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亮子  作者: 千葉さとみ
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三顧の礼編~その2~

山間から見える夜空に満天の星がきらめいている。

晩秋の候。

空気は澄んで、空には雲ひとつない。


ここは荊州の片田舎である。


この美しい夜空をじっと見つめている女性がひとりいた。


ショカツリョウであった。


丘の上に、いつもの彼女専用の場所があり、今夜も星を見つめていた。

時には毎夜のようにこの場所で夜空を見上げ、いったい何を思うのか・・・。


「姉上、やはりここでしたか。」


弟のショカツキンが夕食の支度が出来るから家に戻るようにと知らせに来た。


「うん。わかった。」


「よく飽きずにいつもここで星を見てますね。」


「まったく飽きないわ。だって毎日変わるのよ。星って。」


「そう。」


いまさらながら我が姉の変わり者なことよと、弟のショカツキンは思った。


自宅の庵へ戻ると、童子のシュウが、三人分の食事の支度を終えたところだった。

食事の支度はシュウが主にやっているが、ショカツリョウやショカツキンがすることもある。


「あー、お腹空いた。食べよー。」


ショカツリョウはそう言うと、何か汁物から食べ始めた。

ショカツキンとシュウも食事に手をつけた。

こんな風景を誰かがちょっと見たら、夫婦とその子供ひとりの家族の夕食かと見えるかもしれなかった。


暫くすると、食べながら、ショカツキンが切り出した。


「姉上、水鏡先生からジョショさんのこと聞きました?」


「いや。なに?」


「仕官先が決まったらしいんだ。リュウビ様のところに。それも軍師として召抱えられたんだって。」


「・・・・・。」


ジョショというのは、ショカツリョウの学友で先輩である。

相当な秀才でありながら、剣術にも優れた男だが、ショカツリョウと同じくなかなか仕官につかないでいた。

それは、人の道に背いたわけではないが、以前に人を殺める罪を犯してしまっていたからだった。


それがリュウビに召抱えられたというのは、この地の名士でありショカツリョウたちの師のひとりである、水鏡スイキョウ先生からの紹介があったからだという。


「姉上?」


食事の手を止め、黙ってしまったショカツリョウを見て、ショカツキンが声をかけた。


「・・・なんで水鏡先生は、私じゃなくてジョショさんを紹介したんだろう。」


ショカツリョウは、明らかに不機嫌になっている。


「だって、姉上は仕官先があったら仕官したいなんて先生に言ってなかったじゃない。」


「・・・・・。」


「ジョショさんは先生に頼んでいたんだって。そうしたら、リュウビ様が是非来て欲しいって。」


困っているような怒っているような顔で黙々と食べていたショカツリョウは、食べ終えると、シュウが出してくれたお茶を持って、自室に行ってしまった。


ショカツキンとシュウは、どうしたんだろう?とばかりに顔を見合わせた。



自室へ行ったショカツリョウは、茶を机に置くと、長椅子にごろりと横になった。


・・・リュウビ様の軍師になったか。

ジョショさん。


そうか・・・。


・・・・。



食事の片付けを終えたショカツキンがショカツリョウの様子を伺いに来た。


「姉上。お茶、もう一杯いかが?」

そう言って、ショカツリョウの部屋へ入ると、彼女は何やら荷造りしていた。


「姉上。何をしてるんです?」


「あー。明日からちょっと旅に行ってくるわ。」


ショカツリョウは突然思い立ったようにふらりと旅に出たりすることは良くあるので、弟のショカツキンは別段驚かなかった。


「そうですか。お気をつけて。」


「帰りがいつとか、わからないから。」


「いつものことじゃないですか。」


ふたりは笑った。







大陸のおよそ北半分を自身の勢力下におさめたソウソウが、次の標的を南へ向けるのは当然であった。

殊に、ソウソウ軍の首都からそう距離もなく、南方攻略の手始めに打ってつけの地、荊州に攻め入ろうというのは道理でもあり、そのソウソウ軍の攻撃の矢面に立たされるのはリュウビであった。

そのリュウビが近頃念願の参謀官を迎え入れたという情報は、すぐにソウソウに伝えられていた。


鉄は熱いうちに打て。


軍師が加わったばかりで、まだ足並みが揃わない状態の時に攻めれば勝てる。

ソウソウは即刻、荊州へ兵を送り込んだ。


だが、その読みは甘かった。


ジョショの指揮のもとリュウビ軍は、ソウソウ軍の攻撃を退け、ソウソウ軍は多数の死傷者を出した。


「ソウジンが敗れたのか。」


「ジョショという男、かなり軍学に精通しているようですな。」


ソウソウは、腹心で参謀のテイイクと戦果分析をしていた。

ソウソウは勝ち負けという結果だけでなく、その経過を重視し、次戦に生かすための分析を欠かさない。


「もちろん一気に大軍を投入すれば勝てるだろうが、犠牲はあまり出したくないしな。」


「・・・私に妙案がございます。」

テイイクの目が光った。


つづく。

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