名前と一日の疲れ。
短めです。
「それで、貴方はどういう名前が良いですか?」
あれから、必死に彼の名前を考えてみたが、どうも良い名前が浮かばない。
そこで、彼に直接聞いてみた。
「そうですね、別にテキトーで構いませんよ、ご主人様。それから私ごときに敬語は止めて下さい。ご主人様。」
「じゃあ貴方もご主人様呼びはよして。」
ご主人様呼びが無性に腹が立った私は彼にそう言った。
「いえいえ、遠慮しなくても良いですよ、ご主人様。ところで、今日は良い天気ですね。」
「おい、ぶっちゃけこの状況楽しんでるだろお前。」
「気のせいですよ、ご主人様。」
何なんだこいつは。ご主人様だなんてどこの召し使いだ。
これが仮に「飯使い」だったなら使う気になるのに。
「そんな下らない親父ギャグのようなものは止めて下さい。品が無いですよ、ご主人様。」
「いちいち語尾に『ご主人様』をつけるな!それと、人の心を読めたとしてもそれを本人の前で言うな!」
「すいません、お気に召しませんでしたか。」
「いきなりそう態度を変えられれば誰でもそうなるでしょうに。」
「では私は貴女様のことを何とお呼びすればよろしいのでしょうか。」
「普通に名前で。」
「かしこまりました。佳乃様。」
「様じゃなくてさんにしてくれない?」
「いえ、様付けは上からの命令なので……。」
「それを無視したらどうなるの?」
「支離滅裂な言葉しか話せない精神異常者になるらしいですよ。あくまで噂ですけど。」
「何それ怖っ。」
例えるならば、自転車の二人乗りを無期懲役にするのと同じくらい、お釣りが多いのを黙っていた人を終身刑にするのと同じくらい、理不尽だ。
「そろそろ眠りませんか?佳乃様もお疲れのようですし。」
大きな欠伸を一つした後に彼が言った。
なんだかとても眠そうだ。
「眠りたいのは山々だけど、そもそも眠る場所なんてあるの?」
「ありますよ。地下室ですが。」
「まさかの地下室!」
「私は屋根裏部屋で寝ますが。」
「それだったら私が屋根裏部屋で寝たいです!」
「それは困りました。地下室の方が広いですし、何よりお風呂がありますよ。」
「あ、そういえばまだ風呂に入ってない!」
彼の言葉で私は重大なことを思い出した。
ちなみに、一日の疲れを風呂で癒すというのが私の楽しみであった。
「入りたければ、地下室のお風呂を使って頂いて結構ですよ。」
「でもタオルや着替えが……。」
「そのことでしたら心配いりませんよ。まあそれは後で教えます。それより今は寝る場所をどうするかです。」
「地下室は絶対嫌です!」
なぜ私が地下室をそんなに拒むのかは、イメージの問題だ。
私の持つ地下室のイメージといったら、じめじめしいて薄暗い、といった悪いものかなかった。
「地下室はそこまで悪くは無いですよ。確かに日は入って来ませんが。それに、言っておきますが、屋根裏部屋はとにかく狭いですよ。あと、寝るとしたら私のベッドです。部屋がベッドに占領されているので布団を引ける広さもありません。それでも良いんですか?」
「別に気にならないから大丈夫!狭いといってもベッド一つ入る位の広さなら平気!」
広さの問題ですか、とつぶやいている彼がいたが意味がわからなかった。
散々狭いアピールをしてきたのは彼の方だ。
「……佳乃様は無防備過ぎると思いますよ。少しは疑って下さい。大体会って間もない男の言葉を信用するなんて危険です。」
会って間もない女に説教をする男もどうかと思うが。
「じゃあ私が貴方の言うことをすべて信じなかったとしたら、貴方はどうしたの?」
「それは……。」
「まあ私もすべての人を信用するって訳じゃないよ。こう見えて勘は鋭い方だし。ただ、何と無く貴方を懐かしく感じたから。そういえば、まだ会って数時間しか経っていないのか……。私には貴方が数年間一緒に過ごした友達のように感じるけど。」
「もしかしたら、私もそうかも知れません……。まだ数時間しか経っていないのにこんなに打ち解けた人は佳乃様が初めてですから。」
「そう。なら良かった。そういえば、結局タオルとかはどうするの?私は今すぐにでもお風呂に入りたいのだけど。」
「では今から取りに行きましょう。私に捕まって下さい。」
「も、もしかして、瞬間移動!?」
「はい。歩いて行くことは不可能ですからね。しっかり捕まっていないと振り落とされますよ。」
その言葉に恐ろしさを感じた私は、振り落とされないようにするべく、彼の腰に手をまわし、思い切り絞めた。
「ちょ、痛いです!力入れすぎですって!」
傍から見ればおかしな状況だが、仕方がない。
取りあえず彼の腰にある腕を少し緩めた。
「では、行きますよ!」
そう彼が言った次の瞬間、私はあの白い空間にいた。
いやーこんな薄っぺらい内容なのに時間がかかってすいませんね。
取りあえず、図々しくも感想をお待ちしています^^
ちなみに、主人公のフルネームは、星谷佳乃です!
苗字は使わなさそうなので本文には入れませんでした。