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死後探索  作者: 華織
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暇つぶし=料理≠成功。

彼が居なくなってから、私は暇人生活を満喫していた。普通の人は暇を持て余し気味になると思うが、私は逆に楽しんでいた。

まず、店内に飾ってある絵をじっくりと鑑賞する。

何と無く絵の枚数を数えてみたら、全部で十四枚飾ってあった。これが十三枚だったら何か意味があるのだろうかと無駄に心配することになるが、十四枚なら心配することはない。

私は安心して絵を眺めた。

見たところ、絵はすべてヨーロッパで描かれたようだった。日本画ではなさそうだ。


描いてあるものはさまざまで、可愛らしいフランス人形のような少女が描かれてあるものもあれば、いかにもダンディズムを極めました、と言いたげなおじ様が描いてあったりした。


絵に飽きた私は店内を物色してみた。

キッチンを調べてみると、いろいろな道具やコーヒー豆や、紅茶の茶葉があったりした。

冷蔵庫があったことには少し驚いたが。

こうして見ると、ただの喫茶店みたいだと思った。

こんなにも普通だとは予想していなかった私は一気に落胆した。

こうして私は普通の人と同様、暇を持て余すことになった。


鞄の中身をひっくり返し、何か暇を潰すものはないかと探すが、大した物は入っていなかった。

携帯はもちろん無い。

必死に暇を潰すような物がないかと考えていると、私の腹の虫が鳴いた。

今思えばそれが決め手になった。


私は冷蔵庫を漁った。中には……人参、玉(ねぎ)、じゃがいも、お肉……そうときたらもうあれしかない!と思ったが、もう一つの重要な材料がどこ探してもない。

調味料等が入っている棚にはさまざまな種類のスパイスが所狭しと並んでいたが、流石にスパイスからカレーを作ることが出来るほどの知識と腕を、私は持っていない。


仕方が無い。私はシチューを作ることにした。シチューのルゥーも無かったが、頑張ればホワイトソースから作れそうだと思ったからだ。


シチューはルゥーを使って作ったことしか無かったが、ホワイトソースの作り方は何と無くわかる。まあ、雑誌でちらっと見た程度だが。

材料に不足は無かった。小麦粉にバター、牛乳、おまけにブロッコリーもある。

白米は無かったがパンがあった。

材料が揃えばこっちの物。あとは調理をするだけだ。

私はまず野菜を切ることにした。

そこで、すっかり忘れていたのが包丁とまな板だ。

急いで探したところ、まな板は見つかったが包丁は見つからなかった。包丁が無ければナイフは無いのかと探したが、バターナイフくらいしか見当たらなかった。

仕方ないので野菜はまるごと煮込み、柔らかくなってからバターナイフで切ることにした。綺麗に切ることは出来ないと思ったが我慢だ。

野菜の皮は、ピーラーは何故かあったので、それで剥いた。

野菜を茹でている間、私は鶏肉をバターナイフで切っていた。が、やはり切りにくい。そのバターナイフは、少しだけ側面がギザギザしているタイプの物だったが、一回切るのに酷く時間がかかる。

私は何か肉を切るのにちょうど良い刃物を探すべく、キッチンをさ迷った。

そこで私の目に映ったのがキッチンバサミだ。しかも綺麗で汚れ一つ無い。一応洗剤で洗ったあと、切ってみた。切れ味は申し分ないが、違和感がある。まあそんな贅沢は言わないとして、作業に取り掛かった。


作業開始十五分。あることが作業を妨げた。

そう、小麦粉とバターの分量がわからないのだ。

小麦粉が多くなれば粉っぽく、少なければスープになってしまう。

ああだこうだと考えていると、野菜が良い感じになってきたのでバターナイフで切ってみたらすんなりと切ることが出来た。

小麦粉とバターの件は……まあ、良いだろう。テキトーで。

確か雑誌で見たレシピでは、小麦粉とバターの量は(ほとん)ど変わらなかったはずだ。

こうしてすべての準備が整った今、私はホワイトソースを作り始めた。

まず初めに、鍋を温める。温まったらバターを入れる。

バターが溶けたら小麦粉を入れ、ダマにならないように馴染ませる。

小麦粉がダマになったのでその部分を取り除く。

焦がさないように混ぜる。

焦げたので諦める。

鍋に焦げがこびりつく。

というのを何回か繰り返していると、彼が帰ってきた。瞬間移動で。

いきなり現れたので驚いて鍋をひっくり返してしまいそうになったが、何とか死守した。


「聞いて来ましたよ。オッケーですって。ていうか、貴女は人のキッチンで何をしているのですか?」

彼は冷めた口調で言った。


「見ての通り、料理ですが。」


「そうですか貴女は料理をするのにハサミをお使いになるのですか。」


「包丁が無かったもので。」


「そうですか。それはお気の毒に。」


「『お気の毒に。』じゃないですよ!何でピーラーや搾り器はあるのに包丁が無いんですか!」


「すいません。私が護身用に持ち歩いているものでして。」


「普通護身用に包丁持ち歩く奴いますか!?それにどうしてカレーのルゥーが無いんですか!?人参玉葱じゃがいもお肉と来たらカレーでしょ!」


「私はカレーよりシチュー派です。」


「貴方の好みなんか聞いて無い!じゃあ何でシチューのルゥーを置いて無いんですか!」


「シチューやカレーのルゥーを常備している喫茶店を私は知りません。」


「そんな常識に捕われた考え方は捨てて下さい!」


「それよりこれ、どうにかして下さいません?」


彼は焦げ付いた鍋を指さして言った。


「はい……。」


私には選択肢など用意されていなかった。




「しっかし、よくもまあここまで綺麗に焦がしましたね……鍋……。」



黒焦げになった鍋の中身を覗き込みながら彼が言った。

確かにまんべんなく黒く焦げ付いた鍋は、私も今まで経験したことの無いような綺麗な焦げ方をしていた。


「………ホワイトソースなんて作ったこと無いんです。仕方ないじゃないですか。」


私にはそれくらいしか言い訳が思いつかなかった。

もともと料理は上手い方では無かったが、まさかここまで自分が出来ないとは思っていなかったのだ。


「あ、これホワイトソースだったんですか。気がつきませんでした。」


「さっきからシチューシチュー連呼していましたが気がつかなかったんですか。」


「そうですね。シチューがホワイトソースから出来るというのは知りませんでした。」


「あの……話題を変えますが……。」


私は少し控え目に発言をした。


「はい…何でしょう…。」


はたしてこの人に頼って良いのか。そのことだけが私の脳内を占めていたが、私はもう限界だった。



「貴方……………料理、出来ます?」


「………………はい?」




*********


「おお意外! 貴方目茶苦茶料理上手じゃないですか!」


彼の作った料理は意外にも美味かった。

あまり期待はしていなかったが、彼に調理を任せて正解だったことはとても喜ばしい。これでもし彼が料理下手だったらと、考えるだけでもゾッとする。

作ってもらったのはもちろんシチュー。

自分で作っていた時点でシチューを食べる気が満々だった私は彼に大まかなレシピ教え、作らせた。

ホワイトソースの作り方を知らないはずの彼が一回で完璧に作り上げ、作り方を知っているはずの自分は何回やっても焦げる。

これはあんまりだ。もしかしてシチューのお化けに呪われているのでは無いかと思ったほどだったが、そんなお化けはいないはずだ。

とりあえず、美味しいシチューを食べることが出来たので、良しとする。


「単純ですね……。

シチュー、まだ結構余ってますけどどうします?」


彼は結構な量のシチューを作っていた。私が大量に食べるとでも思ったのだろうか。確かに人より少しだけ多く食べることはあるが、それも二杯から三杯程度のレベルだ。軽く二十人前はあるその鍋の中身を一人で平らげるほど大食いでは無い。


「貴方、作り過ぎですよ……苦しい…。」


「何と無く多い方が良いかなと思ったんです。では、余ったのはまた今度にしましょう。冷凍しておきます。」


彼は大きな鍋を冷凍庫に入れようとしていたが、割合小さな冷凍庫には到底入りそうに無い。諦めた彼は、どこからかタッパーをいくつか持って来て、中身を移し替えていた。

そういえば、先程調理をしていた彼は驚くほど手際よく野菜を切ったり、ホワイトソースを作ったりしていた。

もともと器用なのだろうか。野菜を切るスピードもとても早かった。彼を家に雇えば、下手な家政婦よりもよっぽど良い仕事をしてくれるだろう。


「それから、先程も言いましたが、貴女は聞いていなかったようなのでもう一度言っておきます。貴女の条件が認められました。」


「おお、良かった良かった。」


「それで、その条件のことですが……。また新に追加されてしまうそうです……。」


「…………はぁ?」


代償がまだ足りないと言うのか。

とんだぼったくりだ。


「いえいえそうではなく。これは皆平等に受けられるそうです。どんな条件を選んだ人でも。」


「貴方はそのことを知らなかったの?」


「はい。私がガイドを勤めるのは貴女が最初ですから。」


初対面の時、あまりにも彼がすらすらと喋るものだからてっきり経験があるものだと思っていた。

しかし、三千年ガイドを勤めたことの無かった彼は、どんなに暇だっただろう。


「暇ではありませんでしたよ。ガイド以外にも仕事はありますし、私は人間界のことを勉強したりしていましたし。」


「そう……。それで、追加された条件って何?」


この条件を公にしないということは、よっぽど大切なことなのだろう。


「それは……、貴女が私に名前を付け、主従関係を結ぶことです。」


めんどくさい。

正直、そう思った。

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