳に満たない子供は、膨大な記憶と記録のデータの受容に耐えられないという理由から、ブレインチップは埋め込まれず、親にリンクする形をとる。

 情報の安定化の為に、子供は親に従属しなければならず、それ以外は認められない。だから、親のいない8歳未満の子供は、どのような理由であれ、処分の対象に上がる。

 僕がその処分対象に上がったのは、皮肉にも、8歳の誕生日を迎える一週間前だった。

 僕が生き残るための手段はひとつしかなかった。今考えてもそれ以外の方法があったとも思えない。いや、違う。それ以外の方法などしたくなかった。

(後悔はない)

 僕は夢の中でも、そう何度も自身に言い聞かせ続けた。


 次に目覚めた時、僕は目的を果たす為の機械の精査を始めた。ただ、やはり外の様子も気になるので、クロックドールを外に出し、周囲の数値を演算させている。異常があれば(この場合の異常というのは、例えば、僕以外の人物の察知等)知らせに来るようになっていた。

 負荷が掛かる為、クロックドールには極力、そういった機能を使わないようにしていたが、出来る限り、僕は外に出たくなかった。それは、こうなる前にだって思っていたことだったけれど、今は一層その気持ちが強い。

 ひとつひとつ丁寧に精査を行っていくと、部屋の端に置いてある機械を見つけた。その用途の特性から、長らく使っていなかった筈なのだけれど、どうやら最近起動した痕がある。セットしていたリールが巻き切っていた。

(こんなもの、どうして?)

 これは、地球連合のあるデータ配信でしか反応しないものだ。

 僕はブレインチップがなく、個体識別用のシリアル端末も単体で、どこにもリンクしていない。だから、緊急時や重要性のあるメッセージをどこにも受け取る事ができないので、その通信データをこの録電子機器で拾っている。

 埃を被っていた機械を引っ張り出し、手のひらで無造作に払い、リールを引きだす。液晶モニタに繋ぐ時間も惜しくて、リールからフィルムを伸ばしながら、直接電子記号を目で拾い、頭の中で組み立てていく。

「なんなんだ、これ」

 メッセージ自体は、地球連合の定期演説だが、電子記号が所々、継ぎはぎみたいに滅茶苦茶だ。これではスムーズに通信が出来た様には見えない。

(ノイズ? そんな馬鹿な)

 古代物では当たり前に、それこそ頻繁に起こるノイズは、現代の機器で発生することなど、まずあり得ない。ノイズ自体を知らない人が普通なので、それが起こる可能性はないと言って良い。

(ノイズでないとすると、これはなに?)

 椅子に深く座り込んで、フィルムをつぶさに見ていくが、やはり意味のある羅列とは思えない。

「繋げてみよう」

 リールに巻き直し、データが配信された状態を再現することにした。映像と音声データの二組なので、液晶モニタとスピーカーに繋げ、シリアル端末を使って変換する為に起動した所で、悲鳴が聞こえた。

「きゃーたすけてー」

 全く切迫感のない悲鳴だが、聞き慣れた声だった。

「クロックドール!?」

 僕は部屋を飛び出すと、レストラン街に出た。声が聞こえたということは、地上ではない筈だ。

「ああ、クソっ、動くんじゃねえよ」

「はなしてー」

 僕の部屋から数十メートルの所で、黒い人影が見える。その黒い人影は、クロックドールの襟首を掴み上げていた。

(え、え、え、ええええええ、人ーーー!?)

 心の中で大きく叫ぶが、思い切って上げた声は、「ひと、ですか……?」モスキート音もびっくりな空気が抜けた様な声だった。

「お前の飼い主はどこだ?」

「ヒカルは部屋にいる」

 僕の声はもちろん聞こえなかったようで、クロックドールは持ち上げられてぶるぶる震えながら、人影に僕の居場所を抵抗することなく暴露した。

(まあ、普段、負荷のかかる事はするなって言い聞かせてるけどさ。躊躇もしないって酷くない?)

「ヒカルって奴はどこの部屋にいるんだ? つーかきったねえ場所だな」

 貧民層のレストラン地下街が綺麗な筈はない、とは言わず、僕は名乗り出ることにした。

「ヒカルは僕。クロックドールを離してやって」

「うわっ」

「ヒカルー」

 後ろから人影の肩を軽く叩いて存在を示す。こんなに近いのに、こうまでしないと気付かれないなんて、僕の存在感は地の底にまで落ちているらしい。

(別に、良いけどね。それで生きていけた訳だし)

 人影から逃れたクロックドールが僕の足にくっついた。それを確認して、僕は人影の姿を改めて目にとめる。

 シングルのスリーピース・スーツを着た大人の男だ。スーツを着た地球人種などひとつしかない。

(この人、華族だ)

 男も僕の上から下までを見ている。きっと僕と同じように(こいつ、平民か)と思っていることだろう。

「俺は東海トーカイだ。お前は?」男は名乗り、僕に促す。僕はこういう流れを作るのに慣れていないから、トーカイが促してくれれば話しやすい。

「僕は、南条光。こっちはクロックドール、名前はないよ」

 クロックドールはトーカイを警戒してるのか、僕の足の間から離れない。

「ナンジョウ、ここにいる人間は、お前一人なのか?」

「ここから離れてないから解らないけど、今朝から誰にも会ってないし、見てない」

「俺もだ。シリアル端末は無事なんだが、ブレインチップがイカレちまって全くデータが使えねえ」

 僕はトーカイのその言葉に少し引っ掛かりを覚えた。

(ブレインチップがイカレる?)

 そんなことがあるのだろうか? それとも、ブレインチップがイカレるほどの事があったのだろうか?

 些細なことが気になり始める前に、僕はやるべきことが途中なのを思い出す。

「ちょっと僕、やらなきゃいけないことがあるんで」

 そう言って失礼したが、トーカイは後ろをついてくる。

「お前、マイペースな奴だなー」

 十年近く他人と話しをせず、接触もしなけれなマイペースに成らざるを得ないだろう。

 部屋に戻って椅子に座り、リールを巻き込めるようセットする。

(この電子記号に意味はあるのか?)

 処理音が数秒続いたが、やがて地球連合の演説が流れ始める。

「これって、一昨日流れた演説か?」

 確かにトーカイは一度これを聞いている筈だ。

 フィルムは変だったのに、これといって、異質な音を拾わないのを不思議に思っていると、トーカイが椅子越しに身を乗り出して音声が流れるスピーカーに近づき凝視したまま、眉間に皺を寄せて険しい顔をする。

「ブレインチップがねえから確かじゃねえけど……俺が聞いた音声と内容が全く違う。それに、」

 トーカイはひとつ呼吸を置いた後、絞り出すような堅い声で告げた。

「この演説を聞き終えた記憶は俺にない。次に気付いた時には、人間が消えていた」

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